〜Turn F〜


episode-01
〜楽しい朝食編〜


◆    ◆    ◆





「雑種、腹が減ったぞ」
「待て。いつものことながら何故にお前が我が家の食卓に堂々と鎮座してテレビのリモコンを独占しとるんだこのオイルレスリング野郎」
 いつも通りの清々しい朝。
 雀のチュンチュンという可愛らしい鳴き声を聞きつつ炊飯器のスイッチを入れた士郎は、さも当然とばかりにコタツに入ってテレビを見ながらミカンの皮を剥いている服のセンス最悪な見た目チンピラ風の英雄王を一瞥して深く深く溜息をついた。何故オイルレスリング野郎なのかは推して知るべし。衛宮士郎にとってギルガメッシュと言えばオイルレスリングであり、オイルレスリングと言えばギルガメッシュなのだ。
「むぅ、いつも言っておるように何故も何も無かろうが。教会はコタツがないから足下が寒いし、言峰の奴は食事中はテレビを見せてくれぬからな。我とて貴様が如き下郎の世話になりたくはないのだが、知人でCS加入している家は此処だけなのだ」
「なるほど。納得がいかねぇ。帰れ」
「うぉッ!? 本来なら相手が出て行ってから撒くはずの塩を直接ぶつけるな! 半分霊体だから痛いのだぞ!? うわ、マジイテッ! やめれ雑種!」
 やめない。
 霊験あらたか天然粗塩を、蟹にまだ青い柿をぶつけるが如くに投擲。投擲。
「わかった、許せ雑種! 十秒間だけ貴様の見たい番組に変えてやるから!」
「許さねぇよ」
「……雑種、貴様は酷い奴だな。我からセイバーを奪ったばかりか、朝のキッズステーションタイムまで奪うというのか?」
 そう言って、英雄王はミカンの皮を絞り酸っぱい汁を飛ばしてきた。
「塩で足りないなら線香を焚くぞ」
「むぅ、我の新宝具、“ミカン星人シャワー”が効かぬとは! 猫であったならば喰らっただけで猛り狂うというのに!」
 最近英雄王の全身にどうも引っ掻き傷がたくさんあったのは、この新宝具を空き地で練習していたためらしい。偶然それを目撃したランサーが写メールで画像を送ってきたのを見たから間違いない。
「……仕方がない。では、妥協案を一つ出そうではないか」
「なんだ?」
「今度から貴様を雑種ではなく血統書付きと……あ、ごめん。すいません。反省してますから煮えたぎった油は勘弁してください。命懸けで撮ってきた湯上がりライダーの素顔生写真あげますから」
 英霊は煮えたぎった油に弱い。何故なら大火傷してしまうからだ。どんな英霊が相手でも煮えたぎった油さえかければまず間違いなく勝てる、と間桐さんの家の臓硯お爺ちゃんも言っていた。
 臓硯お爺ちゃんは腹の中で虫を飼えるくらいの知恵者なので、町中の人が頼りにしている。ボケたふりをして息子の嫁を犯したという伝説も打ち立てたミラクルな御老人だ。慎二の本当の父親が実は臓硯お爺ちゃんだと言うことは、町の人間なら誰もが知っていることだが、深山町の人達はみんな優しいので誰もそんなことを口には出さない。顔には出す。
「……オリグー(オイルレスリングの略)、お前もワルよなぁ」
「ふっふっふ。伊達に最古の英雄王を名乗っておるわけではないぞ。我にかかればキャスターの生着替えとて容易い」
 湯上がりライダーの素顔生写真を懐にしまいながら、士郎はスッとミカンのおかわりをオリグーに出してやった。男と男が友情を深め合うために必要なアイテムとは、専らエロスだ。オリグーはその点ゲート・オブ・バビロンの中に一万を超える数のAVを抱え込んでいるキング・オブ・エロスなので、上辺だけでも付き合っておいてやると得をする奴上位ランカーだったりする。まるで中学生の友情みてぇ。
「時に雑種、セイバーはどうしたのだ? パジャマ姿のセイバーに抱きつこうとして反撃を喰らい生死の境を彷徨わないと、我はどうにも一日が始まった気がせぬのだ」
 オリグーは頭の可哀想な男なので、士郎は同情と蔑みがない交ぜになった微妙な顔で彼を嘲笑ってやった。こうすると、オリグーはどうしてだか凄く嬉しそうな顔をするのである。まるで、欲しかったトランペットを父親にようやく買って貰えた少年のような顔だ。
「セイバーならそろそろ起きてくると思うぞ。今日は水曜だし、東映チャンネルで『円卓の騎士物語 燃えろアーサー』を見るのが毎週のあいつの日課だからな」
「ゲェッ!? じゃあどっちにしろ我がキッズステーション見れないではないか! 謀ったな! 言峰にだって謀られてばかりなのに!! 写真返せ雑種!」
 オリグーは一日に平均約二十七回は人に騙される。どうしてそこまで人を信じて疑わないのか以前に聞いてみたところ、『真の王は人を疑ったりしない』などという感涙ものの答えが返ってきた。奴の王国は権謀術数なんてものとは無縁の素晴らしい王国だったのだろう。セイバーや凛、桜などは士郎の帰りが少し遅くなっただけでもまるで化学調味料を見る海原雄山のような視線を向けてくるのに。
 そうこうしている内に、セイバーが二階から降りてきた。
「あ、おはようございます、シロウ。今朝も寒いですね」
 そう言って、コタツに入って流れるように自然な動作でミカンとリモコンを奪取。ものの見事にオリグーシカト。
「シロウ、今朝の朝食はなんですか? 匂いから察するに、和食のようですが」
 士郎と他愛もない会話をしつつ、テレビに夢中のセイバーには死角になっている位置から、そろそろとミカンに手を伸ばすオリグー。だが、次の瞬間、その手に目にも止まらぬ速さで果物ナイフが突き刺さった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!!」
「今朝は大根の味噌汁に鮭の塩焼き、それと卵焼きだよ」
「ああ、大根の御味噌汁ですか。それは良い」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!!」
 喚き散らすオリグーを一瞥もせずに、セイバーの裏拳がその鼻っ柱を叩き折る。顔面を変にヴィジュ系な色彩感覚に溢れさせつつオリグー沈黙。長い間、応援ありがとうございました。





◆    ◆    ◆






「シロウ、お醤油取ってー」
「ほらよ」
「あ、イリヤちゃん、次わたしに貸してね」
「サクラ、その後はわたしに」
 衛宮家の食卓はいつも賑やかだ。セイバー以外にも、しっかり者の後輩に抜けてるお姉さんキャラ(しかも教師)、眼鏡ドジッ娘にぶるまぁ幼女が選り取りみどりと、まるで早朝の築地みたいな品揃えである。ギャルゲーも真っ青いえギャルゲーなんですが。
「タイガ、以前から聞きたかったのですが、御味噌汁にソースとマヨネーズを入れると美味しいのですか?」
「美味しいよー。セイバーちゃんもやってみるといいようんホントマジ最高」
「やめとけセイバー。藤ねぇはかつてリトルグルメを信じてご飯にチョコレートをまぶした程の傑物だぞ。真似したら常人は死ぬ」
 小学生の時やった人挙手。
「うぉ! 雑種、早く言わぬか! もう味噌汁に投下してしまったではないか!」
「■■■■■ーーーーーーッ!!!」
 哀れなことに、オリグーとバーサーカーは見事に大河の罠に嵌ったらしい。と言うより、この二人は毎朝嵌っている。バーサーカーが大胸筋をピクピクとさせながら怒りを顕わにする(だけ)のもいつもの事だし、怒ると逆ギレされるからとオリグーが泣き寝入るのもいつものことだった。
「そう言えば、サクラ。相談したいことがあるのですが」
「どうしたの、ライダー?」
「実は、最近わたしのことを盗撮している輩がいるようなのです」
 途端、懐を押さえる士郎と滝のような汗を流すオリグー。よく見るとバーサーカーも必死に口笛を吹こうと唇を尖らせている。吹けないのに。
「ライダーさんは美人さんだからねぇ。ストーカーかな? ねぇ、士郎は怪しい人とか見なかった?」
「み、見ィて無いでィーすェ?」
 思わずポルトガル人の真似をする士郎。
「バーサーカー、変な奴とか見た?」
「●●●●●ーーーーーーッ!!」
 いつもは■でしか喋らないのに●で喋ってるあたり凄く動揺しているらしい。
 だが、そこで助け船が入った。
「タイガ、イリヤ。そんな事をするのが誰かなど、相場は決まっています。きっと言峰神父に写メール付き携帯を買って貰って上機嫌のランサーです。私も物陰から何度か撮られました」
「きっとセイバーの言うとーりでィーすェ!!」
「◆◆◆◆!!」
「うむ。クー・フーリンめ。今度会ったらブチのめしておいてやろう。ライダーの湯上がり素顔生写真を撮るなど、まったく許せぬ」
 途端、女性陣の攻撃がオリグーに集中する。
「ぐぉ! 何故だ、何故いつもいつもこのように理由無く我が集団暴行を甘んじて受けねばならぬのだ!? 助けてエンキドゥ!!」
「黙れ女の敵!!!」
 英雄王、ボコボコ。今は亡き親友に助けを求めながら、でも何処か嬉しそうだ。
「うぅ、悪いのは我だけじゃないのに! 嘘だと思うなら雑種の胸ポケットとバー作のパンツの中をあさってみるがよいゲハァッ!!」
「この野郎! 死ぬ間際に余計なこと言うんじゃねぇ!!」
「■■■■■ーーーーーーッ!!!」
 士郎とバーサーカーによるトドメがヒット。オリグー本日二度目の死去。短い間でしたが応援ありがとう! 疑瑠我先生の次回作にご期待ください。
「……シロウ、その胸ポケット、少し見せていただけますか?」
 ユラァリと、闘気を纏って近寄ってくるセイバー。その後方では桜の影から無数の蟲が湧き出し、ライダーは眼鏡を外そうとしている。
「ありゃ、ちょっとイリヤちゃん、これじゃ何も見えないわよ」
「えへへータイガ、あーそぼっ!」
 こういう時のイリヤの役目は大河を目隠しすることだ。台詞は無邪気ながら、士郎とバーサーカーに向けるその目は鶏を絞め殺す時のお父さんのような目をしている。
 ちなみに、家がどんなに壊れようともアーチャーがすぐに直してくれるから誰もそんなことは気にかけない。『殺す時は全力でちゃんと殺すべし』が最近の衛宮家の家訓なので。決めたのは遠坂さん家の凛さんだが。
「えへへ♪ タイガ、だーい好き!」
「あらあら。もう、こんな時だけ子供なんだから」
「うわ、ちょ待て! タイムタイム! バリアバリア! そんな無体ないやごめん許して勘弁しておくんなはれそこ駄目だってばウワラバッ!!!」
「●●●●●◆◆◆◆ーーーーーーーッ!!!!!!」



 衛宮家の朝は、今日も平和だ。






〜to be Continued〜






◆    ◆    ◆





オマケ
登場人物紹介

衛宮士郎  この物語の主人公。桂正和風正義の味方を目指している。
 本編よりかは健全な男子的欲求の持ち主。風呂も覗きたいし美人の生写真も見たければ、AVだってそりゃ見たい。
 でも、バレると色んな人に折檻されるので我慢してる。
 何だかんだでオリグーやランサーとは男子中学生的なノリで仲が良い。お気に入りのAVメーカーはクリスタル映像。
 最近感動した映画は『ゼブラーマン』
セイバー  士郎の正妻。三度の飯より飯が好き。味噌と醤油と米があるので日本のことを尊敬している。本名はアルトリア。兄の名前はアストリアと言い、メリクルソードの使い手だったりする。
 元国王だけれど、その頃の食事はあまり思い出したくないらしい。雑でした。ツッコミに容赦がない。
 好きなTV番組は『円卓の騎士物語 燃えろアーサー』『怪傑ライオン丸』『百獣王ゴライオン』他。
イリヤスフィール・フォン
・アインツベルン
 ぶるまぁ星の王族アインツベルン家からやって来たマジカルロリータ。得意技は手足をもいだりねじ切ったりすること。
 本当はブルマスフィールって名前にしたかったのだけど余所様で既に使われてるネタだったので諦めた。
 凛のマブダチ。
 日本の特撮文化を敬愛し、円谷英二は神だと信じている。
藤村大河  虎の穴の厳しい修行に耐えて教員免許を取ってきた覆面教師。
 男と女が裸で抱き合って寝るとキャベツ畑に子供が出来ると信じている。コウノトリ否定派。
 好きなボクサーはタイガー尾崎。嫌いなボクサーはカーロス・リベラ。矢吹ジョーは嫌いだけどジョー東は好き。
間桐桜  蟲使いの少女。本気を出すとダイオウヤンマやウシアブ、王蟲ですら使役出来る。蟲は普段は影の中に格納中。
 清楚で淑やか、慎ましく、絶滅寸前の大和撫子かと思わせておきながら一度キレると手に負えないって設定も実はお約束な気がしてきた。……でも、実際にあそこまでキリングしたヒロインはそうそういない。
ライダー  眼鏡のドジッ子お姉さん。本名はホセ子・メンドゥーサ。日系三世。良識人なのだが、類い希なるドジゆえに周囲を抑制することが出来ない。
 宝具は天馬の聖衣。一度見た技は通用しない。
 魔眼キュベレイを発動中はファンネルが使える。よって希望声優は榊原良子。
バーサーカー  愛称はバー作。真名はヘラクレスと見せかけて実は超人ハルク。本当はロリコンじゃないのに、喋れないから誰も釈明を聞いてくれない、孤高の年上好き。
 パンツの中は虚数空間になっており、色んなものが隠してある。
 実はプロ級に絵が上手く、趣味はキン肉マンU世に『僕の考えた超人』を投稿すること。
オリグー  ギルガメッシュ。しかし士郎も言峰も「ギルガメッシュと言えばオイルレスリング」という信念を貫いているため、いつの間にかみんなからオリグーとしか呼ばれなくなった。
 ゲート・オブ・バビロンの中には無限のエロアイテムが満ちている、まさしくキング・オブ・エロス。
 エロ雑誌に投稿するはずの葉書を机の上に出しっぱなしにしていたのを母親に見られ自殺。英霊になった。


Back to Top