episode-16
〜怪獣無法列島〜
Part 2 再会する者達


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 伊豆半島、下田。
 東京壊滅から三日。撤退した戦力はゴジラ撃滅のために下田に集結していた艦隊と合流し、立て直しを計っていた。と言ってもほとんどは『武侠艦隊』アイアンロックスを旗艦とする下田の特自部隊で、他所から合流できた戦力はまったく微々たるものだった。陸海空自衛隊は東京壊滅時に全防衛力の実に二十%を損耗しており、東京以外、日本は特にギャオスに襲われるでもなく表向き静かなものだったが、それでも各地の防衛をおざなりにするわけにはいかず結果としてそうなってしまったのは致し方あるまい。
 米軍と防衛軍に関しても、世界各地ではギャオスの襲撃回数が増加し続けているため米軍は大半が大慌てで本国へ帰還。防衛軍もほとんどがその対処に駆り出され、東京奪還に戦力を貸し出す余裕はないらしい。
「不安と怖れが蔓延するこの息苦しさ……まるであの夏のようだ」
 アイアンロックス内、第一格納庫にてシオンはむしろ冷徹とさえ思える声ぶりで静かに吐き捨てた。
 あの夏も、こうだった。
 焦燥の中でいっそ冴え渡る思考、怒りと憎しみを超えてあらゆる事象に冷静に対処――していたつもりで、結局ここぞというところで若さが、付随する甘さが滲み出る。計算外の事態に陥ると途端に対処しきれなくなる脆さ……克服したと思いたいが、それすら考慮に入れてシオンは修理中のキングジョーを見上げていた。
 キングジョーも、スーパーXU改も再出撃可能にはどんなに急いでもまだ数日はかかる。完全な状態、となれば月単位で時間が必要となるだろう。特に酷いのは対熱線用の表面装甲、それにスーパーXU改のファイヤーミラーだ。ゴジラの熱線の威力については入念に過ぎる程計算を繰り返したはずなのに、その上でこのダメージ、しかも対ゴジラの究極兵器と目されていたファイヤーミラーに至ってはたったあれだけの時間反射しただけで溶解してしまった。
「これでは、怖れぬ方が無理か」
 自嘲気味に呟く。
 信憑性のない噂ではなく、完全な現実としての恐怖だ。東京壊滅は報道管制を敷くよりも先に既に国中が知ることとなっているが、確たる情報は出回っていないはずなのにゴジラ復活の報せもまた列島を震撼させている。十年という時を経ても、ゴジラの恐怖がこの国から拭い去られることはない。
 ……と、背後から足音が聞こえてきた。
「酷いものね」
 声の主はわかっている。
「ナルバレック」
 涼しい顔でシオンの隣に立ち、ナルバレックもキングジョーを見上げる。外装を外されたキングジョーの内部は最新鋭の電子回路と擬似的な魔術回路が張り巡らされ、入り組んだ迷宮のようだ。
「これが、ゴジラの……」
 ナルバレック、そしてリタと、シオンは二日前に挨拶程度だが再会していた。二人の目的はアルクェイド・ブリュンスタッドの確保。理由は、二人を伴って来たヴァン=フェムから説明を受けている。そのヴァン=フェムは、今頃は日本経済を支配する大物達と会合の最中の筈だ。キングジョーとスーパーXU改の修理には莫大な金の他に多くの優れた技術者が必要となる。その援助要請だった。
「とんでもない戦いだったようね、シオン・エルトナム」
「そちらこそ、二十七祖に加えて英霊と交戦したのでしょう? 聞きましたよ、六位のリィゾ=バール・シュトラウトに八位のフィナ=ヴラド・スヴェルテン。そしてアーサー王に、メドゥーサ……とんでもないのはお互い様です」
「ふふ。その辺は白翼公も大変だったようだけれどね」
 自分で言ってナルバレックは破顔した。自分達がつい三日前戦ったのは、世界を滅ぼす漆黒の破壊神に、闇の世界にその名を轟かす死徒二十七祖の二人、さらに伝説の英雄達……
 対して、自分達はどうか。
「あら」
「どうしました?」
 ナルバレックは「良いことを思いついた」とでも言わんばかりに、
「連中から見たら私もまだまだ小娘ってところね。これはステキな盲点だったわ」
 それからクックッと笑みを漏らした。
 ツッコミは……やめておいた方が無難だろう。シオンは黙って眉間に指を伸ばすと、軽く溜息を吐いて再びキングジョーに見入った。ナルバレックもそれに倣う。
「取り敢えずの修復が終わるまであと三日だそうだけど、本当にそれで大丈夫なの?」
「ヴァン=フェム卿はそう言っていました。私の見立てでも、三日あればギャオスやレギオンとやり合える程度には」
「そう。ギャオスやレギオンとなら、ね。でも本当にやり合うべきはギャオスでもレギオンでもないでしょう?」
 随分とあけすけに言ってくれるものだ。それでいて嫌みったらしく聞こえないのが不思議なのは底の知れなさ故か。
 ナルバレックの言う通りだ。ギャオスやレギオンを倒すのなら三日の応急修理でもなんとかなるが、ゴジラともう一度真っ向から戦うとなると完全修復どころかさらなる性能向上のために大幅な改修が必要となってくる。
 幸いと言っていいものか、海に消えたゴジラに新たな動きはないが、あれで死ぬような相手ならとうの昔に倒しきれている。未希もゴジラの生存は確実と言い、今もその所在を明らかにせんと必死で捜索を続けてくれている。出来れば捜索にもっと人員を割き、ダメージを受けているであろう今のうちに一気にケリをつけてしまいたいところだが、日本側としてはまず先に東京をなんとかしたいの一点張りで、大阪に設けられた臨時政府相手に黒木も第二次ゴジラ撃滅作戦を訴え続けているがおそらく聞き入れられやしないだろう。とは言え首都を正体不明の化け物にいいようにされたままではそれも当然かも知れない。
 東京は今や水晶の森と化していた。
 ORTが東京タワー付近に取りついたところまでは確認されているが、その後は不明だ。タワーを中心に二十三区内はほぼ完全に水晶に呑まれ、西東京、埼玉、神奈川、千葉など脅威に晒されている地区から人々はこぞって疎開している。特に危険なのは西東京で、北や東には今のところ侵攻する気配のないギャオスとレギオンだが八王子周辺はギャオスの初回襲撃地点だったせいもあってか今も我が物顔で闊歩しており、シェルターに避難したまま身動きの取れなくなっている住民の救助に公安を始め、“魔戒騎士”と呼ばれる退魔機関や“忍者”と呼ばれる異能集団が奔走しているらしい。しかし、出来る事と言えばせいぜいがそこまで。
 ギャオスとバトラによって制空権は完全に奪われ、地上にはレギオンが犇めいている中、それらを乗り越えても水晶渓谷内に踏み入れば水晶の餌食、しかも正体不明の強力な電磁波がこちら側のいかなる通信手段をも阻害してしまい中がどうなっているのか探ることさえままならないときている。その中心部にいるであろうORTを撃破するともなれば、それこそ総力戦だ。
「ゴジラか、ORTか……どちらにしても、戦力が足り無すぎる」
 そう、足り無すぎる。何もかもが。
 せめてどちらか一方だけであるのなら対処のしようはあったかも知れない。だが現在この日本にある戦力だけで両者の相手を同時にするのは到底不可能だ。
「けど、足りないからと言ってそれは他の国も同じ。自国の防衛も顧みず戦力を貸し出してくれる国なんて、まず無いわね」
 ナルバレックの言う通りだ。
 ギャオスの群発は各国に多大な影響をもたらし、東京壊滅はいつ自国も同じ目に遭うかと世界を震撼させている。
「臨時政府の方ではアメリカに頼んで東京に核を撃ち込む、とか言い出している連中もいるようだけれど、戦術核の規模で水晶渓谷を吹き飛ばせるかと言われれば正直微妙ね。かといって、戦略核なんて用いればどうなるか。……まぁ、それ以前にこの国が核をそう簡単に用いるとも思えないけど」
 核、ならば――特にこの国で核を使用した場合、物理破壊力もさることながら国民の核への認知度、二次大戦における核の被害に加えゴジラなど核によって生み出された存在に対する恐怖は概念兵器としても相当な威力を期待できる。国民感情が許さないとしても、シオンの意見としてはそれで確実にORTを倒せるのだとしたら核を使うべきだ。
 が、仮にそれでORTを倒せたとして、今も東京近海に潜んでいるであろうゴジラに核が与える影響を考えればやはり容易に用いるべきではない。目覚めたての状態であの力……戦略核の放射能など呑み込もうものならそれこそゴジラによって世界は終わりだ。
「さーて。いよいよ手詰まりかしら」
 手詰まり……その言葉を聞いて、不意に、シオンはナルバレックへと向き直った。
「手詰まりでは、ありません。私達は、まだやれることを全てやり終えたわけではない。手札が残っているのなら、全て使うべきだ」
「手札は残っている……ねぇ」
 ナルバレックがそれに気付いていないはずがない。
 ORTが――ヴァン=フェムの言う通り、ORTもギャオスもレギオンも全てがそうなら、ナルバレックこそその切り札を持っている。
 だから、シオンは頭を下げた。
「何のつもり、かしら」
 完全なる異端殲滅を生業とする埋葬機関の首領を相手に、普通に考えればこの頼み事は馬鹿げているにも程がある。相手がナルバレックでなければ、シオンも敢えて頭を下げたりはしなかっただろう。だが彼女なら、わかるはずだ。
「――お願いします、ナルバレック。“月飲み”を……黒翼公、グランスルグ・ブラックモアを解き放って欲しい」
 それは“鵬”とも呼ばれた史上最大の死徒。月をも飲み込むとされたその巨体は翼長実に数キロ。教会が撃破、封印した死徒の中でも間違いなく最大級であろう化け物、死徒二十七祖十六位。
 黒翼公、グランスルグ・ブラックモア。
「ふふ。シオン・エルトナム、貴女、グランスルグがいったい“どんな死徒か”わかっていて、頭を下げているのよね?」
「無論、です」
 知らなければ頼みやしない。
 元は人間、魔術師であったグランスルグが何故にそのような化け物と成り果てたのか、“月飲み”と呼ばれる巨体の秘密を知るからこそ、シオンは頭を下げているのだ。
「対死徒、吸血種への絶対能力……固有結界“ネバーモア”なら、おそらく水晶渓谷にも対抗出来るはず。違いますか?」
 シオンの言葉に、ナルバレックは満足げに頷くと「そうね」と答えて酷薄な笑みを浮かべた。
「ネバーモアならおそらく水晶渓谷に対抗出来る。水晶渓谷さえ無効化してしまえば自衛隊の戦力で東京奪還は可能かも知れない。けれど……問題は、その後よ。ネバーモアによってグランスルグがどのような状態になるかも、当然わかっているわよね?」
 それも、わかっている。わかっていてシオンは、
「……知っています」
 呻くように、呟いた。
「グランスルグは理性的な男だけれど、ORTにネバーモアを仕掛けてなお理性を保っていられるかの保証はないわ」
「承知の上です」
 ORTを倒せたところでグランスルグがそれに代わる驚異となっては本末転倒だ。けれど、シオンはナルバレックにこの手札を切らせるつもりでいた。ORTに手間取った挙げ句に核など使用されてはたまったものではない。まずはORTを倒し、東京を奪取して後顧の憂いを断つ。そして今度こそ万難を排してゴジラに挑む。
 星側も人類殲滅のために総力を結集してくるだろうが、どれだけの犠牲を払おうとも、その犠牲を悲しむ者さえ残らない未来だけはなんとしても避けねばならない。
「……全て承知の上で、それでもグランスルグを解き放ってくれと、そう言うワケね」
「その通りです」
 頭を下げたままのシオンを見下ろし、ナルバレックは苦笑するとその肩に手を置いた。
「取り敢えず、頭を上げなさい」
「ナルバレック?」
 優しげな物言いに恐る恐るシオンが頭を上げようとするが、肩にかかった手がグッとそれを抑え付けた。そのままナルバレックは「黙って聞け」とでも言いたげに口を開く。
「そんなに、グランスルグを解き放ちたいのね?」
「はい」
「何があっても、それでまずはORTを倒したいと」
「はい」
「じゃあ……その覚悟を試させてもらっても構わないわよね」
「はい。……はい?」
 急に抑え付けていた力が弛み、シオンは頭を上げた。その先ではナルバレックがこれ以上ないくらい邪悪に口の端を吊り上げている。してやられた、と思った時にはもう遅い。
「それじゃ何をして頂こうかしらね」
 今にもスキップでも踏み始めそうな雰囲気だ。
「ナ、ナルバレック! 私は真面目に――」
「私も真面目よ。私が枢機卿達と不仲なの、聞いてない? そんな女がかつて教会が総力を挙げて捉えた超大物を解き放とうというのだから、どうなるかわかったものではないわ」
 打って変わって真剣な顔でそう言われては、返す言葉もない。そもそもシオンとて等価交換を基本とする世界で生きてきた身だ、相手に無理を承知で頼む以上、対価を支払う覚悟はある。
 これまでに仕入れたナルバレックの情報、人格、自身で確認した人となりなどを総合し、彼女が望むものを割り出そうと全思考を集中させる。アトラスの計算式をもって、しかし目の前の女は常識を三回転くらいさせた挙げ句に平面図形を奥に向かって飛んでいくような相手だ、まともな解答の筈がない。
 観測し、計算し、解答を導き出そうとし――今の自分が支払えるもので彼女の利害に一致するものをシオンが数点選んだところで、
「そうね、決めたわ」
 ナルバレックの邪悪な笑みは、最高潮に達した。
 この笑みは、いけない。確実に自分の解答を裏切る笑みだ。
 そして。天衣無縫を地でいく埋葬機関首領は、自分の思いつきに満足げに頷くと、シオンを正面に見据えて――

「シオン・エルトナム。貴女、あらゆる友人、及び知人達が見ている前でシキ君に告白なさい」

 ――そんなことを、言い放った。
 シオン、硬直、二秒。
 思考の回復と動作の回復に生じたタイムラグはコンマ三秒。さらに口の動きに対して発声が対応するのに五秒もかかった。
 で。
 ようやく、叫び声が格納庫内に響き渡った。
「な、な、な……何を言っているのですかあなぱぱっ!?」
 あまりの事に舌を噛み、口許を押さえたシオンにキングジョーの修理をしていた全作業員の視線が集中する。
「シオンさーん、何かあったんッスかぁーっ?」
「りゃ、りゃんれもありましぇ――ッッ!! しゃ……ん、く……あー、さ、作業を続けてください!」
 普段の冷静沈着なシオンとは打って変わった剣幕に驚き訝しげに首を傾げながらも、真面目な整備員達はみんな「うぃーっす」とすぐさま作業に戻っていった。
「ナ、ナルバレック! だから私は真面目な話をしていると言っているではありませんか!」
「あら、妥当だと思うわよ? 私が背負うリスクと比べたらせめてこれくらいはして頂かないと」
「私が衆人環視の中で彼に告白するのとあなたのリスクにどんな因果関係があるというのですか!?」
 シオンの勢いは止まらない。それはそうだ。巫山戯た人物だとは思っていたがいくらなんでも限度がある。こちらは人類の存亡を懸けて話をしているというのに、そこにそんな色恋沙汰を……しかもどうして彼女が自分と遠野志貴に関する事情を知っているのか。
「……誰に聞いたのですか?」
「何を?」
「しらばっくれないでください! ……いえ、そもそも私は志貴に対して信頼と友情以外なんら特別な感情を抱いてはいませんが、そのようなあらぬ誤解を招いた元情報は誰から仕入れたのです? シエル……シエルですか!?」
 もしそうなら、不本意ながら錬金術師と代行者、今度こそ決着をつける必要がある。シエルの力は身に染みて知っているが、自分も一年前のままではない。計算上は、互角とまではいかないまでもかなりいい戦いが出来るはずだ。その上で策を尽くせば――
「シエルになんて聞いてないわよ。ただ自分で見たまま感じたままにそうだろうと思ったから言っただけなのだけど」
 余計にタチが悪い。
「誤解です! あなたの勘違いです!」
「……本当に?」
「本当です!」
「ふーん、そうなの。……それじゃあ、どうしてこの三日間一度も彼に会おうとしないのかしら?」
 途端、心臓を鷲掴みにされたかのような衝撃が走った。
 別にわざと避けていたわけではない。シオンは多忙だった。ゴジラとの戦いの後処理やこの先の戦いへ向けた準備でこの三日はほとんど寝てすらいない。そこでわざわざ時間を作ってまで彼と会う理由がなかっただけだ。久方ぶりに友人と会うのは吝かではないが、今はそんな時間さえ惜しいだけで……
「貴女も、シエルとそういうところが似てるわね」
 見透かしたような物言いだったが、腹は立たなかった。
「アルクェイド・ブリュンスタッドに遠慮してる? 恋人を連れ去られた男に会いに行くのは不義だとか?」
「そんな……ことは……」
 無い、とは言い切れない自分が苛立たしかった。が、仮に彼に会いたくなかったのが事実だとして、直接の理由はおそらくそうではない。会いたくなかった理由は、きっと――
「……いいわ、今回は貸しにしておいてあげましょうか」
「え?」
 悩むシオンの頬を撫でると、ナルバレックはスッと踵を返した。そのまま重たいブーツで軽い足音を立てながら格納庫の入り口へと進んでいく。
「グランスルグのことなら大丈夫よ。昨日、こっちに持ってくるように連絡しておいたから」
 振り返りもせずに、長身が廊下の向こうへと消えていく。
「ナルバレック!」
「あ、そうそう。シキ君の妹の……アキハさん? 目を覚ましたそうよ。こっちには、会えるでしょう?」
「え、ええ」
 ナルバレックの姿は、もう見えない。ただ声だけが、廊下と格納庫に反響しながらシオンの耳に届いていた。
「そっちの切り札も、期待してるわよ」
 それを最後に、足音も聞こえなくなった。
 思わず溜息が漏れる。
「……全て、お見通しですか」
 そういうところだけは、聖職者らしく思えないこともない。もっとも言い当てるだけ言い当てて、からかうだけからかって去るのが聖職者かと問われれば全力でノーと答えたい気分ではあったが。
 気を取り直して――
 シオンはもう一度キングジョーを見上げると、静かに素早く歩き始めた。そう言えば、以前ゴードンに歩き方がまるで軍人のように様になっていると言われたが、そんなものだろうか。シオンとしては別にそう意識して歩いているわけでもないのだが。
「……さて。もう一枚の切り札のもとへ行きますか」
 アイアンロックスは広い。秋葉がいる部屋まで普通に歩けば十五分はかかってしまう。
 少し、急ごう。
 肩の荷が僅かにだが下りた。人類の命運を懸けた切り札を抜きに、友人の心配をしても罰はあたらないだろう。





◆    ◆    ◆






「そう……私、三日間も」
 白い簡素な寝間着を着て、上半身のみを起こした秋葉はこの三日間のあらましを聞くとそう呟いて胸元へと手を伸ばした。今の今まで昏睡状態だったにしては血色は良い。三日間ほとんど寝ていないシオンや、付きっきりで看護していた翡翠よりもよっぽど健康的だ。
「運び込まれた時は本当に衰弱していたのですよ。身体も冷え切っていてまるで……全身から熱を奪い取られたかのように」
 シオンの言葉に、翡翠も静かだがハッキリと頷いた。姉がいないためいつもより気を張っているのだろう。シオンが部屋を訪れてからずっとリンゴと格闘しているが、普段料理をしないためか今一つ上手く皮を剥けないでいるらしい。味覚が壊滅的なだけで不器用なわけではないのだし、傍目には充分食べられそうなものだがどうやら本人的には不満なようだ。皮の一部を残していることから、ウサギさんを作りたいものと見える。
「心配をかけたようね、シオン。それに、翡翠も。ごめんなさい。そして、ありがとう」
 心から、すまなそうに、同時に心配してくれた事への感謝と喜びを込めて秋葉は小さく頭を下げ、首から下げた勾玉を照れ臭そうに手の中で弄んだ。その不可思議な鈍い輝きにシオンも翡翠も思わず目を奪われる。
「いえ。無事で何よりです」
 あの大島での戦闘の際、秋葉とガメラを重ね見ていたのは確かだが、本当に二者に関係があると琥珀から聞かされた時は流石のシオンも驚愕したものだ。そしてその全ての謎が、この勾玉と甲神島の遺跡に秘められているのだという。琥珀はそれを探るために稗田と共に甲神島に残り今も調査を続けてくれている。この情勢下、護衛をつけないのはいくらなんでも危険なため二人の護衛にはヴァン=フェムに頼んでドランガーを回してもらった。単体でギャオスやレギオンの群れを殲滅出来るあの大火力があれば、余程のことがない限りは安心だろう。
「それで秋葉……その、早速なのですが」
 昏睡から目覚めたばかりの友人に切り出すのはいかにも気が引けるが、かといって躊躇している猶予もない。幾分か淀みながら、シオンが本題に移ろうとするのを、
「いいわ、私から話すわ、シオン。でもその前に」
 秋葉本人が遮って、勾玉をシオンへと差し出した。
「触ってみてちょうだい」
 勾玉は光を反射するのではなく、それ自体が鈍い光を放っている。けれど指を近付けてみても特に熱を放っているわけではない。
 恐る恐る触れた瞬間、シオンは不思議な感覚に囚われた。
 それは最初、波の音のように感じられた。
 ゆっくりと、大らかに……光が弾け、炎が迸り、波と風の音に乗って歌声が聞こえた気がした。その歌声があまりにも綺麗で、切なくて涙が溢れてくる。
 涙が溢れる一方で、今度は何かが流れ込んで――違う。流れ込んでくるのではなく、内から湧き上がって全身を満たしていくのだ。
 やがて全てを満たし終え、今度は包み込まれるような――海をたゆたう、とても懐かしい記憶の揺りかごの中で、視えた。
 そこに、巨大な影が立っていた。
 圧倒される。その灼熱の業火のような生命力に。しかし同時に儚い蝋燭の灯火のようにも感じられる影は、よく見ればこちらに背を向けていた。何者かから庇うように、立ち塞がっているのだ。
 一体、何から――
 目を凝らし、影の向こうを見ようとした瞬間、
「視えたでしょう?」
「……あ」
 現実に引き戻された。
 目の前には秋葉の顔と、翡翠が差し出したハンカチがあった。
「私……」
「感覚が鋭い人間……いいえ、この場合は人間以上の感覚がそうさせるのかも知れないけれど、琥珀も翡翠も視えたそうよ。私のようにシンクロとまではいかないようだけれど」
 翡翠からハンカチを受け取り、目尻を拭う。感極まった、とでも言うのか、シオンはいつの間にか涙を浮かべていた。勾玉がもたらしたイメージはそれ程に深く、心を揺らしたのだ。
「百聞は一見に如かず、と言うでしょう? 口で言うよりも直に感じて貰った方が良いと思ったのよ」
「なるほど。確かに、これはその通りかも知れない」
 理屈で語られたならば、信じるにしても限度がある。特にシオンのような錬金術師なら尚更だ。が、今のイメージは、例えばそれ自体が罠だったとしても果たしてあそこまで深く柔らかな想いを抱けるものだろうかと……虚偽と疑うにはあまりにも純然過ぎた。
 青臭い事を言うタチではない。極限状態においても理性的に、計算高くいられないようなら自分のような者に価値はないとシオンは考えている。
 それでも、今のイメージは鮮烈だった。
「この勾玉は“彼”と間違いなく繋がっているわ。そして、彼と私を繋いでくれている」
 全面的に信じるのは危険だ。が、その当たり前の部分を差し引いても個人の感情としては『信じたい』と思わせるだけの力があった。
「ガメラは、生きているのですね」
「ええ。彼は生きている。今は深い海の底で傷を癒しながら」
 秋葉にはわかるのだ。
 今はそこまで深くシンクロしているわけではないが、三日前のダメージは本当に相当なものだった。あの戦いによって受けた傷が癒えるにはまだ暫くの時間がかかるだろう。
「ガメラは、味方なのですか?」
「味方……と考えていいはずよ。少なくとも、ガメラと意識を共有した時に私が感じたのは『守りたい』という一念だった……」
 そこまで言って、秋葉の身体が僅かに傾いだ。やはり、まだ完調とはいかないらしい。
「秋葉さま、せめて横になられた方が……」
「……ええ、ごめんなさい」
 ガメラとシンクロした時、秋葉はたくさんの人々の祈りの声を聞いた。ガメラは、その祈りに応えて生まれたのだとも。
 そして人々がガメラに求めた役割はどうあれ、彼は自ずから人類を守ろうとしていた。母なる星からすら見放された人類を、それでも守り抜こうとしてくれた。大切な人を守りたいという秋葉の願いにも応えてくれたのだ。
 横になり、勾玉を握り締めた秋葉を見やると、シオンは立ち上がった。
「シオン、もう行くの?」
「はい。長居して今のあなたにあまり無理をさせても悪い」
 秋葉はそんなことはないと言いたげだったが、翡翠が無言のまま遮るように布団を掛けたせいで何も言えなくなってしまった。無理しているつもりはないのだが、シオンと翡翠にあまり心配をかけすぎてしまうのも本意でない。
「ですが、もうすぐ志貴さまも来られます。せめてお会いになってからでは……」
「……志貴とは、いつでも会えますから」
 翡翠の申し出にシオンは軽く首を振ると、扉に手をかけた。
 志貴の名を出した際、一瞬シオンを覆った翳りに翡翠も秋葉も気付いていた。一年前、彼女が日本を去る際にも一度同じ表情を見ているし、その理由は志貴以外はみんな知るところのはずだ。
 だからこそ、それ以上は引き止められなかった。
「秋葉、最後にもう一つだけ訊きたいのですが」
「なにかしら?」
「ガメラは、今どこに?」
 ゴジラの所在は依然として不明だが、ガメラの所在なら秋葉が知っているかもしれない……切り札を確実に手札に加えておくべくシオンは尋ねたが、
「……わからないわ。何処か、南の方だとは感じるのだけれど」
 秋葉はそう言ってすまなそうに瞼を閉じた。
「いえ、それならいいのです。ではまた来ます」
 二人に別れを告げ、音を立てないようそっと扉を閉める。
 秋葉の話を聞いて大分ガメラに関する事情は呑み込めたが、わからないことはまだある。むしろわからないことだらけだ。しかし、もしガメラが本当に人類の守り手であるのならば、英霊さえも敵に回した今、シオンのような者でさえそれに縋りたくあった。





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「稗田先生、ご飯の用意が出来ましたー。そろそろ一旦お休みにしませんか〜?」
「……ん? ああ、わかった」
 琥珀から声をかけられ、稗田はそう答えると広げていた文献にしおりを挟み、一旦閉じた。腕時計に目をやると、かれこれ七時間はぶっ通しで文献を読み漁っていたことになる。
「根を詰めすぎですよ。世界の一大事なのは確かですけど、身体を壊しては元も子もありませんから」
「すまないね。わかってはいるんだが、なかなかに興味深い文献が多くてつい読み耽ってしまった」
 昨日まで稗田達は甲神島の例の洞窟、地下遺跡を調べていたのだが、まだ奥に続いていそうなのにどうにも入り口らしきものが見つからず打ち切っていた。ドランガーが自分が岸壁を砕こうかとも申し出てくれたが、彼の火力では強すぎて洞窟自体が崩落してしまう怖れがある。そのため、今日は朝から甲上家屋敷の書斎や蔵などにある文献を手分けして調査していた。
「それで先生、何か新しい発見は……」
「うん、やはりあの四聖獣壁画が鍵のようだ」
 蔵を出て、二人は並んで歩き始めた。
 母家まで行こうにも甲上の屋敷は遠野家程ではないがかなり広く、蔵も今稗田が籠もっていたものを含めて十近くもある。幸い、文献等書物関係がしまわれている蔵はその内三つ程のようだが、それにしたところで相当な量だ。取り敢えずガメラ――玄武を始め四聖獣に関係のありそうなものを片っ端から探ってはみたものの、新たにわかったのは極々僅かなことだけだった。
「南方の朱雀の群れがギャオスなのかどうかはさておき、玄武がガメラを表しているのは間違いない。勾玉についても触れている文献が幾つかあった」
「そうですか。……遠野家の祖が婆羅陀巍山神、バランを祀っていた事と言い、根は深そうですね」
「バラン、バラノポーダーか。しかし原始竜の一種が生き延びていたとしてもバランは八十メートルはあったそうじゃないか。遠野家の祖の正体が……そうだな、仮にバランもガメラもシオン君に聞いたモスラと同じようにノンマルトが生み出した守護神獣だったとして、だとすれば日本の異能者の血族というのはそのままノンマルトの子孫ということになる。私自身今まで何度か“鬼”と呼ばれる闇の住人を目にしてきたが、その正体は必ずしも同じものではなかった」





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 鬼とは元々“隠”と書いたと言われており、その意は目に見えぬ怖ろしい神霊の総称だ。闇に潜む禍々しい者を、ヒトとは違う者達を須くそう呼んだのだとすれば、遠野の地やこの甲神島でひっそりと暮らしていた異能を持つ地球先住民族の生き残りが鬼と呼ばれていたとしてもなんら不思議はない。
 遠野家の血筋にまつわる大まかな事情や、吸血鬼を始めとする西洋の闇の世界事情、ノンマルトなどについて、稗田は琥珀と秋葉を助けに来たシオンの口から説明を受けていた。
 元より日本という国の成り立ち、その暗部、闇の住人達を探るのを己が使命とし生きてきた稗田だ。秋葉や琥珀が鬼と呼ばれる者の血を引いていることや、シオンが半吸血鬼だということを聞かされても特に驚くどころか身動ぎもせずに二人の話に聞き入っていた。
「さっき読んでいた文献だがね、それによるとあの勾玉は玄武の巫女が神事の際に用いる神器だったようなんだ」
 ノンマルトは、現代人が超能力、ESPと呼ぶ力に秀でていたらしい。シオンは、そこにはいわゆる魔術、魔法などと呼ばれる力も含まれていたのではないかと言っていた。稗田もその事に異論はない。
 西洋魔術に関しては専門ではないためさして詳しいわけでもないが、日本の呪術に関して稗田は下手な術者よりもよっぽど熟知している。儀式、祝詞、呪言、言霊、それらの知識と照らし合わせるに、ノンマルトが守護神獣を生み出したというのもおそらくは非常に高度な魔術、もしくは魔法によるものではないかと考えている。
「甲上の血筋は鬼ではなく海魔だったそうだね」
「はい、わたしはそう聞いていますけど……」
「だが実際には同じ種族だったのかも知れない。海、と言うのが沈んでしまったムーやアトランティス、レムリアなどと呼ばれる大陸を指しているのだとすれば、遠野の鬼も含めて同じ血族だったとしてもおかしくはないだろう?」
「ええ、そうですけど」
 琥珀が怪訝そうな顔をする。
 稗田は歩きながらメモ帳を取り出した。先程調べていた文献から重要そうな部分を幾つか書き出しておいたのだ。
「実は気になる記述があってね。えぇと……ああ、ここだ」
 メモ帳の丁度真ん中辺りを開いて差し出す。それを見て、琥珀は思わず立ち止まり、息を呑んだ。
「遠野君の略奪の能力が最大限発揮された状態を“檻髪”と呼ぶのだったね。蔵にあった文献の、玄武を祀る巫女について記されていたところにそれを見つけたんだ」
「……檻、神……」
 メモ帳には稗田によって儀式についての一部が書き写されていた。走り書きなため読み辛くはあったが、“檻神”だけははっきりと大きめに書かれている。
 稗田も立ち止まって琥珀へと向き直る。
「そう、檻神だ。文献には『巫女、勾玉ヲ持チテ神ニ息吹ヲ与エルベシ。神ノ力、魂ヲ迎エ閉ジ込ムル、コレ即チ檻神ナリ』とあった。神様の神と上様の上、そして髪の毛の髪は元は同じ語源だ。なら、遠野君の“檻髪”とここにある“檻神”は同じ能力のことじゃないか?」
 ならば、秋葉が勾玉と巡り会ったことも偶然ではなく必然だったとでも言うのだろうか。
 出来すぎた話だ。略奪の能力者は歴代の遠野家にも何人かいたが、その誰もが“檻髪”を発動出来るわけではなかったらしい。数百年ぶりに現れた“檻髪”の使い手が偶然甲神島を訪れ、偶然勾玉に触れガメラと通じ合ったなど、話が出来すぎている。
「それじゃ秋葉さまは巫女に選ばれた、そう仰るんですか?」
「確証はないがね。ただ、現時点で出揃っている情報から推測するにその可能性は高いだろうな」
 しかし仮に檻髪と檻神が同種の能力だとして、神の魂を檻に閉じ込めるというのは何を指しているのかがわからない。
 常世から迎えた神を檻に閉じ込めようとする儀式を稗田は知っているが、この場合の檻とは即ち秋葉だ。ならばそのままの意味ではないと思うのだが……
「……はぁ。わからないことばかりですねぇ」
「そうだな。でも時間は足りないんだ。食事をとったらすぐさま調査に戻ろう。それらしい文献を幾つか選んでおいたから、手伝ってもらえるかい?」
「はいっ。わたしでよければいくらでもお手伝いします」
 この状況下、不謹慎だとは思うが自分達のルーツを探るという意味では琥珀はこの調査を楽しんでいた。それにかねてより論文などを読んで興味のあった稗田と一緒なのだからなおさらだ。実際に会ってみてわかったが、琥珀にとって彼は充分尊敬に値する人物、探究者だった。
「さて、それじゃ腹ごしらえを――」
「稗田殿、琥珀殿ー!」
 気を取り直し二人が再び母屋へ向かおうとした時、その玄関から二メートルを超す巨体がガシャガシャと全身から喧しい音を立てつつ走ってきた。人間が鎧を着込んでいるのではない。全身を分厚い装甲に覆われ、幾つもの砲塔を生やした彼は科学と魔術の融合によって生み出されたゴーレムだ。
 ヴァン=フェム配下、重機甲兵軍団凱聖ドランガー。
 甲神島の調査を続ける稗田と琥珀を護衛するために遣わされた、いわばボディーガードである。
「あらあら、どうしたんですかドランガーさん?」
「それが不審者を見つけまして」
 ドランガーの言葉を聞き、稗田が眉間に皺を寄せる。
「不審者? おかしいな……島民は全員避難済みのはずだが」
「島民が戻ってきたのかとも思いましたが、どうやら違うようです。こともあろうに琥珀殿が用意した食事に手を着けようとしていたのでふんじばっておきました」
「あははー、ありがとうございます。もし盗み食いされちゃってたら全部作り直しですから、大変でしたよ」
「いやはやまったく、ろくでもない奴もいたものですな」
 そう言うと、ドランガーはガッハッハと豪快に笑って二人を台所へと案内した。シオンの話によると、ヴァン=フェムは寡黙で愚直な職業軍人のイメージで彼の人工知能をプログラムしたらしいのだが、出来上がってみると何とも豪放磊落な人柄に仕上がっていたらしい。そのおかげか琥珀とは随分と打ち解けているようだった。
「それでその不審者は」
「そこの柱に縛り付けてあります」
 冷蔵庫の隣にある柱に、ドランガー曰くの不審者は縛り付けられていた。どうやらかなり衰弱しているらしく、がっくりと項垂れている。島民でないとすれば、まさか遭難者だろうか。日本を逃げ出して何処か安全なところに行くつもりが運悪く……しかしここ数日は悪天候だったわけでもないしこの辺は船が遭難や座礁するような悪所でもない。
 さて何者だろうと稗田が不審者に一歩近付いた瞬間、
「あーーーーーっ!」
 琥珀が大声をあげていた。
「むぅ、どうしました?」
 ドランガーが何事かと尋ねるが、琥珀は片手で不審者を指差し、もう片方の手で口許を押さえたまま信じられないといった顔をして固まっている。
「まさか知り合いかね? 琥珀君」
 その時、不審者がピクリと動いた。
「……琥……珀?」
 ゆっくりと、項垂れていた首が上がっていく。
 そして、両者の目が合った。
「……まさか、生きてたんですか」
 肩を落とし、呆れたように琥珀が呟く。それから少し逡巡して、ドランガーに「ほどいてあげてください」とすまなそうに頼んだ。
「ほ、ほっほ。どうやら神はワタシを見捨ててはいなかったようです。こんな所でアナタに会えるだなんてまさに僥倖!」
 縄を解かれた男がでっぷりと肥えた身体を揺らして勢いよく立ち上がる。そのまま琥珀に抱きつこうとしたが、それはドランガーの剛碗に遮られていた。
「琥珀殿……何者ですか、この不埒なデブは?」
 デブという単語に反応したのか不審者はジタバタと喚き散らしたが、ドランガーの腕に捕まっていては自由に動けるはずもない。
「うーん。ぶっちゃけちゃえばあまり知り合いだとは認めたくない方なんですけど……仕方ありませんね。情けは人のためならず、いつか何らかの形でお返し願えると信じるとします」
 正直助けたものかどうか最初は迷った。この男がしでかした事の大きさを考えれば、この場で殺されても文句は言えないのだ。それでも琥珀が彼を助けようと思ったのは、単純にまだ利用価値が残されていると判断したためだ。使えるものなら何でも使う、利用出来るものは最後まで利用し尽くすというのが琥珀のやり方だ。
 稗田は兎も角ドランガーは怒り狂いそうだが、我慢してもらうしかあるまい。どうしても我慢出来ないと言うのなら、せめて利用価値が無くなるまで待ってもらおう。その後は好きにすればいい。個人的には琥珀もこんな男さっさと始末してしまいたい。
 そんな事を考えて苦笑しつつ、琥珀はこの男――久我峰斗波について、稗田とドランガーにどう説明したものかと頭を悩ませていた。








〜to be Continued〜






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