カベノウエノオンナ




◆    ◆    ◆





 ――化粧っ気のない、派手さのない、そんな女だった。

 ここはカベノウエと呼ばれる町。俗にグレートウォールと称される巨大な壁の上に存在しているからカベノウエ、などとそのような安直な名を与えられた町。町のほぼ中央に位置する酒場は常にこの界隈でモンスターを狩って生計を立てているカンパニー社員や、鉄道警備隊の隊員達でごった返している。
 男も、そんな有象無象と呼べる客達の一人だった。
 中堅どころのカンパニーの社員として、昼間は戦車に乗ってモンスターを狩り、またはメカニックとしての技能を生かして戦車や装備に手を加える。そうして一日の就労が終わって後は酒場で安酒を飲み、寝るだけのつまらない生活だ。彼が所属するカンパニーもこのカベノウエまで辿り着いてからはなかなかその先までは進めずにいたし、半ばカベノウエに住み着いてしまった感もあった。
 既に三十代も終わりが見えてきた、引退を考えてもいい歳だ。ならいっそこの町を終の棲家としてもいいのではないかと、男はそんな風にさえ考えてもいた。
 ただ、理由はそればかりではない。
(……今日も来ているな)
 ほぼ毎日、男と変わらぬ時間に酒場を訪れては、そこが指定席だとばかりに決まった席でウォッカを二杯傾けていく、若い女。
 もっとも酒場に来る時間がさして変わらないのは、男の方が彼女に合わせているというのもある。本当に時間が決まっているのは彼女の方だけだ。
 カウンターの、右端から三つ目の席。
 そこが彼女の定位置で、男はそこからさらに三つ程離れた席で同じようにウォッカの酒杯を傾ける。常温の土地で飲むには強すぎるこの酒も、寒冷地であるカベノウエではまさしく命の水だ。雪原でモンスターを狩ってきた身体を適度に火照らせてくれる。男も、初めは不慣れだったものの今ではもうこの晩酌がなければ眠れない身体になってしまっていた。
 グラスに口付ける彼女の横顔を気付かれぬようにチラと横目に見つつ、同じようなペースでウォッカを咽喉へと熱く流し込む。まったく、液体化した炎を飲んでいるかのようだ。
 彼女がどこの何者なのかは知っていた。と言うより、この町を中心にハンター業をしている者なら知らない方が少ないだろう。彼女は町でもっとも大きな人間用の装備屋の店員であり、男もメカニックという職種上そう頻繁に用事があるわけでもないが、店員と客としてなら何度か言葉を交わしたこともあった。
(もっとも、俺のことなど覚えちゃいないだろうがね)
 歳の頃はおそらく二十代半ばか、後半に差し掛かったくらいだろう。若い、と言ってもそれは男と比べての話で、とうに少女の面影は消え失せ、成熟した『女』の色香が素っ気ない装いからも滲み出てしまっている。派手な商売女を好む傾向にあるハンター達には受けがよろしくないかも知れないが、男は違っていた。
 年甲斐もなく、恥ずかしくもあったが、この歳まで根無し草として生きてきた身だ。金勘定抜きでの女との付き合いも久しくしていない。独り身の寂しさと家庭を持つことへの憧れが時折思い出したかのように湧き上がってくる――そんな男の眼に、彼女はたまらなく魅力的に映るのだった。
 二杯目のウォッカを飲み終わったのだろう。彼女が静かに席を立つ。これもまたいつも通り、男は彼女と言葉を交わすようなことは無い。彼女が店を出てから十分ほど、微かに残る彼女の残り香のようなものを感じながらゆっくりと酒杯を干し、帰途に就く。臆病な中年男の、これが日々の生活だった。





◆    ◆    ◆





「……あれは?」
 その日、まったくの偶然だった。
 前日に凶悪なユキザメ“ホワイトランス”を相手に不覚をとってしまったカンパニーは本日臨時休業。特にすることもなく歩き慣れない昼間のカベノウエをうろついていた男は、足早に街路を進む彼女の姿を見つけた。
 何をそんなに急いでいるのか……まさか恋人との逢瀬か、と考えると心中に穏やかならぬ波も立ったが、重ねた歳に比例するプライドが慌てふためくような醜態を許しはしなかった。
 努めて平静に。自分の邪推が的外れであったとしても、平日の昼、わざわざ店を休んでまで彼女が何処へそんなに急いでいるのか純粋な好奇心も、あった。
 後を尾けてみようか、と。
 そんな不埒な考えが、頭を過ぎる。
 正当な理由を、言い訳を探しながら、結局はただどうしようもなく気になるだけで、そんな自身の浅ましい愚かさを軽侮しつつも男の足は勝手に彼女の歩みを追いかけていた。同僚のトレーダーの動きを思い出しつつ、出来るだけ気配を殺して、彼女に気付かれぬよう足早に追いかける。
 彼女は自分が尾けられているなど思ってもみないのだろう。振り返ることなく雑踏を進んでいく。その背中に明らかな昂揚を見て取った男は自分の惨めさに歯噛みした。なのに、好奇心はとどまることをしない。もし男との逢い引きであるならば、相手の顔を確かめてみたいという思いもあった。
 どのくらい歩いたろうか。
 町の中心からは大分遠ざかり、気付けば工場などが建ち並ぶ区画の、さらに奥まった部分にまで入り込んでいた。
 幸いなことに身を隠す場所は多かったものの、こうも人影がまばらではもしバレた際に言い訳が難しい。
(だいたい、こんな場所に何の用があるんだ? 店の、商品の仕入れか? だがもうすぐ工場区画も終わるぞ)
 工場地帯の先に何があるか……この町の人間では無い男でも、知っている。産業廃棄物が垂れ流しになっている汚水まみれの川向こう、一般の住民ならば誰も好んで足を向けようとはしない、町の汚点。
 ――スラム。
 カベノウエの貧民層や、無法者が集い暮らす、そんな場所。
 別にカベノウエに限った話ではない。今のご時世、どこの町にもそんな場所はある。ただ、どうして彼女のような若い女が一人、スラムへ向かうのかが理解出来なかった。
「……むっ」
 結局スラム側まで後を尾けてしまったところ、不意に彼女が狭い路地裏へとその身を滑り込ませていくのが見えた。廃ビルらしき建物に挟まれた空間からは、生ゴミの匂いがする。モンスターよりは多少マシ程度のオバケネズミが足下をチョロチョロと駆け抜けていった。
(最低の場所だな。まるでゴミ溜めだ)
 ハンター稼業とて決して真っ当な生き様とは言えないが、それでもこのような場所で生きていくよりかは数段マシだ。少なくとも、男にはメカニックとしての腕には相応の自信があったし、またこの歳まで幾多の賞金首と対峙し、勝利してきたという誇りが、矜持があった。
 その矜持を重んじるならば、この先へは足を踏み入れるべきではないのかも知れない。
(……だが、俺は)
 グッと、身を強張らせ、眉を顰める。
 結局、男は足を踏み出していた。
 この先で何が待っているのか、予想もつかない。
 ただ、予感だけはあった。ジクジクと、胸の内で何かが膿んでいくような気持ちの悪さに頬を強張らせながら、男は彼女が消えた先を覗き込み――



「ほら、早く脱ぎなよ、お姉さん」
「今さら恥ずかしがるようなもんでもないでしょう?」
 悪辣な笑みを浮かべている少年達は、十代も半ばぐらいだろうか。
 男とは親子ほども歳の離れているにも関わらず、そのすれた目つきは思わず肌が粟立つほどに暗く、どんよりと濁っていた。スモッグまみれの空の下だからそう見えるのではない。本当に濁っているのだ。
 見たところまともな風体には無い、スラムを根城にしている孤児、浮浪少年達と言ったところか。
 そんな連中が、彼女を取り囲んで下卑た要求を突きつけていた。
「もうさぁ、一週間ぶりだし? 俺らも我慢の限界だからさぁ」
「そうそう。すぐにでもね、お姉さんにチンポブチ込みたいの」
 十人余りの薄汚い糞ガキ共の言葉は、男を憤激させるに充分過ぎた。
 メカニックといえど凶悪なモンスター達と二十年ほども渡り合ってきたのだ。町のゴロツキ程度が相手なら素手で充分、いかに目つきが濁り腐っていても所詮はスラムで悪さをするのが関の山の餓鬼など十人いようが者の数でない自信はあった。
 彼女を、助ける。
 その行為がもたらすであろう結果になんら期待をしないでもなかったが、今は純粋な正義感が先にあった。ともあれ、まずはガキ共を叩きのめすのが先決だ。
 武骨な、機械油の染み込んだ拳をギュッと握り締め、男は物影から飛び出そうとして――

「……もう、せっかちね♥」

「ッ!?」
 足が、止まった。
 今のは、何だったのだろう。
 奇妙に弾んだ、明るい声。
 店で客の相手をしている時の愛想とも異なる、男の知らない、声音。
「せっかちなのはお姉さんだってそうじゃねぇの?」
「ホントはすぐにでも欲しくてたまんないくせにさァ」
「もう、そんな恥ずかしいこと言わないでよ……」
 これは一体、どういうことなのだろう。
 困っているのではない。じゃれつく子供に呆れながらも微笑ましく相手をしてやっているかのような、そんな空気が路地裏の一角に立ち籠めていた。
 ワケがわからない。
 硬直したまま、まばたきさえ出来ずにいた男の眼前で、さらに理解不能な事態は加速していく。
「……ンッ」
 おもむろに、裾に手をかけ、彼女は自らのシャツをたくし上げていた。






 彼女は、下着をつけてはいなかった。
 シャツの上からでもよくわかっていた、男がいつも忍び見ていた豊満な乳房が一気に顕わになり、勢いよく揺れる。微かに雪焼けした肌に薄桃色の乳輪と乳首が眩しくて、視線を逸らせなかった。
 それは夢にまで見ていた光景であったはずなのに、今のこれはまるで悪夢だ。気持ちの悪い汗が背筋を伝い、男は眼の奧と喉とが砂漠を行軍中のようにカラカラと渇いていくのを感じていた。
「おほぉおお……いつ見てもたまんねぇなぁ」
「お姉さんのおっぱいはマジこのカベノウエの宝だよ」
「バカなことばっかり言って……本当、しょうのない子達ね」
 他愛もないやりとり。
 今日、初めて襲われたものではない。それどころか脅迫されて無理矢理にやらされている雰囲気でもない。
 誰がどう見ても、双方が望み、同意の上でそうしている光景だ。
(なんでだ……どうして、彼女のような女性がっ)
 無窮の闇が男の意識を包み込もうとする。
 いつも店で見ていた、溌剌とした彼女。
 いつも酒場で見ていた、物静かな佇まいの彼女。
 化粧っ気のない、派手さのない、ただ綺麗だった、女。
 そんな彼女が――
「……あぁ、寒いのに、ホントに……元気……♥」
「だから言ってるだろ。一週間ずっと我慢してたんだって」
「そうそう。ってかお姉さんが言ったんじゃん。オナニーなんてしないで精液溜めとけって」
「だってぇ……フフ。たっぷり溜め込んだ方が、おチンポ汁って美味しいのよ」
「そんなのわかんねぇよ飲んだことねぇもん」
「自分のやこいつらの精液なんて死んでも飲みたくねぇや」
 少年達の笑い声が暗い路地に響く。
 浮浪者らしい薄汚れた、垢まみれの肉棒をギンギンにいきり勃たせた彼らを男は激しく憎悪した。それと同時に、浅ましく羨望してもいた。
 歯軋りが止まらない。
「一週間、私だってずっと我慢してたんだから……今日もたっぷりと、搾り尽くしてあげるわ……君達の、青臭いザーメン……ちんぽ汁。ね♥」
 本当に、これがあの彼女の言葉なのだろうか。
 静かにウォッカの酒杯を傾ける女の面影が、崩れていく。
「臭いわぁ……ほんとう、臭い……ちんぽ、臭い……はぅッ♥ ビクビクって跳ねて、……早く、このくっさいちんぽ舐めたい♥ チンポ汁欲しぃ……くっ、ふぁ♥」
 彼女の眼が、爛々と輝く。
 少年達の濁った瞳に宿る欲望と同種の暗い灯が見えた。それは彼女自身の因果であり、どんなに否定したくても男にはそれを否定する術はない。
 所詮男は手前勝手な幻想を抱き、理想を押しつけていたに過ぎない。彼女のことなど何一つ知らないのだ。
「それじゃ……まずはクチとおっぱいと手で……先ッポから我慢汁ダラダラ垂れ流してるそのチンポ、一発ヌいちゃうわよ♥」
「ああ、お姉さんの手、ヒンヤリしてて……たまんねぇや」
 少年達の肉棒を迎え入れていく女の姿を目にし、逃げ出したいのに男の脚はどうしたものか、まるで石化でもされたかのように動いてはくれなかった。
「あんまりあっさりイッちゃ、イヤよ?」
「うぁあ……っ」
 まだ幼さの残る風貌には不釣り合いなほどに猛っている、少年の剛直。その肉茎に添えられた白指が、ゆっくりと上下していく。
 淫靡な、光景だった。
 シャツをたくし上げ、乳房を露出させた女が浮浪少年の肉棒を嬉しそうに扱いている。その貌は恍惚と上気し、荒い吐息は白靄となって虚空に浮かんだ。
 雌だ。
 まごうことなく、雌だ。
 情欲に支配された、一匹の淫猥な雌。
「約束通り、一週間ヌいたりお風呂入ったりはしなかったみたいね。……ンッ♥ この、指にこびり付くチンカスの匂い……スゴイ、たまんないわぁ……どうすればこんな風に臭くなるの? この包茎ドエロチンポ、もしかして病気なんじゃない?」
「し、知らねーよ! もし、病気でも……クッ、い、医者に行く金なんか無いの、知ってんだろ?」
「知ってるわよ。……まぁ、もしお金あっても医者になんて行かせないけどね。……だって、折角――」
「ぐぃいイッ!?」
「――……こんな、最高のこくまろチンカス製造チンポなのに、治療なんてさせたら勿体ないもの」
 淫魔の囁きが、脳を蕩かしていくのを感じた。
 これまで抱いてきたイメージの中の彼女が崩れ去った後で、全く新しい彼女の、本性とも言える象が男の中で鋳造されていく。
 浮浪少年達の性器を求め舌舐めずりする、欲情の獣。それが悔しくて、悲しくてたまらないのに興奮する以外に無い。男には、見続けるしか出来ない。
「フフ……臭ぁい。アナタ達、いくらお風呂に入れないからってこれはちょっと酷すぎじゃないの? 絶対に……ンッ、ふぅ、スン、スンッ……♥ チンカス腐って、発酵してるわよこれぇ。臭いわ……はぁ……チンポ、臭すぎぃ……♥」
「その臭いのが大好きだからここに通ってるくせに、ひっでぇお姉さんだよなぁ」
「いい、じゃない……ん、あぁ♥ 慈善事業、よ……恵まれない子供達の、恵まれない童貞ドエロチンポの筆下ろしなんて……はぁ♥ 私以外に、誰が悦んですると思ってるの? こんな、皮の下で……漏れたチンポ汁腐らせるしか出来ないでいたような……最低の駄チン♥ この駄チンを手マンコで扱いたり、口マンコで咥えたり、乳マンコで挟んだり、子宮マンコで大量のチンポ汁受け止めてあげたり直腸マンコで精子吸収してあげたのも、全部私、でしょ? ……私以外に、誰も出来ない、わよ……♥」
「まぁ、そりゃそうかもね」
 納得しながらも、少年達の顔に浮かんでいたのは冷笑だった。
 哀れで無様なスケベ女に、自分達がわざわざチンポを恵んでやっているんだぞ、とでも言いたげな勝ち誇った顔。
 負け犬である男の眼には、もはやそうとしか映らなかった。
「ほら、しゃぶってあげるから……来なさいよ」
「へへ、そいじゃ今日のおクチ一発目は俺ってコトで……」
「んだよズリぃなぁ。お前この前も一発目じゃなかった?」
「早いモン勝ちだよ。ホラ、お姉さん」
「はぁむっ♥ ンッ、ちゅぷ、んぷぅ……ふじゅ、じゅぷるる♥ ……はぁ、もぉ、相変わらず君の大きくて、アゴ外れそ……どうして栄養不足で痩せ細ってるくせに、チンポだけはこんなにブッといのよ、アンタ達……ふむ、ぢゅるる、ぢゅっ、んぶぁあ♥ ……臭い上に、無駄にデカくて、硬くて……熱い……あ、はぁ♥」
 なんて美味そうな貌で、肉棒を咥えるのだろう。
 今までに金を払い、商売女と寝た事は何度もあった。プロの娼婦という職業上、彼女達は男の望みをかなえるべくどのような痴態をも演じてくれたが、その全てが色褪せていく。
「この……っ、裏筋の辺りに溜まってる恥垢が……んぁあ♥ 一番、珍味なのよ……フ、フフ……ん、むぅ……ふぅ、んはぁ♥ 皮と亀頭の、この繋ぎ目のトコに溜まってるチンカス、今、刮ぎ取ってあげる……レロロ、じゅる、ちゅぷ、……んぢゅ、ぷぁ……ンッ♥ ……ほあ、ほえ、ほんあにはっふひ……♥ 美味ひぃ、わぁ……ちんぽ、美味しすぎて、舌、痺れそうよぉ♥」
 舌の上にわざわざ恥垢を乗せてそれを少年達に見せびらかし、女は満足気に笑むとその老廃汚物を音をたてて咀嚼し始めた。
「ンッちゅ♥ クチュ、はむ……ん、……フ、フフ……ん、むぅ……じゅチュ♥」
「ったく、ほんとお姉さんって……エロいよなぁ」
 痴女の狂態に頬をやや引き攣らせながら、それでも少年達の肉棒は寒空の下でギンギンに怒張していた。
 男も同様だった。
 物陰に隠れ事態の一部始終を見つめているその股間は熱く張って痛いくらいだ。今すぐにでもズボンの中から取り出し、この場で手淫を始めてしまいたい。
「エロいなんて、失礼ね……まっ、いいけど。……ほら、そっちもチンポ寂しそうにしてないで、おっぱい使っていいから♥」
「おおっ! んじゃ今日は俺がパイズリ一番乗りィ!!」
「あんっ♥ ちょっと慌てないで……んぁああっ♥」
 悦び勇んで彼女の胸、乳房で形作られた女陰へと剛直を突き立てた少年は、そのまま女への気遣いなど一切無視した独り善がりなピストンを開始していた。子供故のただ乱暴なだけの稚拙な性交だ。他の少年達も、彼女に翻弄されるばかりで達者なのは口先だけ……そう思うと、多少は溜飲が下がる気がした。
(アレなら、俺の方がよっぽど彼女を満足させてやれるはずだ)
 くだらぬ自尊心ながらも、その虚勢が今の男には精一杯だった。自分の方が雄としては勝っている、彼女はその事実を知らないだけなのだと言い聞かせる事で精神の安寧を謀る愚かしさに、それでも男は縋ろうとした。
 なのにそんな自信も、他ならぬ彼女の表情によって打ち壊される。
「くはぁああああッ♥ イイッ、いいわぁちんぽイイッ♥ もっと突いてっおっぱい突いてメチャクチャに突きまくってぇえんぁああああ♥ 乳首擦れるぅ勃起乳首に勃起チンポ擦れてるぅ♥ もっと抉ってぇおっぱい肉抉ってぇえっ♥」
(なっ、どうしてだ!? あんな、ただがむしゃらに腰を振って乳房に打ちつけているだけなのに、どうして……蕩けそうな顔を……何故、……君は……っ)
 男の息遣いも荒くなっていく。股間の猛りはとうに限界だ。
 悔しくて、情けなくて、わけがわからないのに、視線は逸らせない。
「ああああっ♥ 沁みるっ、チンポの匂い、おっぱいに沁みついちゃうッ♥ きったなくて臭ぁいチンポ臭、チンカスこびり付いて……ひはぁああ♥ こんなんじゃ匂いッ、とれなくなって……アッ♥ 仕事中、バレ……バレ、ちゃうぅ♥ 私がちんぽ狂いの、チンカス舐め女だってカベノウエ中に知れ渡るぅうう♥」
「そんなんバレたって別にいいだろ!? むしろもっとたっくさん、俺達みたいなガキだけじゃなく脂ぎったおっさんも死に損ないの爺さんもみんなお姉さんのこと犯したくて店大繁盛間違い無しだぜ! 毎日毎日このエロパイでちんぽ扱きまくって、疲れた客にはエナジードリンク売りつけてまた扱きゃいいよ!」
「ダメぇええ♥ そんな繁盛ダメよぉうちの店ちんぽ扱き屋さんになっちゃうおっぱいで臭チンポ扱くのがお仕事になっちゃうのぉお♥ そんなのダメっ、ちんぽ仕事ダメなのぉダメぇえええ♥」
「いいじゃんもう! パイズリチンポ扱き女で充分いけるって! あーーーお姉さんのおっぱいキモチ良いー。このパイズリマジで病みつきになるわぁ。俺マンコよりこっちのが好きだよ。うっ! く、フンッ」
「うっせーなぁさっさと射精しろよバカ。猿みたいに腰振りやがって」
 パイズリで女が感じるなんてあるわけがない。そんなのは、男にとって都合の良いただの幻想、妄想の類だ――ずっと、そんな風に考えてきた。
 フェラチオもパイズリも、それで感じているように商売女達が喘いでいたとしても所詮は演技だ。それを理解しつつ、こちらも騙されてやる。それが金で女を買って抱くという事なのだと男は考えてきた。
 なのに、彼女は本気で感じているようにしか見えない。
 胸に剛直を挟み、手で肉竿を扱き、舌で亀頭を舐め回しながら、女の欲情はどう見ても本物だった。嘘偽りのない、快楽の虜だった。
「くひっ♥ うぅ……おっぱいぃい♥ んくっ、んぁあああああ♥」
「はは、乳アクメしてらぁ。もうお姉さんおっぱいだけでいいんじゃね?」
「ンッ♥ ふ、ふふ、あはぁ♥ そんなコト、言ってぇ……で、でもぉ……ちゃんと後でオマンコにも、挿入れてくれるわよね? ……そ、そりゃ私も、おっぱいこうして犯されるの……はぅンッ♥ 大好き、だけど……それだけじゃ、無いし……ほら、こっちももう……トロトロだから……」
 そう言って彼女はジーンズに手をかけると、スルスルと脱いであっさりと秘部を寒気に晒した。勿体ぶるつもりなど毛頭無い……と言うよりは、本当に、もう我慢が出来ないのだろう。
(あ……あっ)
 男の眼にもはっきりと見えた。
 愛液に濡れそぼり、テラテラと輝く陰部。そこに触れた手が糸を引きながら眼前へと翳されていく。紅潮した顔、涙を溜めた目尻、渇いた唇を舐める淫靡な舌。それら全てが媚毒となって、少年達の喉をゴクリと鳴らさせた。そして、愛液をまぶした指が、正面に立つ少年の肉棒をツーッとなぞる。
「……ね? もう、こんななの。くっさいおチンポに囲まれて、指にも舌にもおっぱいにもチンカス擦りつけられて、沁み込まされて……オマンコ我慢なんて出来るわけないもの……だから――」
 肉付きのいい脚が開かれ、ソコが顕わとなっていく。
 控え目な茂みに覆われたクレバスからは止め処なく愛液が溢れ、太股を伝い地面を汚していた。そこから立ち上る湯気のリアルが、男の胸を痛打する。あまりにも現実的で生々しく、女がオンナとして少年達を貪ろうとしている光景に、いつしか男は自らもズボンから肉棒を取り出し、肉竿を激しく扱き始めていた。





◆    ◆    ◆





「いひぃいいい♥ んぁっ、イイッ! ちんぽぉ♥ おちんぽもっと、もっといっぱいズポズポしてぇ犯しまくってぇえっ♥」
 手に、口に、髪に、乳房に、腋に、腹に、膣に、尻穴に――およそ肉体の全ての部位を濃厚な精液で汚しながら、彼女は狂喜悦楽の極みにあった。
 少年達にも容赦など欠片も無い。ほんの僅かにでも隙間があればそこに身体を滑り込ませ、彼女の肌に亀頭を擦りつけて射精する……その繰り返しだ。
「ヒグッ! ひぐぅうううぁあああああ♥ スゴいぃいいこっちのチンポもそっちのチンポもこの皮被り包茎チンポもどれもイイッ、最高よぉおお♥ んヒッ!? おっ、ぬほぉおおおおおおおおおおお♥」







「はぁ、はぁ……ま、また射精るぅ!」
「お姉さん、お、俺もぉお!!」
 一人、二人、少年達の腰がビクビクと震え、黄ばんだ精液が弧を描いて宙を舞う度に、彼女の貌には法悦の笑みが浮かんだ。
「んむ♥ ジュル……ん、チュッ……はむ、レロ……むぅ、はぁ♥ ……アッ♥ まだまだ、濃いわぁ……チンポ汁、コッテリとして、喉にからんで窒息しそう♥ ……ンッ、美味し……ちんぽおいしいぃ……ふぁあ♥」
(ああ、またあんなに……ぐっ)
 精液を本当に、演技など欠片も無く赤心から美味そうに飲み干す姿に、男もまた何度目かもわからぬ射精に身を震わせていた。
 男が潜んでいる物影の壁も地面も、既に彼自身の放った精液でベットリと汚れていた。もうすぐ四十の大台に乗ろうという男の射精量とも思えない。自慰を覚えたての頃を彷彿とさせるそれに圧倒されながらも、男の肉棒に萎える気配は一向に無かった。
「んぁああああっ♥ そう、そこォ! おへその裏のトコまでチンポ届いて……ひぅううううううう♥ すごいぃイイ♥ 子供チンポすごいのっ子供チンポぉお♥ 膨らんでる膨らんでるぅうううオマンコのもケツマンコのもちんぽすっごい膨らんでんほぉおおおおおおおッ♥」
 彼女の嬌声が響き渡るたびに、陰茎へと血液が大量に流れ込んでいくかのような感覚に男は頭を振った。
 なんて惨めなのだろう。
 こんな場所で、情を寄せていた女が浮浪餓鬼の集団に輪姦されているのを見ながら醜い逸物を扱いているだなんて、もはや滑稽……喜劇だ。
 だと言うのに、
(ああ、それでも……)
 女の姿は、美しかった。
 精液にまみれ、垢だらけの肉棒で全身を汚されながら、それでも快楽を貪るままに乱れ狂う彼女を、男は心の底から美しいと感じてしまっていた。
「イクッ♥ またイクッ射精チンポでイかされちゃう子宮直撃チンポ汁でアタマ飛ばされるバカにされひゃうぅううう♥ ちんぽッ♥ ちんぽちんぽちんぽちんぽちんぽぉおォ♥ 射精して射精してドロッドロの孕ませちんぽ汁勃起どエロちんぽからたっぷり吐き出して受精させてぇええええッッ♥」
「イク! イクよお姉さん!!」
「こ、こっちもナカに射精すよぉ!!」
「くひぁあああああああ♥ きたきた孕ませチンポ汁きたぁあああ♥ 子宮ッ子宮溢れちゃう子宮も直腸も子種満杯であふれひゃうぅうひぃいいいいいッ♥ カラダ全部内も外もちんぽの匂いつくとれなくなるのぉおおお♥ ひぃいいいいイクッ、わたしもイクイクイクちんぽで狂うアタマのナカ全部ちんぽになるちんぽアクメするぅうううぁああああ〜〜〜〜〜〜ッッ♥」
 少年達が次々と限界を迎え、精液を爆発させていく。精液の絨毯爆撃を受け、女も絶頂を繰り返していた。仰け反りすぎた背は折れていないのが不思議なくらいだ。突き出した舌の先まで、全身が細かく痙攣している。……そんな、状態であるにも関わらず、
「うっ……あ、はぁ♥」
 極痴のアクメを晒しながら、なおも貪欲に腰を動かそうとする女を見つめ、男は口の端を吊り上げていた。
「もっと……もっとぉ♥」
 なんという女なのだろう。まさしく、オンナそのものだ。雄の精を喰らい、悦びに打ち震えながら生きる、本能の肉欲が権化した姿だ。
「ちんぽぉ、おちんぽぉ♥」
 今夜もきっと彼女は酒場に現れるに違いない。
 艶麗な姿から香るのは仄かな香水。
 そして、精液と愛液とが混じり合った、淫蜜の香りだ。
 そんな彼女と、いつものように言葉も交わさず擦れ違う。
 三つ程離れた席に座り、横顔を覗き見る。
 その邂逅を待ち侘びつつ、男もまた吐精し、果てるのだった。





〜end〜







イラスト:寒天


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