ま ち
滅びの都市の聖女





◆    ◆    ◆





「――……本当に、これで食料を分けていただけるのですね? ――」
 あの日。
 東京封鎖が悪魔使い達の手により破られ、日本が悪魔達の跋扈する弱肉強食のこの世の地獄と成り果てた日から、九頭竜天音はそれでも生き続けていた。
 天使の助けもなく、翔門会も事実上瓦解し、父や信徒達とはぐれてしまってなお、彼女は東京を彷徨い、その瞳に強い意思の光を宿したままだった。どうしてなのかは当人にすらわからない。が、救世の巫女として生き続けてきた彼女には、それこそが残された最後の生きる望みだったのかも知れない。他に縋るべきものも、信じるべきものもなく、かと言ってただ悪魔に凌辱されゴミクズのように死んでいくことはどうしても出来そうになかった。抗う力を無くしてもなお生きて、生きて生きて生き抜いて、せめてこの絶望しきった世界に僅かにでも希望を見出したかったのだろうと、アマネは今の自分をそう自己分析していた。
 そうでなければ、希望など無さ過ぎる。
 生き続けていることの意味を、見失いたくなかっただけかも知れない。
「おう。まぁ残りの食料も少ねぇが……姉ちゃんみたいなめんこい子には分けてあげたくもなるものなぁ。……でも、なぁ、わかるべ? 最近は、女なんざみんな悪魔共が連れていっちまってよ。おじさんも、色々溜まってるんだわ」
 隆々といきり勃つ陰茎をこうも見せつけられては、嫌でもわかるというものだ。目の前のそれに僅かに頬を赤らめつつ、アマネは男性の背後に置かれた僅かな缶詰食料を見て喉を鳴らした。もう三日程何も食べていない。
「だから、なぁ姉ちゃん。おじさんのチンポ、頼むよ」
「……はい」
 衣装をずらし、胸を露出させると男性の澱んだ眼が期待に鈍く輝いたかのように見えた。ギラギラと、アマネの歳のわりに発達した乳房を見つめている彼の視線は、東京崩壊後には嫌でも意識せざるをえなくなってしまった類のものだ。
 今この世界は、欲望だけで回っている。
 かつて人の欲望を押さえ付けていた道徳も倫理も、最早無い。いや、無くなってはいないとアマネはそう信じたかったが、少なくともかつてと同様にそれを尊んでいては生きていくことすら出来ないのが現実だった。目の前で亀頭を震わせている肉棒がそれを如実に物語っている。
 初めての相手は、公園を塒にしていたホームレスだった。
 あの日、封鎖を強行突破しようとした“彼”等を取り押さえようと戦い、敗北したアマネは崩壊していく東京をなんとか悪魔達に見つからないよう逃れ、彷徨い、小さな公園で傷ついた身体を休めていた。とは言え食料も水も満足に無く、そのままではやがて力尽きるのは明白という時に、食料を分け与えてくれたのは髪も髭もボサボサに伸ばしたホームレスだった。
 見返りは簡単だ。
 アマネの身体。
 神聖不可侵だったはずの翔門会の巫女は、たった一日分の食料と引き替えにして名も知らぬホームレスの肉棒によりその処女を散らした。
 そこからは、いっそ踏ん切りがついてしまった。
「……どう、でしょうか?」
「あ、ああ……姉ちゃんのオッパイ、すっげぇ、キモチイイわぁ」
 胸で挟み込んだ肉棒を両側から圧迫し、強く扱いてやると、男性はブルリと腰を震わせてウットリと溜息を漏らした。風呂になどもう随分と入っていないのだろう。夏の気温に匂い立つ剛直と、同じように風呂になどとても入れたものではないアマネの乳肉が擦れ合い、饐えた匂いがムッと鼻腔を衝いた。が、それさえももう慣れたものだ。今のアマネはその匂いを嗅ぐことにも、さらには不潔な陰茎に舌を伸ばすことにも抵抗は無い。むしろ食料を分け与えてくれる彼に感謝しつつ奉仕していた。
「んっ、ちゅぷ……ぴちゃ、れろ……じゅぷ、ぬぷ……んくっ、はぁ……、……こんな感じで、よろしいですか?」
「お、おお。いいよ……おじさん、溜まってるから、すぐ射精しちまいそぉ、だよ」
「……かまい、ません。……何度でも、お射精しになってください……んっ♥」
「え、い、いいのかい?」
 アマネの申し出に困惑している様子を見れば、彼ももし世界がこのような状態に陥ってさえいなければ善良な一市民、良き夫、良き父だったに違いないのだと信じられるからこそ、アマネは寛容だった。
「は、い……貴方のおチンポが満足するまで、……何度でも、私の身体をお使いになっていただいて、構いません」
 滅びた世界で、男達の欲望に晒されてもなお、アマネは聖女だった。
「わ、わかったよ姉ちゃん。それじゃ、遠慮なく……」
「……んっ、く、ふぅ♥ はい、どうぞ」
 言いつつ、アマネは乳房の動きを速めた。
 男が腰を動かすのに合わせ、強く、強く圧迫しながら、それでいて温かに柔らかく包み込み、適切な快感を与えようとする。男にとって、アマネの乳肉は優しくも極悪な凶器だった。
「あっ、お、おぉ……ど、どうだい? ねえちゃん、おじさんのチンポ、どんな感じだい!?」
「は、はい……貴方の、チンポ、はぁ……ふっ♥ 赤黒い亀頭が……ぷっくりと、膨らんでいて……ひぅうっ♥ 尿道口が、パクパクって……魚の口のように、開閉して……漏れ出たカウパーが……ねっとりと、私の乳房を……ん、あっ、あっ♥ た、垂れて……伝い、……よ、汚して、います……ッ」
「それから……それからっ?」
 期待の籠もった男の上擦り声が可愛らしくて、アマネは微笑みながら亀頭の先に軽く口づけた。
「ちゅっ♥ ちゅぷ、……ん、ふむぅ……はぁっ♥ ……はい。それから、この、チンポの……匂い、です。……とても、イヤらしいチンポ臭が……私の、鼻腔まで犯して……いるかのよう、です。……竿の部分も、浮き出た血管が逞しく脈打って……胸肉に喰い込んで、痕になってしまいそう……っ♥」
「あ、ああ……たまらねぇよ、姉ちゃん、たまらねぇ……ひ、ぐっ」
 男の腰がやや浮いた感じになり、尻に力が籠もったのが分かった。射精が近いのだろう。その快感を導き、放たせてやるためにアマネもさらに動きを激しくした。
「さぁ、どうぞ……まず、一度目のおチンポ汁を……私に……♥」
「おお、おおぉおお……ッ! イクよ、姉ちゃん、おじさんイクよぉおおおっ!」





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「あっ♥」
 凄い勢いで噴き出されていく精液に、アマネはうっとりと目を細めた。
「おっ、ほ、おぉおおお……」
 腰が痙攣を続けている。震える亀頭の先端、パックリと開いた鈴口から吐き出された精液はやや黄ばんでおり、匂いもこれまでの比ではなかった。口と胸と鼻を同時に犯されてしまっているような感覚に軽い絶頂を覚えながら、アマネはいまだ射精し続けるそこに舌をあて、舐め回した。
「ひ、うぅひぃいいいっ!?」
「れろ……じゅぷ、じゅぼぉッ♥ んっ、ぷ……く、ぶぅ……んむっ♥」
「あ、あああ……姉ちゃん、それ、ヤベェって……お、はぁ……」
 蕩けたようにだらしなく口を開けた男の顔は、まさに至福の極み、悦楽の渦中にあるといった感じだった。満足感が、アマネの心身をも充足させていく。
 男の顔には、救いが見えた。
 こんなものは所詮刹那的な快楽、救いなどまやかしに過ぎないと断じるのは容易い。それでも絶望の闇の中、自分の肉体がたとえ一時でも彼に平穏と安らぎを与えることが出来たのだとすれば、アマネはそれは喜ばしいことだと思った。
 この身体の火照りも、心を湧かせる甘い媚毒も、何一つ間違ってはいないのだ。悪魔達の肉欲のみの交わりでなく、自分は肉と肉、粘膜を通して男の魂と直に触れ合ったのだとアマネは確信していた。
「お、あ、ああぁ……よ、よかったよぉ、姉ちゃん。舌もオッパイも、最高だぁ」
「そうですか。それは、何よりです。……ですが」
 アマネの胸の中で、男のそれはまったく硬さを失っていなかった。むしろ一度射精した後だというのに、より太く、大きく、熱く、反り返っている。あまりの反りに、抑えていないと胸の中から飛び出していってしまいそうな程だ。
 今、胸中からその熱が飛び出してしまうのは寂しいと、アマネはグッとより強い力で挟み込んだ。
「ね、姉ちゃん?」
「……まだ、おチンポ、元気なようですので」
「お、おおお……っ、さ、さっきよりすげぇ……!」
 男の喘ぎを耳に心地よく聞きながら、アマネはさらに胸へと、そして男根へと意識を集中させた。あまりの甘さに脳が蕩けてしまいそうだ。

 ――救いを求めているのは、私の方なのかも知れない――

 そんな考えが、頭を過ぎった。
 確かに、そうなのかも知れなかった。
 肉棒の味が、匂いが、熱が、身体中に染み込んでいくかのような感覚に鼓動が高鳴り、子宮が疼く。雌としての本能が、この崩壊した世界で雄を求めているのかも知れない。
 ふと、“彼”を思い出す。
 この崩壊を招いた要因の一人だというのに……時折、こうして雌の行為に耽っていると思い出してしまうのは、自分の弱さなのだろうか。
「ね、姉ちゃん……あ、ああ……もっと、吸ってくれ……チンポの先、キューって」
「……ふ、ぁい……♥ おひんぽ……もっろ、ひもひよふなっへ……ん、ぶっ♥ くちゅ、じゅず、ぶ……じゅる、れろぉ……んぷっ♥ ちゅろ……む、ふぁああ♥」
 胸を揉みしだく自分の手が激しさを増していっていることに、アマネは当然気付いていた。気付いて、微笑んでいた。
 たまらない。
 たまらなく、精液が欲しい。食事よりも、あの喉に絡みつくような粘性の高い黄ばんだ臭い精液を、ゆっくりと咀嚼し、何度も反芻して、飲み干したい。
 と、アマネがより深く亀頭をくわえ込もうとした時だった。
「……な、なぁ、姉ちゃん」
「……んちゅ♥ ……はぁ。……はい?」
 男が、アマネを何とも形容しがたい表情で見下ろしていた。
「……アンタを見込んで、頼みがあるんだがよぉ」
「……なんでしょうか?」
 切なそうな、苦しそうな。それでいて、どこか邪気を含んだ、愉しげな予感めいたものを感じさせる……不思議な表情だった。かつての自分だったなら、そんな彼の感情を読み取ることも出来ただろうか。
 ――考えても詮無いことだ。
 それに、きっと悪いことではない。なんとなくだが、アマネもまた奇妙な予感めいたものを感じていた。
 疼くのだ。雌が。
「そ、それなんだが、よぉ……――」
 男の言葉を聞くに連れ、頬は弛み、無邪気な笑みが広がっていくのをアマネは止めることが出来なかった。





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「ひぅ、ああっ、ひぃいいいいいいん♥」
 直腸と膣内を同時に深く抉られ、アマネは今日何度目かもわからない絶頂へと達していた。何度目どころか、先程からこうして奧を突かれるたびに達してしまっている気さえする。が、それも仕方がなかった。
「はぁああっ♥ チンポ♥ おチンポがっ、たくさん、たくさん私を囲んで……おぉ♥ んふっ、のほぉおおおおおおおおおッッ♥ やっ、チンポ暴れないでぇええええ♥」





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 たくさんの欲望が、アマネを取り囲んでいた。
 人数を数えるのも馬鹿馬鹿しい。まさかこの辺り一帯の裏通りに隠れ潜んでいた男性が全て集まってきているのではないだろうか。



 ――あの男性からの頼みとは、『自分の仲間達の相手もしてやって欲しい』、ということだった。
 どうやら彼は食料などを流している一つの裏の流通経路に関係しているらしく、そうすることで多少多くの食料品を入手して、アマネにも融通してやりたいとのことだった。無論、彼自身が仲間にアマネを紹介することで美味い汁を吸うのが主要な目的だったのだとは思うが、それでより多く食料が手に入るならアマネにとっても僥倖だ。何より、こんなにもたくさんの欲望と向き合い、彼らを癒すことが出来るのだから。



「くっさいおチンポがぁああっ♥ ジュポジュポって犯しています、私のオマンコも、ケツ穴も、胸もクチも手も髪も……んひぃいいいいいいいっ♥ 身体中、身体中おチンポまみれですぅうッ♥ んぶっ、ぐ、んぶぁああああ♥ ひん、ぽぉ……おほっ♥ ぬふぅううううぉおおおおおお……〜〜〜〜ッ♥」
「は、はは……お嬢ちゃん、ホント、スゲェな……全身、マンコみてぇだ」
「まったくだぁ。身体中、どこ犯してもイイ声で啼きやがるぜぇ……」
 身なりも年齢も全てバラバラ。
 まともな会社員風の男もいれば、アマネの初めての相手だったホームレスのような男達もいた。彼らが皆、この世界で生きていくために滅びかけた人間の叡知を振り絞っているのだ。そう考えれば、彼らの役に立てる自分は幸福なのかも知れなかった。
「あ、あああっ! ア、アマネ様が、私のチンポをこんな美味しそうにっ!」
 見上げれば、そこにいたのは見慣れた赤と白の服を着た、翔門会の信徒だったらしい者だった。流石に顔に見覚えはないが、まだ若い青年だ。アマネの白く細い指先で陰茎を巧みに弄ばれ、青い喘ぎをあげている。
 可愛らしいと、そう感じた。
「……んっ、ちゅっ♥」
 亀頭にキスし、陰嚢を優しく揉んでやる。それだけで、青年は呆気なく達してしまったようだった。
「あ、ああ……私の精液が、アマネ様のお顔を……汚して……」
「フフ、フフフ……♥ 構いません。どうか、もっとたくさんおチンポ汁を、私にブチまけて……んっ♥ そう、もっと、もっと……私に……はぁあああんっ♥」
 膣内で肉棒がまた一つ弾けたようだった。
 じっとりと、精液が膣壁へと染み込み、子宮の中に貯まっていく。
「もっとくださいっ♥ チンポッ、皆さんのチンポで私を、私を――……あぁあっ♥」
 意識が、飛ぶ。
 降りかかる精液、吐き出されていく精液にまみれ、アマネは世界を視ていた。
 悪魔と強者のみが微笑み、支配するこの地獄のような世界で、男達の欲望を受け止めながら、それでも九頭竜天音は、聖女だった。





 
END   






絵:寒天示現流




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