Mind Forest





◆    ◆    ◆





 ――美しいその庭園には、毒持つ花が艶やかに咲き誇る――



「本当に、強情な娘だねぇ」
 イザ・ベルの言葉には嘲りの色がありありと浮かんでいた。表情、と呼べるものを判別出来るのは顔の上半分だけだったが、その目は愉快そうに細められ、喜悦の視線を注いでいる。
 ――愚かしい、と。
 アマネはイザ・ベルの“戯れ”がどれだけ馬鹿馬鹿しいことか、いつもと変わらない澄まし顔で返し、アマネは呆れたように溜息を漏らした。
「フフ。その何もかも悟りきったような顔も、大したものさ。確かにここはオマエの精神世界……まだまだ影響力は強いとは言え、ケルベロス、地獄の番犬と呼ばれたアンタにしちゃ少々情けなくはないかい?」
「……グルルルルルル」
 低く唸り、ケルベロスはやや苛立ったように腰を動かした。その股間からは、イヌ科特有の亀頭の無い赤黒く棒状のペニスが隆々とそそり勃ち、尻を突き出す形で転がされているアマネの秘所へと懸命に擦りつけられていた。
 形状こそイヌ科特有のモノとは言え、ケルベロスのソレは人間界の犬とは明らかにサイズが異なっていた。大きさにすれば40〜50cmほどもあろうか。犬と言うよりも、これでは殆ど馬と同じだ。
「やれやれ。並の女なら、それが悪魔だってこのマリンカリンを常時発動させた状態でケルベロスの巨根を擦りつけられれば素直に堕ちるのに……流石は巫女様、聖女様ってところかねぇ」
 さっさと諦めればいいのだ。
 アマネの自我は、魅了の魔法如きでどうこう出来るものではない。少なくとも本人はそう自負していたし、また生来の強い精神力は実際に精神に作用する魔法や呪術に対して強い耐性をもたらしていた。
 だからこのようなことをいつまで続けていようと、全ては無駄――敢えて言葉にせず、アマネは小馬鹿にしたような顔で後ろのケルベロスを顧みてやった。
「……グゥ、小娘メ……小癪ナッ!」
 彼の雄としての誇りは既にズタズタだろう。
 ケルベロスの肉棒は、確かに大きい。太く、硬く、長く、匂いも熱さもそれが性的に非常に魅力的なのだろうなと、アマネもそう考えてはいた。しかし、自分にはそういった性欲、肉欲の類がおそらく稀薄なのだろう。羞恥に顔を赤らめるでもなければ、興奮に打ち震えるでもなく、終始冷静なままだった。
 幼い頃より巫女として、父から翔門会の教義を叩き込まれ生きてきたアマネは普通の人間と異なり、どこか浮世離れした面が強かった。そんな娘にこのような凌辱や拷問、意味など無いのだ。
「……ふぅ」
 冷めた溜息が、ケルベロスの神経をさらに逆撫でした。
「ガルルルルッ!」
 より一層激しくなった突き込みが秘裂を擦る。それでもアマネは顔色一つ変えず、イザ・ベルに対して『無駄なことはやめたらどうです?』とでも言いたげな視線を送り続けていた。



「……ふぅ。仕方ないねぇ」
 どのくらい時間が経過しただろう。
 どこまでも晴れ渡った蒼い空。
 泉に湧き出る清涼な水。
 緑の木々、色とりどりの花々。
 無限に続く光り輝く世界。
 アマネ自身の精神世界であるこのカルネジアン庭園には、時の流れというものが存在しない。無論、世界の主であるアマネの主観的な時の流れはあっても、それは現実世界のものとはまるで異なっており、何日、何週、何ヶ月と経ったよう感じたのだとしても目を覚ませば外界ではほんの一瞬に過ぎなかったりもするのだ。
 そんな世界では、退屈な事象程時の流れを緩慢に感じるのも当然のことで、ケルベロスの無駄な努力はそれこそ丸一日くらいは繰り返されていたようにアマネは感じていた。
(ようやく、諦めて貰えたのでしょうか)
 性的興奮は覚えていないとは言え、ずっと同じ体勢で股間を擦られ続けているのは流石に辛い。解放への安堵と共にアマネが顔を上げると、そこにはイザ・ベルの勝ち誇ったかのような笑顔があった。
「ウフ、フフフ。アマネぇ、諦めたとでも思ったのかい?」
「ッ!?」
 上げた顔を、いつの間に現れたのか左右からウカノミタマ、クエレプレによって掴まれ、アマネは視線をイザ・ベルへと固定された。別にそのくらいは構わない。見ろと言われれば臆せずに見返してやるくらいの気概は持ち合わせている。
 が、無論それだけのはずはなかった。
「……なっ」
 イザ・ベルの周囲に、見覚えのある姿が三人程立っていた。……正確には、見覚えがあるどころの話ではない。
 アマネだ。
 イザ・ベルの周囲で、翔門会の法衣の胸元を大胆に開き、本物のアマネならば決して浮かべないであろう酷薄とした笑みを浮かべて立っているのは、他でもない、アマネ自身だ。九頭竜天音の一六年という決して長いとは言えない人生そのものとでも言うべき似姿が、そこに、いた。
「な、なんのつもりですか、イザ・ベル!?」
「おやおや、動揺してるのかいアマネ? 可愛いねぇ。ようやく可愛いお顔が見られたねぇ……ウフッフフ」
 イザ・ベルが目を細め、周囲のアマネ達も愉しそうにニンマリと口を歪めた。まるで闇夜に浮かぶ三日月のようだ。
「冗談にしては、悪質な……私の似姿など用いて、どうしようと――」
 それ以上、アマネは続けることが出来なかった。
 睨み据えた先で、アマネの似姿達は近くに現れたコボルトやオーガに近付くと、何の躊躇いもなく抱きつき、唇を合わせていたのだ。
「ちゅっ……ん、うぅ……ん、むふ……ぅっ♥ はぁ……ん、ちゅぷっ……じゅる、んぢゅちゅ……ふぅ、む……ん、はぁ……っ♥」
「おやおや、意外とキスがお上手だねぇアマネ。イヤらしく舌を絡めて……唾液を啜る音が激しいよぉ? えらく情熱的じゃないかぁ。下級悪魔の犬舌相手にさぁ」
 流石のアマネも、自分と全く同じ姿が卑しいコボルトを相手に妖艶に微笑みながら口付けている姿を見ては動揺せずにはいられなかった。押さえ付けられた状態で藻掻くも、ウカノミタマもクエレプレもそれぞれ高位の悪魔だ。アマネの力で脱せられるはずもなく、視線を固定されたまま状況を見せつけられることしか出来なかった。
「ん、む……ペロ……じゅぷっ、レロ……♥ ……は、ぁ……ん、ゴク……ぢゅるる、ぢゅぶ、ぢゅぢゅ……んっ、ちゅるっ♥ ……ぷぅ……はぁ♥ ……クスクス。コボルトの獣臭い唾液、美味しい……♥」
「なに、を……いったい、その姿は……」
「おやぁ? アマネ、どうしたんだぁい?」
 嘲笑。
 紫の薔薇が毒々しく咲き誇り、イザ・ベルは愉悦の極みとばかりにアマネの無様を見下し、下卑た笑みを浮かべ続けた。
「こ、答えなさいイザ・ベル! 彼女達は何者なのですかッ!?」
 憤激も露わにイザ・ベルを睨めあげると、アマネは自分と同じ姿をした者達の正体を問うた。しかし感情を剥き出しにするアマネの姿はイザ・ベルをより愉しませ、昂ぶらせるだけだった。
「アッハハハハ! 知りたいかい、知りたいのかぁいアマネぇ? いつものお澄まし顔が台無しだよぉ? そんなに怒鳴っちゃダメじゃないかぁ。翔門会の巫女様がさぁ。フ、フフフ」
「くっ!」
 歯軋りし、しかし顔を逸らすどころか目を閉じることすら許されず、アマネは他ならぬ自分自身がコボルトとの口吻で蕩けきった雌の貌を晒すのを見続けるしかなかった。
 なんて、淫蕩なのだろう。
 三人のアマネはそれぞれコボルトの舌を、唾液を吸いながら、はだけた胸を自らの手で揉みしだき、コボルトの脚に脚を絡め、法衣を捲り上げて股間に手を伸ばしている者さえいた。信じられない淫靡さだ。
「お、おやめなさい! ……う、くぅ……そ、そう、……鏡像魔人、ドッペルゲンガーの類……ですね!? ……そ、そうですか。わざわざ私の姿を真似させて動揺を誘うなど……ベルの悪魔の一人にしてはまたなんて姑息な……所詮はベリトに媚びる弱小悪魔に過ぎないというわけですか」
 一人で捲し立て、勝手に納得しようとしていたアマネをイザ・ベルは憐れむように睥睨していた。
「……やれやれ。可哀想にねぇ、アマネ。本当はわかっているんだろう? わかっていて、そんなありもしない嘘っぱちを口にする。人間なんて、本当に弱いもの。真実から、現実から目を逸らし、自分に都合のいいように曲解して……フ、クク、アハハハハハハハハ! オマエ程の力を持つ者でも、心は弱いものさ!」
「だ、黙りなさ――んぐぅうっ!? かふッ! ケホッ」
 食って掛かろうとしたのをクエレプレに力尽くで無理矢理押さえ付けられ、アマネは咳き込んだ。
 本当はわかっている?
 ありもしない嘘を口にしている?
 そんな事は、無い。無いのだ、と。アマネはそう抗弁しようとして、けれど咳き込んだままでは言葉など発せられるわけもない。
 ――そう、咳き込んだせい、なのだ。
「ウッフフ。まぁ〜た、頭の中で必死に言い訳を考えてるみたいだねぇアマネぇ。今度はどんな言い訳なんだい? 聞かせておくれよぉ」
「ゲフッ、……ん、くっ……うぅ!」
 何も話せない。
 何も語れない。
 アマネは口を一文字に引き結び、射るような視線でイザ・ベルと、自分の似姿を呪った。巫女、聖女にはあるまじき感情。憎悪と怨恨が心を蝕み、殺意となって標的に突き刺さる。
 この庭園がアマネの精神世界である以上、その殺意はイザ・ベルを倒すことはかなわずとも何かしらの影響を与えることは可能なはずだった。少なくとも、今この場だけでも撃退することは可能なはずなのだ。
 なのに、何も変わらない。
「フフフ、アーッハッハッハッハッハァ! ねぇ、見なよぉアマネぇ。みぃんな、キモチ良さそうだろぉ?」
「ふぅ……ん、あぁあんっ♥ ……ふふぅ……んっ♥ コボルトのぉ、キス……獣臭ぁい……もぉ、たぁくさんがっつかれて、アマネ、感じてしまいますぅ♥」
「やぁんっ♥ 胸ぇ、乱暴に揉まないでくださいぃ♥ おっぱい、好きなのですか? アマネのぉ、一六歳の小娘のおっぱい、もっと揉みたいのですかぁ?」
「……はぁ♥ おチンポぉ、ガッチガチぃ♥ それに、とても臭いです♥ 赤黒い犬チンポ、スゴい匂い……あんっ♥ 鼻がバカになってしまいますぅ♥」
 三人のアマネ達は、低級悪魔を相手に歯止めのない痴態を演じ続けていた。
 キスをしていたアマネは、コボルトの股間に手を伸ばし、ほっそりとした白い指で赤剥けた肉棒をイヤらしく扱いてはうっとりと悦に浸っていた。
 胸を揉まれているアマネはそのまま勃起した乳首をコボルトに舐めさせ、軽く達してしまったのかビクンと何度も身体を震わせていた。
 もう一人のアマネは跪き、さらけ出させたコボルトの肉棒に鼻を近付けると芳しい花の香りでも嗅ぐかのように鼻を鳴らし、だらしなく涎を垂らしている。
「わかってるんだろぉ? わかってるはずさぁ。幼い頃から巫女として禁欲的な生活を強いられてきた、抑圧された深層心理……そこに潜む欲望まみれの人格こそが――」
「だ、黙りなさ――んぶっ!」
 イザ・ベルの口上を遮ろうとするアマネの口を、ウカノミタマが塞いだ。藻掻き、呻きながら、アマネは涙をたたえて抵抗した。
 言わせてはならない。絶対に。これまで築き上げてきた“九頭竜天音”という存在を否定するに他ならない言葉を、あの悪魔に吐かせるわけにはいかない。
 ……だが――
「ウフフ、アハハ、アッハッハッハハァアッ! 必死だねぇ、必死じゃないかアマネぇ!? そんなに言わせたくないのかい? 聞きたくないのかい? そりゃあそうだろうさ! アンタは敬虔な巫女だ、穢れ無き聖女様さ! それこそ身の内に天使を宿せる程の聖人だよ。……けどねぇ、じゃあ、どうして悪魔もまたこうして巣くっていられると思う?」
「ッ!?」
 イザ・ベルの言葉が、鋭く胸を貫いていく。
 危険だ。
 アマネは自らの無力さに打ちのめされながら、弱々しく、けれど懸命に頭を振った。違う、違う、絶対に違う――と、周囲にも、自分にも言い聞かせようとでもするかのように。
 そんな健気さを、イザ・ベルは容赦なく踏みにじる。
「アンタの父親はベリト様を、悪魔を信奉するような男なんだよぉ? 翔門会は言うなれば悪魔崇拝教団さ。そこの巫女が、本当に根っからの聖人だと思うのかい? 聖女様に務まると思ってたのかい? ……聡明なアンタはとっくに気付いていたはずなのさ。抑圧された自分の中に沈んでいる澱みってヤツをねぇ……!」
「――あッ!!」
 最後の否定の言葉は、まるで電流のように股間から背筋を伝わり脳まで駆け抜けた感覚によって打ち消されていた。
「グルルルル……グ、クッククク。ドウシタ、聖女ヨ。……秘壺ガ、段々ト湿ッテキタゾ? 事実ヲ突キツケラレタセイカナ? ソレトモ――」
「ふひぃいいいいンッ!?」
 押さえ付けられた身体が、限界まで仰け反る。ウカノミタマもクエレプレも、既に拘束を弛めていた。しかしアマネの身体は跳ね、仰け反るだけで逃れようという動きは全く見られない。
「ひっ、ぐ、くぅ……ンッ!」
「――ソレトモ、自ラノ心ノ影ガ、こぼるとヲ相手ニ淫ラニ奉仕スル姿ヲ見テ、興奮シテイルノカ?」
 ケルベロスの剛直が、陰核を擦り上げた。
「んひぃいあぁああああああああっ!!」
 いつの間にか、そこは充血し硬く勃起していた。イザ・ベルとケルベロスが言った通りなのか、それとも不意を突かれて精神が乱れ、刺激に肉体がただ反応してしまっただけなのかはわからなかったが、そんな事は関係無しに、アマネには自分がケルベロスの肉棒によって性的興奮を与えられてしまったという事実が衝撃だった。
「クク、ククク! ……濡レテキタ。愛液ガとろとろト溢レテクルゾ。ドウシタトイウノダ、聖女ヨ。悪魔ノ、犬如キノちんぽナド何デモナイノデハナカッタノカ? オカシイナ。モウ、洪水ニナッテシマッテイルゾ」
 辱めの言葉が胸を剔る。
 剔られた胸は鼓動を速め、今にも爆発しそうになっていた。
 九頭竜天音を構築する部品が、歯車が、機能が、狂っていく。壊れていく。
「お、おやめなさ……ケルベロス、この、ようなこと……ひぐっ!? ……い、いくら、辱められようとも、私は……ッ! 私は、決して、悪魔の誘惑に屈したりは……はぁぐっ!」
 崩壊を食い止めようと必死になればなっただけ、アマネは自分が為す術無く無惨にも崩れていくのを感じていた。
「ガルルゥ……ッ! 抵抗ナド、無駄ナコトヨ。オマエノ影達ヲ見ガイイ! アンナニモ嬉シソウニ肉棒ニ奉仕シテイルデハナイカ」
「ッ!」
 見てはいけない、と。アマネの中の理性は止めた。見たら最後、それが間違いなくトドメになる。
 目を瞑ろうとした。
 顔を背けようとした。
 視線を逸らそうとした、はずなのだ。
 なのに――



「んっ♥ はぁあああああんっ♥ チンポぉ♥ コボルトのチンポ熱いですぅオッパイ火傷しちゃいますぅうんッ♥ あっ、あぁああっ♥ ゴリゴリッてぇ、浮き出た血管が乳首と乳輪擦るんですぅ♥ 獣ちんぽパイズリキモチ良すぎますゥあっあァアン♥」
「やぁっ、いひぃいいいんっ!? そんな風にぃ、腰動かしてはいけませんッふぁああおおおおおっ♥ おチンポぉッ♥ チンポがアソコ擦ってぇンヒィいぁあああ♥ 挿入っちゃう、このままじゃ挿入っちゃいますぅうっ♥」
「ふぶぅっ♥ んぶ、ふごぉおおおおおっ♥ ふむっ、ん、んじゅぶぅうう♥ ……ぷぇッ、あ、ばぁ……♥ コボルトのおチンポぉ、とても長いんですぅ♥ 喉の奥まで犯されてぇ、息、出来なくなっちゃ……んぐぅううっ!? ぶぶっ、ぶふぅいいイイッ♥」



「あ……あ、あぁ……」
「グルルゥッ! グァッハッハッハ! 見タカ、自分ノ真相意識下ノ化身ガ卑シイこぼるとノちんぽヲ求メテ泣キ狂ウ姿ヲ! ナントイウ浅マシサダ!」
 アマネ達は、一心不乱にコボルトの剛直へと奉仕していた。浅ましい姿……その通りだ。我ながら、なんと浅ましいのだろう。悪魔の、獣の生殖器を必死に求め、挟み、扱き、舐め、悦び喘ぐ姿こそ己の本性だなどと、アマネには決して認められないことだった。
 どんなに真実だと言われようとも、違う。違うのだ。
 本当の自分は、あんな雌の貌で雄を求めたりしない。
 股間から愛液を滴らせ、肉棒を愛おしげに舐めたりしない。
 乳首をビンビンに勃たせ、そこを使って奉仕などするわけがない。
「やめ……やめ、てくださ……、……う、うぅ……やめてぇ……」
 最後は啜り泣きのようになっていた。
 掠れた声で自分自身を止めようとするアマネは、哀れ以外の何者でもない。
「イイ顔になってきたよぉ、アマネ。そう、それでいいんだ。したり顔で何もかも悟ったような気になっているうちはおもしろくも何ともない。そうやって泣き崩れていく姿こそが美しい。と〜っても魅力的さ」
 言いながら、イザ・ベルは庭園の全てを覆い尽くさんばかりに大きく腕を広げた。それだけで、無限に広いはずの心象風景全てが支配されたかのような感覚に陥ってしまう。
 いやいやする子供のように頭を振るアマネのすぐ目の前で、清涼な水の湧き出ていた泉がノイズが走ったかのようにブレていた。
 蒼かった空が薄赤く染まっている。色とりどりに咲き誇っていた花々は枯れ、葉は落ち、美しかった世界はいつの間にか黄昏をむかえようとしていた。
「グルル……イイ景色ニナッテキタナ。我々ノ故郷ヲ彷彿トサセル……マルデ魔界ノヨウダゾ。実ニ清々シイ気分ダ」
「はぁあっ!? ンッ、……く、……う、ひぃ……っ」
 ケルベロスの腰の動きが速まっていた。
 濡れそぼったアマネの秘所をさらに大きさを増したケルベロスの怒張が猛然と擦り、激しく、甘く、刺激する。その度にカルネジアン庭園の景観は異変を生じさせ、あんなにも蒼く晴れ渡っていた世界は、灼熱に燃え滾るマグマと火山灰に覆われた黒い曇天のように姿を変え、熱く、暗く、寒く、闇が蜷局を巻いていた。
 ドロドロと、焼けて、溶けていく。
「ひぎぃいいぐっ!?」
 頭が、おかしい。
 頭だけでなく、身体中がおかしかった。心象世界の異変は、ままアマネ自身の異変に他ならない。
 ――いや、そもそもこれは異変ではなく元々がこのような世界であったのをあの蒼さで誤魔化していたのではないか、と……そんな考えが、脳裏を過ぎった。
 自分がわからない。
 翔門会の巫女として育てられてきた人生。その身に天使と悪魔を宿しながら、人類の救済を、救世を望み生きてきたはずだった。その人生を、自分自身を、今は信じられない。
 アマネは、空虚だった。
 その空虚を――
「……は……へ?」
 ――杭が、穿つ。
「ひぃいいいいぃぎぁあああアアアアアアアアアアアッッ!?」
 全身を引き千切られたかのような激痛が走っていた。
 痛みが痛みを呼び、さらなる痛みによって塗り潰されていく。
 引き千切られた身体がさらに細かく裂かれ、砕かれ、煮えたマグマの中にバラ撒かれていく感覚。……幻覚、なのか、そうでないのか。理解の限界を超えてアマネは貫かれた自身の身体を、視た。
「はっ、……きゅ、ひゅぅ……ぐ、ぶ……ひゅ、……ひ、ぅうう……ッ」
 原因が視界に、意識に、刻まれた。
 つい先程まで秘裂を擦っていたケルベロスの剛直が、消えていた。
 そこに挿入されたのかと思ったが、そうではない。アマネの膣はいまだ雄を知らぬまま、未通のままだ。
 では剛直はどこへ消えたのか。
 アマネから溢れ出た愛液をこれでもかとまぶした魔犬の赤黒い剛直は……
「グルルルル。ドウダ、初メテちんぽヲ突ッ込マレタ感想ハ? モットモ――」
 パクパクと、言葉を吐き出せない口が水槽の魚のように開閉した。
 呼吸がままならない。動転したままの意識は回復という機能すら忘れ、アマネは暗く深い闇の中に囚われようとしていた。
 が、そこに――
「がひィイイイィィイイイイイイイイッ!?」
 ――容赦なく、杭が穿たれる。
 剔られている身体。
 剔られている心。
 否定したい現実に、痛みがアマネを繋ぎ止めた。
 ケルベロスが、イザ・ベルが、アマネ達が、嗤う。
「――処女穴デハナク、けつノ穴ダガ、ナアッ!!」
「おごッぉおおおおオオッ!? ぎゃヒッ、ぐぎぁあああひぃいイイイイイイッ!!」
 獣よりも重く、高く、荒々しく、絶叫。
 庭園そのものが揺れていた。崩壊の前触れのように。
 尻穴に深々と突き刺さった剛直が内蔵を滅茶苦茶に押し上げる。腹の中を掻き回され、アマネはのたうち回った。
「オォオオ、オォオオオオオオンッ! イイゾ、聖女ノけつ穴ハ素晴ラシイ! 我ノ肉棒ヲコレデモカト締メツケテクルゾ!」
「いギッ、ギャふぅううぉおおおおおおおオッ!?」
 余程気持ちが良いのか、ケルベロスは泡立つ唾液を滴らせながら愉悦に唸り、吼えた。ピストンはますます勢いを増し、アマネの絶叫は一層世界を震わせていく。
「痛ガッテイルヨウデ、まんこモひくツイテイルゾ!? グルル、感ジテイルノダロウ!? 処女ノママけつ穴ヲ犯サレテ、コノ変態聖女メガ!!」
「ぐぶぉおおおおっ!?」
 身体をそのまま貫通され、口から肉棒が飛び出しそうだった。
 既に痛みを痛みとして感じる余裕すらない。今のアマネは、ケルベロスの肉欲を強制的に受け入れさせられるだけの肉人形も同然だった。
「イイよぉ、最高だよアマネぇ。今のアンタこそが本当の九頭竜天音なのさ。認めてしまいなよぉ。認めて、このオマエの本性どもと同じようにチンポを愛おしげに咥え込んで快楽に狂っちまいなよぉ」
 イザ・ベルの哄笑が耳に遠い。
 聞こえてくるのはケルベロスが自分を犯す音と、その激しい息遣い、そして――



「んはぁああああんっ♥ チンポぉ! チンポすごいのぉコボルトチンポ熱いぃひぃいいいいいいいいッ♥ おっぱいィ♥ オッパイマンコズコズコ突かれてるぅオッパイ犯されてるぅ♥ 犬チンポの匂い染み着いてしまいますぅッはぁあアンッ♥」
「もっとぉもっとチンポ先汁ぅ♥ チンポ汁みたいにドロッドロでプリップリの先汁んブッ……んぐ、ごきゅっ♥ んぐ、ぷぶ、じゅぷぁああっ♥ 飲ませて、飲ませてくださィイイ哀れなエロ巫女に先汁たっぷり飲ませてぇええええッ♥」
「ぬほぉおおおおおおおッ♥ も、もぉガマンなんて無理ですゥういぃいいヒィイイッ♥ 挿入れてぇえっチンポ挿入れてくださいぃ処女マンコに犬チンポ突っ込んでぇえええっ♥ 犯されたいの犯されたいのぉおお犬チンポ欲しひぃイイインッ♥」



 ――コボルトを相手に乱れ狂う、アマネ達の嬌声のみ。
「おぐっ、げぶ……ごぉおおおお、ぐっ、ひぃいいぁああああああッ!!」
 もはや悲鳴でも、絶叫ですらなく、アマネのそれは雄叫びだった。ケルベロスの息遣いが荒々しさを増し、アマネの身体が何度となく跳ねる。一撃一撃が腸を直撃し、内部を破壊されているかのようだ。
 体内から、焼き尽くされていく。
 焼き鏝が直腸をズタズタに破壊していく。





◆    ◆    ◆
◆    ◆    ◆





「ぐぎぃやぁああああおごぉおおおおおおぎひぃいいいいいいいいッッ!!」
「ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハァアアッ!!」
 ケルベロスの肉棒の根本が、膨らむ。
「おごぉほぉおおおおッ!?」
 腹の中が、爆発していた。
 イヌ科動物のセオリーに則った射精。
 膨れ上がった根本の瘤、亀頭球と呼ばれる部位によって雌の内部に完全に固定された肉棒は、そのまま夥しい量の精液を、容赦なく吐き出していた。
「オォオオオオオオオオンッ!! オォオオオオ、ウォオオオオオオオオンッ!!」
 雌を完全に支配、征服した雄の遠吠えが、完全に変容を果たしたカルネジアン庭園全域に響き渡る。
 その狼吼が引き金になったのか、コボルト達も一斉に精を解き放っていた。
「あぁあああああんっ♥ オッパイマンコ、チンポ汁で乳内射精されてますぅうっンッ♥ 熱いぃいいいいンッ♥」
「ぐぶぅうううおぼっ、ぶぼぉおおおおおおおおおッ♥ ぢんぼぢるぅんるばぁああああブブブッ、んっ、ぐぷぶばぁあああ♥ んぶぶ、ごぶぅう♥」
「ひゃうっはぁああああんッ♥ 射精てるぅすっごい量チンポ汁射精されてましゅぅうのほぉおおおおおッ♥ くっさいです、獣のチンポ汁くっさいのぉおっ♥」
 アマネ達も次々と底知れぬ深い絶頂をむかえ、痙攣とアクメを繰り返す。
 庭園の大地に亀裂が走っていた。割れたそこからはマグマがチロチロと覗き、僅かに残っていた草木を紅蓮の炎が焼き尽くしていく。
 アマネの世界は、カルネジアン庭園は今や完全に崩壊していた。
 その中央に、残っている花は唯一つ――イザ・ベル。
「アーッハッハッハ! どうだい、どうだいアマネぇ? たまらないだろぉ? 狂おしいだろぉ? ケルベロスの射精はそのまま一時間は続くからねぇ。耐えきれるかねぇ。耐えきれないだろうねぇ。……んん? ああ、もぉ聞こえていないか」
 泡を吹き、白目を剥いて焼けた大地に突っ伏しているアマネを見下ろし、イザ・ベルは身体を揺らした。
「んぶっ……ぐっ……ひ、ぎぃ……ぐ、ふぅ……かはぁ……」
「あの気取った聖女様が、蟲みたいじゃないかぁ。可哀想にねぇ……哀れだよアマネ、本当に哀れ。大人しくベリト様を崇拝してれば良かったのにねぇ」
 聞こえていないことを知りつつ、イザ・ベルはアマネの心に染み込ませるかのように毒を吐き出し続けた。
 ……これで、何度目だろう。数えるのも馬鹿馬鹿しい。
「フフフ。まぁ安心おしよ。こんな事は所詮ただの悪夢さ。目覚めればどうせ忘れている。今までも何度も何度も繰り返されてきた悪夢さ」
 そう、何度でも。
 アマネが完全に壊れ、イザ・ベルに塗り潰されてしまうまで、この悪夢は繰り返されるのだ。
 目が覚めれば忘れてしまう悪夢は、しかし繰り返されるたびに聖女の精神を確実に磨り減らしていく。たまらない娯楽、たまらない愉悦だった。
「さぁ、おやすみアマネ。ゆっくりと眠り、起こりもしない奇跡を、現れもしない救世主を夢見るがいいさ。その希望が大きければ大きい程、絶望も深くなるんだからねぇ」
 地獄の蓋が、ゆっくりと閉じられていく。
 ケルベロスの精を直腸に受けながら、アマネの頬を一筋の涙が伝った。
 こぼれ落ちた涙は焼けた大地に落ち、一瞬で蒸発して、消えた。





―了―






絵:寒天示現流




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