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――――Fate/遠くから見る一夜――――





柳桐寺の山門前に二人の男が立っていた。

「おまえ、何のサーヴァントだ?」
「さよう。私はアサシンのサーヴァント、佐々木小次郎だ。」
「なっ!?……てめえ、普通自分から真名を名乗るか?」
「なに、たいしたことではないよ、ランサーのサーヴァント。
 私は佐々木小次郎に一番近いだけの偽者だ。それに本物だとしたら
 このようなものは持ってはいないだろう。」

そう言って佐々木小次郎と名乗った男は背中に担いでいた何かを下ろす。

それは、なんとゆうか…………うん…………地蔵。普通に地蔵。

「………………たしかにな。しかしあいにくだが俺の真名は言えねえぞ?」
「かまわんさ。我らはただ戦うのみ。」
「ああ……、上等だっ!!」

言い終わったと同時にランサーが迫り、紅い槍がアサシンに繰り出される。
しかしアサシンは地蔵を盾にその鋭い突きを防ぐ。その動きは地蔵の重さを
感じさせないものだ。すさまじいスピードで襲い来る槍を同じ速度で凌いでいる。
二人の戦いは動作に一切の隙も無く、凄まじい速度で繰り広げられていた。
しかし
地蔵で全てが台無し。
それが凄まじい戦いだけにその映像はかなりアレなものとなっている。

「貴様その…………武器?といい、技といい、本当にアサシンか?」
「先程にも言ったであろう。この身は偽者だと。」

唐突にアサシンが動き、手にした地蔵でランサーを殴打する。
ランサーはソレを紙一重でかわすが攻撃には移れない。
続けざまに放たれる地蔵。
ソレを避け続ける青い槍兵。
それがどのくらい続いたのか。
その戦いを見ている者が居たとしたらとうに帰っているだろう。呆れて。
そして二人は同時に距離をとる。

「チッ、冗談だろ。ただの地蔵でこうもやられるとはな。」

ランサーは心底やってられないといった表情で口にする。
実際にやってられないのだろう。

「フッ、これも地蔵のご利益だ。」

そうなんだ。

「さて、そろそろ終いにしようか槍兵よ。」
「ハッ!出来るもんならやってみな。」

アサシンが動き、それに応じるようにランサーも槍を構える。

「地蔵と言えども、本気にならなければ――――死ぬぞ。」

アサシンの手にしている地蔵がぶれはじめ…………なぜか飛ぶ。
空中を舞う地蔵はものすごい速度でランサーに迫り、

「なっ!?」

ズゴオォォォォォォォォォン

凄まじい音と爆音と共にランサーを飲み込んだ。

「――――まさか私の地蔵から逃れるとは思わなかったぞ、槍兵。」

晴れた煙の中からランサーが姿を現す。
致命傷はないものの体中に傷を負い、目は虚ろだ。

「地蔵が増える……だと?本当にふざけてやがる。」

訂正。死んだ魚のような目だった。

多重地蔵屈折現象――――地蔵がなぜか平行世界から呼び出され、
ジオ○グもびっくりのオールレンジ攻撃を行う、第二魔法とはまったく関係の無い鬼のような攻撃。

そんなわけのわからないもので死にそうになれば考える人も考えるのをやめて飲んだくれるだろう。

「さて、どうする。もう一度仕切りなおすかね?」

地蔵侍が尋ねる。

「ハッ!俺の任務は偵察だからな。任務が済んだ以上、
 このイカレタ場所から退散させてもらうぜ。」
「そうか。私はこの門より先に通すなと言われただけだからな。
 去ると言うのなら追いはしない。」

なんとか気を取り直したランサーはその場を去り、柳桐寺に静寂が戻る。

「今夜はいい月だな……。」

アサシンは再び地蔵を背負い夜空を見上げて呟いた。

その姿は全然決まっておらず
むしろ滑稽だった。




体は石で出来ている。

血潮は念仏 心は悟り。
幾たびの恩返しを越えて民話。
ただの一度の御利益もなく、
ただの一度も参拝されない。
彼のものは常に一人 門の脇で風雨に酔う。

故に、存在に意味はなく。
その体は、きっと石で出来ていた。





終われ。








あとがき
まず私の拙い作品を読んでくれた方に感謝を。
初めて書いたFateSS……地蔵です。
小次郎は好きです。
つーか蟲ジジイと慎二以外は全員好きですね。w
最後に企画に参加させてくださった忌呪様、ありがとうございました。
載せてくれたペキ姉さんにも感謝です。
では、また。







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