〜Turn F〜


episode-02
〜愉快な登校編〜


◆    ◆    ◆





 女性陣にボコボコにされながらも、即座に復活出来るのだからギャグものは楽で良い。
 そんなことを考えながら、士郎は一人のんびりと学校へ向かっていた。桜と大河はそれぞれ先に登校している。この辺は本編とまるで同じだ。
 セイバーとイリヤは、今頃コタツでのんびりとテレビ三昧している頃だろう。昼間はそれしかすることがないとは言え、仮にも元王侯貴族なお二人が日がな一日ずっとアニメと特撮ばかり見ているというのは流石にどうかと思う。これじゃドラえもんどころかオバQ並に駄目居候だ。
 ……もっとも、イリヤが本当にぶるまぁ星のお姫様なのかどうかは、今は亡き切嗣しか知らないことだが。
(オヤジ……あんたは、本当にぶるまぁ星に辿り着いていたのか?)
 士郎の養父である衛宮切嗣は、宇宙ぶるまぁ探検家だった。何処の組織にも属していない、いわばフリーのぶるまぁハンターで、魔術の力を駆使してぶるまぁ溢るる星の海を渡り続ける正義のぶるまぁアウトローだったのだ。
 切嗣がまだ士郎を引き取るよりも前、彼は重力とぶるまぁに支配された宇宙の墓場、ブルマッソー宙域に囚われて脱出不可能となっていたところを、ぶるまぁ星のパトロール隊に救助されたのだという。そして辿り着いた先のぶるまぁ星のプリンセスと恋に落ち、イリヤが生まれたと言うわけだ。
 だが、切嗣はそこで立ち止まるわけにはいかなかった。彼は九のぶるまぁを手に入れるためなら、一のぶるまぁを犠牲にするという気高い理想の持ち主だったからだ。
『必ず戻ってくる』
 妻子にそう言い残し、切嗣は地球に帰還した。
 そして、この世の全てのぶるまぁを我がモノとするために聖杯戦争に参加したのだが、聖杯は彼が思っていたような願望器ではなかった。聖杯戦争の果て、聖杯からは煮えたぎった油があふれ出し、五百人以上の死傷者を出す大惨事となってしまったのだ。
 油にまみれた町を生存者を求めて彷徨っていた切嗣が、唯一見つけた生存者。それが当事十歳にも満たなかった士郎だった。
 切嗣に引き取られ、彼の大ぶるまぁ叙事詩を士郎は目を輝かせながら聞いた。普通の人なら「オッサン、頭おかしいんじゃねェか?」と言うに決まっている出来事だが、士郎は切嗣の言うことを信じた。ぶるまぁを見る切嗣の目は、フェイスフラッシュを浴びたドブ川のように澄んでいたから。
 そして五年前、切嗣が息を引き取った時、士郎は誓った。
 養父の理想は自分が引き継ぐ、と。
 自分もいつか、きっとあんな風に澄んだ目の出来る漢になってやるのだ、と。
「……でも俺、ぶっちゃけ靴下さえ履いててくれたら何着てようとあんま気になんないんだよなぁ」
 ――さよなら、養父の理想――





◆    ◆    ◆






「あら衛宮くん、おはよう」
「お、遠坂。オース」
 凛の靴下の色が今日も白であることを確認しつつ、元気に挨拶を交わす士郎。やはり靴下は白でなくてはいかん。
 以前、セイバーが凛や桜と衣類を買いに行った際、買ってきた靴下を白以外は全て天麩羅にして犬の餌にした程の士郎だ。もしも凛の靴下が白でなかった場合、天下の往来であることなど関係無しに彼女を押し倒し、無理矢理白い靴下を履かせていたことだろう。
「……士郎、あんたいくらなんでも靴下を見ながら挨拶するのは失礼極まりないわよ?」
「ああ、すまん遠坂。先日もライダーやキャスターが黒い靴下なんて履いてたもんだから、ちょっとピリピリしてた」
 ちなみに、あくまで美しい女性が白い靴下を履いているのが好きなのであって、使用済みの靴下そのものを欲しがったりするわけではない。その辺がソックスハンターとの違いなので、間違わないように。
「この町ではもう白い靴下以外は手に入らないように八方手は尽くしてるんだけど、なかなか巧くいかなくてなぁ」
 なお、主な協力者はランサーとアサシン先生。スポンサーは臓硯お爺ちゃん。
「……朝っぱらからあんま飛ばさないでよ」
 低血圧である以上に頭が痛くなってくる。ご愁傷様です。
 と、その時。
「ふむ。あの程度で手を尽くした、とは、片腹痛いな士郎よ」
「ちょっ! な、どっから出てくるのよアンタは!!?」
 凛のスカートの中から、ヌゥッと黒くて赤い弓の人が現れた。
「き、貴様、なんて羨ましい登場方法だ!!」
「フフフ。何なら次は胸の谷間から……すまん。失言だ。いくら私でも無いモノからは出てこれ……痛いじゃないか、凛」
 凛のフルスイング金属バットが後頭部に決まり、元から赤い外套がさらに赤く染まる。
「人のスカートをなんだと思ってるのよ! ったく……」
「まぁ落ち着け、凛。私とて別に単なるエロ心だけでスカートから現れたわけではないんだぞ。女性のスカートの中というのは、霊的に非常に安定していてだな。霊化したサーヴァントが効率よく魔力を蓄えておくには女性のスカート、もしくは胸の谷間が一番適しているのだ」
「ほ、本当なの?」
「マジそんな羨ましい設定なんすか弓山先生!!?」
「うむ。無論、嘘だ」
 現在暴行中。
 普段から英霊を殴り続けているためか、凛の拳は最近高密度の霊子に覆われて青白く輝くようになってきました。威力もランクA+判定なのでバーサーカーも撲殺出来ます。
「……わ、悪かったよ遠坂。俺、もう大丈夫だから」
 まるでエンディングの時みたいにボロボロになりながら、アーチャーは腫れ上がった顔でそう呟いた。
「お詫びに、そこのへなちょこ士郎では到底到達出来ない強化の魔術で、君のその見てて思わず涙がこぼれそうな程に貧相な胸を強化してあげよう」
「誰の胸が思わず涙がこぼれそうな程に貧相なのよ! ぶっ飛ばすわよ!? さっさと強化なさいよ! さぁ、早く!! 少なくとも桜より大きくならなかったら承知しないわよ!?」
 遠坂さん、鼻息が荒いです。
 アーチャーの襟首を掴んでブンブンブンブン。妹よりも遙かに小さいことを余程気にしていたらしい。
「凛……」
「なによ」
「んなこと出来るわけないではないか。君は馬鹿か?」
 思わず目を背ける士郎。未来の自分が原型がなんなのかわからなくなるくらいボコボコにされていく様は、正視に耐えない。
「お、落ち着け! 落ち着いてください凛さん! 一つだけ、本当にマジ一つだけ方法があるんです!」
 流石のアーチャーもこれ以上殴られ続けているとマズイらしく、薄ボンヤリとぼやけながら命乞いを始めた。今も未来も、衛宮士郎なんて所詮はこんなモノだ。
「……今度こそ本当なんでしょうねぇ?」
「う、うむ。間違いない。この世界の根源に連なる伝説の貧乳改善法だ」
「……未来の自分の発言ながら、怖ろしい程に胡散臭いな」
 だと言うのに、凛は真剣そのものの表情でアーチャーの詐欺紛いの口上に聞き入っている。
 士郎は、そんな凛の姿にかつて自分が通販でモザイク除去装置を買った時の事を思い出していた。信じていたのに……あんなに信じていたのに……!!
「いやいや、今度こそは本当だぞ。とは言え、これは生なかの苦労で到達出来る事ではない。だが……凛、君になら出来るかも知れない。魔術ではなく、魔法に到達することが……」
「魔法!?」
「そうだ。太古の昔に存在したと言われる、幻の第六法。失われたそれに到達しようとし、多くのオッパイ星人達が苦杯を舐めてきた。中には自らを死徒と化してまで挑んだ者もいたが、結局辿り着くことは出来なかったようだ……」
「第六法ってバストアップの魔法だったの!!?」
「うん。そうよー」
 最後の最後で半目で鼻糞をほじりながら答えるとは、嘘だと言ってるようなものだったが、凛は既に何かに取り憑かれたようにブツブツと計算式などを呟いている。
「……こうしちゃいられないわ。士郎、わたし、今日学校休むから! ってゆーかしばらく休む! もしかしたら時計塔まで行かなくちゃいけないかも……それじゃ、先生によろしく言っといて!!」
 音の壁に挑戦するかのような超スピードで自宅へと駆けていく凛を、二人の衛宮士郎は何やら非常にいたたまれない表情で見つめていた。
「……どうすんだよ。遠坂の奴、信じちゃってるぞ?」
「いや、信じる分にはいい。今度ばかりは嘘じゃないからな」
「……そうなん?」
「そうなんよ。これが」
 事実は小説より奇なり。真実は偽りの何百倍も胡散臭かった……
「そう言えば士郎よ。貴様、ライダーの湯上がり素顔生写真を入手しておきながら、それがバレてあっさりと奪われたらしいな」
「……我ながら情けないけど、その通りだ」
「我ながらとか言うな。私まで情けなくなってくるではないか」
 同一人物というのも難儀なものである。
「とは言え、本当に情けないのは奪われた事じゃない。もっと別のことだ」
「? どういうことだ」
 やれやれまだわからないのかお前は本当に救いようのねぇ馬鹿だなこのバーカ、とでも言いたげな目で士郎を見た後、アーチャーはスッと外套の内ポケットから一枚の写真を取り出した。
「こ、これは! 今朝奪われたライダーたんの湯上がり素顔生写真!」
「……フフフ。まぁ、もっとよく見てみろ」
 そう言われて凝視してみると、なるほど。所々が違う。今朝奪われた写真の中のライダーは確か右手で前髪をかき上げていたが、この写真では右手は唇に添えられている。ツーか、瞳の潤み具合と言い頬の上気具合と言い、エロ度がそこはかとなく上がってる。
「こ、これいつ撮ったとですか弓山先生!!?」
 少年大興奮。すぐにでも写真持って帰宅して部屋に籠もりたい気満々。
「撮ったんじゃない。士郎、おまえ、オレ達の能力を忘れたのか?」
 そこまで言われ、ようやく士郎にも合点がいった。
「なるほど! 流石未来の俺! ゴッド! ゴッドマジックユー! ブラボーアンリミテッドブレイドワークスマイネームイズミスターウィッキーナイストゥーミーチュー!」
「はっはっは。いいから抱きつくなボケ。赤毛ザル。ウンコ野郎。とっとと離れないとその軟弱極まりない体を穴だらけにするぞウンコ」
 体を離し、清々しい目でお互いを見やる二人の衛宮士郎。
「それに、お前が到達するべきオレは、まだまだこんなものじゃない。見ろ」
 そう言うが早いか、アーチャーの隣に何かが投影され始める。
 多量の魔力がまるで放電しているかのように青白く燐光を放ち、大気を震わせる。
「こ、これは!!」
「そう、これが衛宮士郎がその一生を懸けて辿り着いた境地だ……!」
 細部にわたり、皺の一つまで見事に再現された各部。
 そう、ソレはまるで生きているかのような……
「1/1ライダーたんフィギア!!」
「ふはははははは。ご覧じたか。だがまだまだこんなものじゃないぞ、見ろ!」
 気合い一閃、次々と現界するフィギアの群れ。セイバーにキャスター、凛に桜、大河にイリヤ、何故か綾子と三人娘のフィギアまである。
「うぉおおおお! スッゲェ! マジスッゲェ! 宇宙スッゲェ!!」
 そのどれもが逸品中の逸品。逸品が織りなす小宇宙。小宇宙と書いてコスモ。コスメティックルネッサンス。ルネッサンス情熱。
「凄すぎる……弓山、俺泣けてきたよ……」
「フフフ。感動するのはまだ早いぞ」
「?」
「……ちょっと、スカートの端とか捲って見ろ」
 言われるがまま、ライダーのスカートを恐る恐る捲ってみると……



 士郎は、そこに――理想郷を見た――



「……俺、頑張って理想を貫いてみせるよ」
「ああ。やってみろ」
 現在と未来を越え、二人の一人の男は固く、固く手を握り合った。
 フィギア達が見守る中、二人はいつまでも微笑んでいた。










「あ、おまわりさん、あそこ、あそこですよ! えぇ。学生風の男の子と、変な格好した男が道の真ん中でおっきな人形のスカートを捲ってるんです!」
「ああ、君達。ちょっと署まで来て貰って……あ、待て!!」



 士郎は走った。
 アーチャーも走った。
 人は走ることをやめては生きられない。
 振り向くな、士郎。
 その命果てるまで、輝く未来に向かって――!






〜to be Continued〜






◆    ◆    ◆






オマケ
登場人物紹介と用語集

遠坂凛  この物語では数少ない常識人の一人。なれども貧乳コンプレックスがいささか激しく、アーチャーの口車に乗って現在は第六法へ挑戦中。
 桜の実姉で、『レッドデビルウィズゴッドハンド』の異名をとる武闘派でもある。ツッコミ役が長じてその手は超高密度霊子に覆われているため、霊体でも容赦なくブン殴ることが可能。
 イリヤとはマブダチ。でもスパッツ派。
アーチャー  衛宮士郎の未来の姿。あだ名は亜茶原弓山。士郎の『究極の投影』を否定し、『至高の投影』を掲げている。
 何度も何度も理想と女に裏切られた結果、捻くれすぎてどうしようもない嘘吐きになってしまった。趣味は凛をからかうこと。
 固有結界の中は見渡す限りの荒野となっており、その至る所に等身大フィギアが立ち並ぶ大魔境と化している。
 アサシンとは飲み友達。オリグーとはエロ仲間。
衛宮切嗣  故人。士郎の養父でイリヤの実父。宇宙ぶるまぁ探検家だった。前回の聖杯戦争時、セイバーのマスターだったのだが、ぶるまぁを履くことを強要した以外は彼女とはほとんど話もしなかったらしい。
 シャツの裾をぶるまぁに入れるか入れないかで言峰綺礼と対立し、結果彼に呪い殺されてしまう。ちなみに切嗣は入れる派で、綺礼は入れない派。
「女性と話す時は下半身を見て話せ」などと士郎を教育した諸悪の根元。
第六法  伝説の貧乳改善魔法。代々女性は貧乳に育つという呪われた家系、エルトナム家当主だったズェピアは、その呪いに打ち勝つために死徒ワラキアと化してまでこの魔法に挑んだ。シオンが貧乳なのもこの呪いのせいである。
 ワラキアはその身をオッパイ星人達の間を流通する噂、現象と化すことで仮初めの不死を得たが、しかし天然の巨乳であるアルクェイドには敵わなかった。メルブラ参照。


Back to Top