〜Turn F〜


episode-19
〜カレンが来た編〜


◆    ◆    ◆






「なぁ、弓山」
「なんだ槍チン」
 間もなく陽も沈みきろうかという秋の夕暮れ。
 アーチャーとランサーは人通りの絶えた路地を何の気はなく歩いていた。
 特に目的があるわけではない。ただ、今日はアサシンも葛木も用があるため、なんとはなしに二人でブラブラしているだけだ。他に誰か誘おうかと思ったが、たまには二人で飲みにくり出すのもいいかも知れない。
 しかし秋冬というのは不便な季節である。陽が暮れてもまだ居酒屋が開く時間ではない。結局、先程までは喫茶店でコーヒーを飲みつつ時間を潰していたのだが、一杯で五時間粘ったところで追い出された。
「いや、なんだっつーこともねぇんだがよ」
「うん」
「人通り、少なすぎやしねぇか?」
 アーチャーも気付いていたことである。
 元々人の往来が多い路地ではないが、この時間なら学校帰りの中学生や高校生がチラホラと見受けられるはずなのだ。だってそれが目的でここ歩いてるんだもの。
「槍チン、お前確かこの間また盗撮して追いかけ回されてただろう。ついにこの路地にも変質者注意報でも流れたのではないか?」
「ゲッ、マジか!? 畜生、ここ穴場だったのによぅ」
 畜生とか毒づく以前にまったく畜生にも劣る会話である。ランサーの両肩がさも残念そうに垂れ下がる。アーチャーの表情も実に味気なさそうだ。
 つまらん、と唸りつつ変態二人は路地の奥まったところまで辿り着き、
「……ん?」
 そこで、何者かの気配に気がついた。
「……弓山」
「……ああ、後ろだな」
 自分達の後方、何者かがジッと見ている。
 直感的に、それがとても嫌な類の視線である事を察し、二人は全身に力を行き渡らせた。こいつら、ただの変態に見えるが一応は百戦錬磨の英雄である。黙って不意打ちを食らってやるほどに甘くはない。
 一歩、二歩。
 先に進むたび、背に刺さる視線は鋭さを増している。
 相手は……一人。二人の研ぎ澄まされた感覚は、僅かに感じる気配、アスファルトを踏みしめる忍び足の間隔、呼吸量から追跡者の体格を推し量った。
 小兵である。
 背は低い。体重も、男だとしたら随分と痩せている。
 おそらく――
「……女だな」
「……ああ。呼吸からして、若ぇ」
「……十代半ばか」
「……多分な。問題は顔だな」
「……あと、スタイルと靴下だ」
「……そいつぁ大丈夫だ。予備の靴下がある。ふんじばって履かせようぜ」
「……槍チン、カメラは持ってるか?」
「……たりめーよ」
 追跡者がいっそ哀れでならない。
 二人は妄想の中で、襲いかかってくる少女の細腕を捻りあげ、嫌がる彼女に無理矢理白い靴下を履かせる様を想い浮かべ狂喜した。ウハッ、たまりませんな!
 さて。今か今かと待ちかまえていた二人に油断がなかったかと言えば油断だらけであった。だからこれは自業自得である。

 ――襲撃は、突然だった。

 風を切る音が聞こえたか聞こえなかったか。
「おおっ!?」
「くっ!」
 予想を裏切る剛の一撃。
 巨大な塊が、それと比べれば何とも細身なアーチャーとランサーの肉体をまとめて薙ぎ払う。二人の身体は一瞬たりとも持ち堪えることなく、そのまま吹き飛ばされ塀に直撃していた。



「……サーヴァントとは言え、不意をつけば呆気ないものね」
 二人を殴り飛ばした巨塊の影から、ゆっくりと、少女は現れた。
 拍子抜けもいいところだ。もう少し歯応えがあるものと覚悟していたのだが。
 二人が直撃し崩れ去った塀からは、濛々と土埃が上がっている。まさかこの程度で倒しきれたとも思わないが、あれだけの勢いで叩き付けられたのだからダメージは相当大きいだろう。すぐさまたたみ掛け、トドメを刺してしまいたい。
「さぁ、すぐにでもトドメを――」
「ちょいとオイタが過ぎるぜ、お嬢ちゃん」
「ッ!?」
 背後から聞こえた声に、少女の身体が咄嗟に飛びすさる。
「そんな……確かに殴り飛ばしたはず」
「殴り飛ばしたものをよく見てみるんだな」
 嘲るようなアーチャーの言葉に、少女は瓦礫と化した塀を見た。土埃のおさまったそこには、塀の破片に混じって粉々に砕け散ったアーチャーとランサーの身体が四散していた。
「……これは、空蝉」
 いえ、フィギュアです。
「フッ、驚いたか。我々は何しろ忍者のサーヴァントだからな」
「くっ! イレギュラークラスですか」
 いえ、大嘘です。ハッタリもいいとこです。
 そんな感じでコケにしつつ、二人は改めて少女の姿をじっくりマジマジと観察した。
 薄く不気味に灯る街灯に照らし出された、ウェーブのかかった長い銀髪。悔しげに唇を噛み締める顔は読み通り十代半ばと思われる。
 だが、それよりも二人の心を捉えたのはまったく別の事実であった。
「……そ、んな……バ、バカなッ!!」
「……し、信じられねぇ……ッ!!」
 英雄達の鍛え抜かれた肉体が、動揺のために硬直する。
 信じられない。こんな事が、果たしてありえるのか。
 戦慄する二人に余裕の微笑を投げかけ、少女はそのか細い手を振るった。途端、巨塊が動けない二人の身体を今度こそ吹き飛ばす。



「まったく、口ほどにもない」
 倒れ伏したランサーの頭を踏みつけ、少女の顔が喜びを顕わにする。
「ニンジャ、のサーヴァントでしたか? 無様なものですね」
 嘲笑し、アーチャーの顎を軽く蹴り飛ばす。
 アーチャーとランサーは何とかしてこの危難を仲間達に伝えようとしたが、奇妙なことに身体が言うことを聞いてくれない。確かにダメージは負ったが、まだ戦闘不能なほど酷くはないはずだ。それなのに、指一本満足に動かせないとは。
 唯一自由がきく目で、少女を睨め上げる。
 満足げに自分達を睥睨する少女の視線に、二人はなんだか新しい世界を発見してしまったのではないだろうかと胸を高鳴らせつつその意識を奪われていった。





◆    ◆    ◆






 秋の夜というのは寒いようで案外そうでもない。必要以上に厚着してくるとどうにも汗をかいてしまい気持ちが悪くていけない……夜も遅くに出歩かなければならなくなった理由も理由なため、士郎は苛立たしくて仕方がなかった。
「ったく、なんで俺達が槍チンなんかを探さなくちゃいけないんだよ……」
「仕方ないではありませんか。アンリに頼まれたのでは断れません」
 ブツクサと文句を言いつつも結局は真面目にランサー探しを引き受けている士郎を宥めながら、セイバーの視線が青い全身タイツを求めて彷徨う。

 ――ランサーが夕飯の時刻になっても帰ってこない――

 別にそう珍しいことではない。全日本白い靴下愛護協会冬木市深山町支部定例会の時以外でも、気が向けばアーチャーやアサシンと連れだって飲みに行く事も多いのだし、心配しなくても大丈夫だろうと皆口々にそう言ったのだが、それでもあの変態兄貴の身を案じてしまうのがアンリという少女であった。
 彼女が言うには、ランサーは突然飲みに行くような場合でも必ず『今日は晩飯いらねーわ。悪ぃな、アンリ』と電話をくれるのが常らしい。
 その電話が、今日は無かった。
 今にも泣き出してしまいそうな声で『槍チンさんを探すので手伝ってください』と頼まれては、一体誰が断れるだろう。
「……槍チンめ、見つけたら三発くらいブン殴ってやる」
「そうですね。アンリに心配をかけるなど……その点だけは彼は大丈夫だろうと信じていたのに」
 他の誰に対して不誠実でもアンリに対してだけは面倒見のいい兄貴分と言うのが周囲のランサーに対する評価である。が、今回のようなことがあると認識を改めなければならないかも知れない。これじゃただの変態盗撮魔だ。
「他のみんなもまだ見つけられないでいるようですね」
 携帯を確認してみても、それらしい着信はない。
 凛の話ではアーチャーも所在が確認できないらしいので、おそらく二人は一緒にいると思われるのだが……
「仕方ない。新都の方まで探しに行くしかないか――」
 この時間からだともうバスも無い。難儀なものだがそうするしかないかと二人が踵を返した時、街灯の下に見慣れた影が見えた。

「……槍チン……それに、弓山?」

 誰あろう。そこに突っ立っているのは探し人、ランサーと、アーチャーである。
 そう、二人だった。よく知る二人のはず、だった。
「……シロウ」
 セイバーの声が、険を帯びる。
 言われるまでもなく、士郎も自然と構えをとっていた。
 様子が、おかしい。
「おい、二人と――もわぁっ!?」
 無言のまま、アーチャーの拳が今の今まで士郎の頭があったはずの場所をえぐるように通り過ぎていく。咄嗟に避けることが出来たのは、普段嫌と言うほど女性陣に殴られていることが功を奏したためだ。
「俺、初めて遠坂の暴力に感謝したくなったよ。……ってそうじゃなくて、何すんだよ弓山、お前突然……」
「シロウ、二人とも普通じゃありません! ……あ、いえ、以前からこの二人は普通ではなくアレですが、兎も角、異常です!」
 ランサーの蹴りを避けながら、セイバーが叫ぶ。
 二人はまるで夢遊病者のように虚ろな表情で、ひたすら殴り、蹴りかかってくる。予備動作が大きいため避けるのは簡単だが、しかしわけがわからない。
「クソッ、どうなってんだ!?」
 こうなったら三十六計逃げるにしかずだ。二人に背を向け、全速力で撤退しようとした士郎とセイバーは、しかし走り出すことが出来なかった。

「――気に入っていただけましたか?」

 少女が、立っていた。
 何故こんな時間に――そんな疑問は、ハナから浮かびはしなかった。
 見ればわかる。尋常ではない。
 並ならぬ気配を放ち、そこだけ街灯の光からポッカリくり抜かれたような闇を背負って、銀髪の少女は嗤っている。
 闇は、蠢いていた。
 あの闇は獣だ。獣が闇のカタチをとって、いや――闇が獣のカタチをとって、少女を守るように波打っている。
「何者か!」
 セイバーの裂帛の気合いにも気圧されることなく、少女は士郎に挑発的な視線を送った。だが、その視線よりも何よりも、苦しいほどに激しく高鳴った動悸が士郎の全身を縛り付けて放さない。言葉を発しようにも喉の奥がカラカラだ。満足に瞬きすることすら出来ず、乾いた眼球が痛みを伴ってなお目を逸らせない。
「何者か、と訊かれた以上、答えるのが筋でしょうね。私は、あなた方を知っているのだし」
 少女の目がスッと細められ、慇懃な態度で僅かに頭を垂れる。
「私は、カレン――」
 厳かに、名が、紡がれる。



 力の限りに、士郎は自らを捕らえた束縛に抗った。
 喉が焼けてもいい、目が潰れたって構わない。
 今にも斬りかからんばかりのセイバーのことも、夢遊病者のようにフラフラと立ちつくすアーチャーとランサーのことも顧みず、士郎は自らをカレンと名乗ったその少女を見つめ、全力で、腹の奥底から絞り出すように――叫んだ。










「す か ー と は い て な い !!!」










 秋の風がカレンの上着の裾を捲り上げる。
 その下に、果たしてスカートは存在していなかった。





◆    ◆    ◆






 風が吹いた瞬間に天国を見ようと思ったのですがあるべきものがありません。
 自分の見間違いかと思い目を凝らしてみたのですがどんなに凝らしても目に映る光景は変わらず両目に痛みが走りました。
「ぜってぇありえねーよ」と頑張って否定してみたけれど、どう見てもパンツです。
 本当にありがとうございました。





◆    ◆    ◆






「ちょ、なんでスカートはいてないのさ!? 何事だ! 何事だよ!? 何事デスか!? ぎゃわーっ! 信じられねバブレラッチョ!?」
 堰を切ったように喚き散らす士郎の顔面にセイバーの裏拳がめり込む。
 地面に真っ赤な大輪の花を咲かせ、士郎は撃沈した。
「……自己紹介の最中に申し訳ありませんでした。続けてください」
 それまで余裕綽々といった感じだったカレンは明らかにドン引きしていたが、促されたからには自己紹介を続けるしかない。
 まずは深呼吸。
 気持ちを落ち着け、平静さを取り戻し、今一度セイバーと向き合う。自らの鮮血にボコボコと泡をたたせている不気味な物体が視界に入ってまたも挫けそうになったが、そんなもの幻覚だとカレンは一生懸命自分に言い聞かせた。



「私はカレン。カレン・ド・スカートハクトシヌルンデス。のうのうと生きる罪人共にその大罪を思い知らせ、贖わせるために来ました」



「……あの、すみません」
 眉を八の字に顰め、頬をポリポリと掻きながら、セイバーはカレンにまずそう断りを入れた。
「なにか?」
 すっかり余裕を取り戻したカレンが鼻で笑いつつその先を促す。
「……その、もう一度、名前を聞かせてはいただけませんか?」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです」
 キッパリ。
 即答だった。
 顎に手をやり、セイバーが頭を捻る。
「……すみません、もう一度」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです」
「あ、よく聞こえませんでした。もう一度お願いします」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです」
「ワンスモア」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです」
「あ、ちょっとボーッとしてたようです」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです」
「……(´・ω ・`)」
「カレン・ド・スカートハクトシヌルンデスです! いい加減になさい!」
 ついに怒鳴られてしまい、セイバーは本格的に困った顔をした。
「……本名ですか?」
「本名よ! パスポートにも書いてあります!」
 意外に可愛らしいポシェットからパスポート等一式を憤然と取り出し、まだ疑わしげなセイバーの目の前に突き出す。手に取って穴が空きそうなほどに見つめてみると、確かに『カレン・ド・スカートハクトシヌルンデス』と書いてあった。
「……えー」
「えーって何!? 失礼な!」
 今にも掴みかからん勢いのカレンに取り敢えず謝って、パスを返す。
「今一つ釈然としませんが、すみませんでした。どうか私を許して欲しい、カレン・ド・スカートハクトシヌルンデス。……プッ」
「何がおかしいのか!?」
「いイえ、全然。おカしくナドアりまセンとも。エエ、はイ」
 頬を強張らせながら、必死に無表情を装う。顔痛い。
 憤懣やるかたないとばかりにこめかみの辺りをヒクつかせつつ、カレンはそれでも冷静であれと自分に言い聞かせた。ここで相手のペースに乗せられてしまうわけにはいかない。それでは何のためにこの国まで来たのかわからなくなってしまう。
「……そもそも、セイバー。貴女はスカートハクトシヌルンデスという名に覚えがあるはず」

「    _,  ._
  ( ゜ Д ゜ )  」

 全然。
 サッパリ。
 そもそもそんな名前一度聞いたら忘れるわけがない。
 一頻り頭を捻ってみたが、どうにも思い当たる相手がいなかった。
「……く、くくく、ふざけるのもいい加減に……ッ! 十年前、卑怯な手で我が父を殺めたこと、忘れたとは言わせない!」
「そんな! 私はスカートハクトシヌルンデスなどという名に聞き覚えは――」
「問答無用!!」
 怒りに燃える瞳がセイバーを射抜き、その手が振るわれると同時に闇の獣達が殺到する。
「誤解です!」
 右手にエクスカリバーを顕現させ、押し寄せる獣の群を斬り払いながら必死に訴えるも、カレンは聞く耳など持たぬとばかりに獣を差し向けてくる。
「くたばるがいい、罪人!」
 獣自体は大して強くもないが、何しろ数が多い。このままではジリ貧だ。
「仕方ない……」
 こうなったら術者本人に少しばかり眠って貰うしかないだろう。左手で握り拳を作り、セイバーは獣達を突っ切ってカレンへと疾駆した。

 ――だが――

「見え透いた手を! 私を守りなさい、二人とも!」
「なっ!?」
 その行く手をアーチャーとランサーが遮る。
「スカートハクトシヌルンデスは死霊魔術の名門、例え英霊であろうともマスターがその場にいなければこうして操ることも出来る!」
 勝ち誇り、哄笑するカレン。虚ろな表情のまま、弓兵と槍兵がゾンビのようにセイバーの矮躯へと手を伸ばす。
「手を出せないでしょう? 聖杯を取り合うことも忘れ、安穏とした日々を――英霊同士がお友達ごっこなんて反吐が出る! さぁ殺し合いなさい、サーヴァントならサーヴァントらしく。十年前、貴女のマスターだったエミヤキリツグが我が父に対し行った非道を悔いながら根源へ還れ!」
 その言葉に、ようやくセイバーは思い当たったとばかりに目を見開いた。
「カレン……まさか、貴女の父親とは――」
「もう遅い!」
 アーチャーの、ランサーの拳が、セイバーへと吸い込まれていく。意識を封じ操られた英霊の全力である。武装もしていないセイバーの肉体など間違いなく砕け散る。砕け散りながら後悔の海へと沈んでいけばいいのだ。
 許さない。
 セイバーも、士郎も、この町も。
 全て破壊し尽くしてやる。幸い、この土地には溢れんばかりの怨念が渦巻いている。少しばかり油臭いが、贅沢は言うまい。
「くたばれ!」

 ――そして、セイバーの身体が砕ける小気味のいい音が聞こえ――

「……ふんっ!!」
「グェッ!」
「ゴパァッ!」

 ――なかった。



「……ふぇ?」
「カレン、貴女の父親とはまさか……」
 悲愴な顔で問いかけてくるセイバーの足下には、崩れ落ちた赤いのと青いの。
「まさか――じゃなくて!」
 信じられない、とでも言いたげに。
「なんでそこで仲間を殴るのよ!?」
「……は?」
 自分が何を言われているのかサッパリわからないとばかりにセイバーは足下に転がるものを見下ろした。
「殴ってはいけなかったのですか?」
「普通は殴れないでしょう!? 仲間なんでしょう!? 友達なんでしょう!?」
「はぁ。まぁ、そう……のはずですが」
 チンプンカンプンと言った様子である。
「し、信じられない……」
 頭を抱え、ヨロヨロと後退ったカレンを不思議そうに見やり、セイバーは小首を傾げた。自分はまったくいつも通りに行動したつもりなのだが……どうもそれが気に入ってもらえなかったらしい。
「……う、痛っ……」
「……ぐぅ、ここは……オレ達は一体……?」
 正気に戻ったらしいアーチャーとランサーがフラフラと立ち上がり、周囲を見渡す。
「気がつきましたか、二人とも」
「ん、セイバー?」
「何故セイバーがここに……のわぁっ、私が死んでる!?」
 突っ伏したままの士郎を見て飛び退くアーチャー。どうやらこっちの復活にはもう暫くかかりそうだ。
「そうか……我々は確か」
「ああ、パンツ丸出しの女に襲われて、ついついパンツに見入ったところを……って、お前は!?」
 ランサーが指し示す先には、肩を震わせカレンが立ちすくんでいた。その姿に一体何があったのかを即座に悟る二人。
「貴様、パンツ女! そうか、今度はセイバーと士郎を襲ったのだな」
「畜生、パンツ女め……パンツでオレ達を惑わせやがって! このパンツ!」
 パンツパンツと囃し立てる英雄コンビ。その隣ではセイバーがあまりのことに苦虫を噛み潰したような表情をしている。恥ずかしくていたたまれない。……もう一度ブン殴って沈黙させるべきだろうか?
「……おや?」
 そんな風に考えつつこれはカレンもまた怒り心頭だろうなぁとそちらを見ると、さて。どうも様子がおかしい。口をへの字にし、肩を震わせ真っ赤になっているが、怒気を感じない。もっと湿っぽい、この感情は――

「パ、パ、パ、パンツパンツってそんな恥ずかしい単語連呼するなぁーーーーッ! バカァーーーッ! うわぁーーーーーん!!」

 途端、目から大粒の涙を零しながら背を向けたかと思うと、脱兎の如くに駆けだした。無論、可愛らしいパンツが丸見えである。
 三人は、言葉もなくパンツ――いやさカレンを見送った。
「……何だったのでしょう?」
「……さぁな」
「……わかんねぇ」
 真実は、パンツとともに夜の闇へと消えていったのだった……










 涙を拭い、空に浮かぶ月を、星を見る。
「う、うぅ……グスッ! あ、あいつら、覚えてなさいよぉ……罪人共め……絶対、絶対にゆるさないんだから……ヒック……っ!」
 負けてなどやるものか。諦めてなどやるものか。
 父の無念を、自分を辱めた復讐を果たすまで、挑み続けてやる。

 秋の夜空へ誓いを新たに。
 カレンの復讐は、始まったばかりである。






〜to be Continued〜






◆    ◆    ◆





オマケ
登場人物紹介と用語辞典

カレン・ド
・スカートハクトシヌルンデス
 死霊魔術の名門、スカートハクトシヌルンデス家の跡取り娘。前当主であった父親は十年前の第四回聖杯戦争に参加したが、初っぱなに切嗣によって倒された。家に送り届けられてきた遺体が苦悶の表情を浮かべ、さらに直接の死因と思われる「ブルマをはかされていた」ことが彼女の中でトラウマと同時に強い復讐心の素となっている。
 スカートハクトシヌルンデス家の魔術は丹田に気を溜めて行う独自の集気法に基づいており、外界から気(魔力)を摂取するために邪魔なのでスカートやズボンをはかない。また、いついかなる時もはかずに堂々としていることがスカートハクトシヌルンデス家の人間にとって何物にも代え難い誇りとなっている。
 魔術の行使中にズボンやスカートをはかされると集気した魔力が暴走を起こし、術者は死に至る。サーヴァントを召還中は常に術の行使中と同様の状態となるため、切嗣にブルマをはかせられたカレンの父はそのせいで魔力がオーバーロード、爆死した。
 ブルマを見ると暴走するためイリヤとアンリが苦手。あと、極度の恥ずかしがり屋であるためエッチな言葉とかに弱い。


Back to Top