〜Turn F〜
episode-03
〜甘々買い食い編〜
「シロウ」 「誤解だ」 冬木市警察署の面々に散々頭を下げ、二人は帰路についた。もうすぐ午後の三時、これから学校へ行くのでは少々遅すぎる。 「先程から誤解だ誤解だと言いますが、誤解されても仕方のないことをしでかしたのは貴方でしょう?」 士郎を引き取る際、馴染みの警官から聞いた彼がぶち込まれた理由は、思い出すだけでも頭が痛くなる内容のものだった。まさか、天下の往来で等身大フィギアのスカートを捲って大声で叫び散らしていたなどとは……それも自分ではなくライダーの。 「そう言えば、朝もライダーの写真を大切そうに持っていましたし、本当はライダーのマスターになりたかったのではないのですか、シロウ?」 セイバーの目が怖い。怖いどころか痛い。 ここで正直に「実はそれもちょっといいかナーと思ってた」なんて答えたら、きっとナマスだ。短冊だ。微塵だ。五枚におろされ食卓に並ぶ。 「いや、だからそれも誤解なんだ。朝のはオリグーに嵌められただけで、今回のも弓山の奴にまんまとしてやられただけなんだ。ツーかあの野郎自分だけとっとと逃げやがって……あんな奴が俺だなんて信じられねー! 俺は悪くない。悪いはずなんて無い。だって俺は正義の味方だぞ? 正義の味方が悪にしてやられて捕まってしまう、なんてよくありそうなパターンじゃないか! と言うか大体こうなったのもセイバーがライダーやキャスターに比べてツルペタリーンのツンツルテンだからで、しかもHシーンの髪おろしたセイバーを発売前のサンプル画像で見た時はてっきりイリヤのHシーンなんだとばかりに思ってたんだぞ? そしたらいざやってみればセイバー、お前身長154cmってどういうこったよ!? どうなのよ、これどういうことなのよ! もっと普通に大きいのかなぁとか思ってたのに平然と澄まし顔で裏切りやがってでもその澄まし顔が可愛いんだよコンチキショーどうしてくれるんだコンチキショーコンチキコンチキ……すいません。やっぱ俺が全面的に果てしなく悪かったです」 感情の赴くままに思わず暴露トークを始めてしまった士郎に、眼光一線。 死んだ。視線で死んだ。ちょっと気持ちよかった。でも死んだ。たった一度睨み据えただけで、この身を七度も滅ぼすとはー! 「シロウ」 「はい、なんでせう」 「私は甘いものが食べたい」 「承知いたしましたでございますです」 士郎の精神はもはや犬のソレも同然であった。 犬の躾と子供の躾はドイツ人に任せろ、なんて言葉を聞いた覚えがあるが、イギリス人にも当てはまるのだなぁとか思いつつ、士郎はセイバーに手を牽かれて商店街へと向かった。……ロビンマスクは子育て失敗したのに、おかしな話だ。
日がな一日家でゴロゴロしているセイバーにドラヤキを買い与えると、正真正銘未来から来た青ダヌキになってしまう恐れがあるため、士郎は見た目に可愛い萌えアイテム、クレープを買い与えることにした。 「クレープとは初めてですが、これは……とても美味しい」 両手でチョコバナナクレープを持ってコクコク頷きながらハムハムと食べる様は、もはや可愛いなどと言う次元では語り尽くせないほどにイッツソーファイン。連れ去りたいほどにソーキュート。愚息はスタンディングオベーション、震えるハートは燃え尽きるほどにヒートしっぱなしだ。ぶっちゃけありえない。もう駄目ぽ。 断っておくが、衛宮士郎はロリコンではない。まな板が好きなわけでもなければ別段金髪に思い入れがあるわけでもない……プレイメイトは好きだけど。むしろ好みで言うならライダーやキャスターにハァハァする人間だ。 だが、そんな士郎をもってしても今のハムハムクレープセイバーたんは見ているだけでサティスファイなのだ。このカタカナ横文字の多さが士郎が如何にハァハァしているかの現れだと言っても良い。松本零士の古い短編などでは男女の交わりのことをハァハァと表記していたが、そのくらいハァハァだ。 「どうしたのですか、シロウ? 欲しいのですか? あげませんよ? と言うよりももう食べ終わってしまいましたよ?」 「……ハァハァ、じゃなかった。もう食べ終わったのか。相変わらず速いな……畜生」 「シロウ、それでは私がやたらと食い意地が張っているように聞こえるではありませんか。訂正を願います」 もはや決まりきった定石の一手、セイバーのお約束のセリフが炸裂した。本来ならここも萌え所なのかも知れないが、しかし今の士郎にはあのコクコクハムハムが忘れられない。あれは忘れえぬ青春の幻影だ。心のメーテルだ。タイムマシンがあったなら何度でも繰り返しあの時間にだけ戻りたい。土蔵の中に先祖が遺した航時機の設計図とか無いのだろうか? なんであの養父はそういう肝心なものを何一つ遺してくれなかったのだろう。それどころか使用済みのぶるまぁばっかり遺しやがってが! 「シロウ?」 「土蔵の中がぶるまぁばかりで切嗣が許せぬ!!」 「いえ、その意見には賛同しますが、さっきからブツブツブツブツといったい何があったのですか?」 どうやら口に出していたらしい。 「いや、なんでもない。うん。とてもとてもなんでもない」 ドリーミングワールドから名残惜しく帰還。 さて。ふと見てみるとセイバーがやたらとソワソワしている。 この表情は、アレだ。おなじみのお約束その二だ。 「お代わりが欲しいのですが、私誇り高き王様ですし恥ずかしくてとてもそんなこと言えませぬ」な表情だ。 神様ありがとう〜僕に英霊をくれーてー♪ セイバーに逢わせてくれてー セイバーに逢わせてくれてー ありがとう僕の英霊 セイバーに逢わせてくーれーてー♪ 「さぁセイバー。遠慮せず、たーんとお食べ」 「よろしいのですか? 今月は、もう小遣いがピンチだと……」 「構わぬ! 衛宮士郎は退かぬ! 媚びる! 省みぬ!」 セイバーにクレープのお代わりを手渡しながら、士郎はこれ以上ないほどの誇らしい笑顔で親指をグッと立てて見せた。 そうして、セイバーはコクコクハムハムし続けた。 士郎は次々とクレープ屋にクレープを焼かせ、ハァハァし続けた。 この愚かしくも健気なループは、日が暮れても尚続いたのであった。 「……で、セイバーちゃんまで一緒になって、今度はいったい何してたんだね? 代金不足だなんて」 「……面目次第もございません」 「……コクコクハムハムだったとですよ、お巡りさん」 「は?」 |
〜to be Continued〜 |
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お巡りさん | 冬木市警察署の留置場管理責任者。いわゆる看守。聖杯戦争の関係者が何かやらかすたびに世話になっている馴染み深い人。 セイバーと同い年くらいの娘さんがいるのだが、最近はまともに口をきいてくれないのが寂しいらしい。そのため、セイバーが来る度に嬉しそうに世間話を持ちかけてくる。 名前は小暮さんという。なにせ登場人物の半分以上が犯罪者予備軍なのため、今後もたびたび登場する予定。 |
冬木市警察署 | サーヴァントですらしょっ引くことが可能な非常に有能な警察署。地下には20人ほど収容可能な留置場がある。 なお、身元引き受け以外にもセイバーはしょっちゅう痴漢や引ったくりを撃退して感謝状を受け取っており、署内でもちょっとした有名人として通っている。 他の駄目人間達にちょっとはその爪の垢でも煎じて飲ませた方がいい。絶対に。 |
商店街 | 例の中華料理店・泰山がある商店街。お祭り好きな住人が揃っており、時折買い物に訪れる礼儀正しい金髪の外人少女をアイドルとして崇め奉っている。 他にも『メガドジライダーさんFC』や『深山キャスター擁護愛好団体』、『冬木ぶるまぁ裾入れ独立解放戦線』などいかがわしい組織の本部が乱立しているという噂もある。 ちなみに、アーチャーやランサーの行きつけの飲み屋もこの商店街にある。 |