◆    ◆    ◆





「何故自分がここに召還されたか、聡明な君はとうにわかっているはずだね、同志フィカーツィア・ラトロワ」
 相変わらず声だけは威風堂々、大したものだとラトロワは内心で嘆息した。票取り演説だけは昔から巧い男だ。この声に宿る威圧感に、凡百はコロリと騙される。騙されてからようやく知ることになるのだ。目の前の男が全くの無能、小心で保守的で挙げ句の果てにどうしようもない下衆な悪癖の持ち主であることに。
「……承知、しています」
 鬱陶しげに答え、ラトロワは視線だけを動かしてカムチャッキー基地のほぼ最奧に位置するもはや見慣れた灰色の部屋に集った下衆共を見回した。
 どいつもこいつも覚えのある顔だ。新顔も少しいた気もするが、覚えていたところで何か得をするわけでもない。むしろ鬱々とした今日の空模様のように黒でもなく白でもなく曖昧な色に塗り潰してしまいたかった。
「君の度重なる独断専行、命令違反にも、我々は目を瞑ってきた。それは君がこのロシアの地を守るために身命を賭していることを知っているからであり、また命令違反も己が身の可愛さではなく常に部下や他の同志達を守るために行われているというその善事善行を寛大に理解しているからだ」
 お決まりの文句だ。
 心にも無いことをよくも大仰に言えるものだと感心する。
 出撃から帰還後、衛士強化服から着替える暇さえ与えられずの出頭命令。これで何度目になるだろう。数えるのも馬鹿馬鹿しくて、とうにやめてしまった。
 とは言え、個人的には満足していた。
 撤退命令が出ていたにも関わらず、取り残されていた車両部隊を救出するために部下数名を連れて戦場へUターン。やれる自信はあったし、また結果として車両部隊を救出することも出来た。
 見捨てる必要など無い場面だった。支援部隊をもっと手際よく動かしてさえいれば何も問題はなかったはずなのだ。だのに先日補充されたばかりの新兵をそうと知りながらも上手く動かせなかった司令部の尻ぬぐいをしてやった果ては命令違反による出頭だ。ウンザリもする。
「だが……それでも我々は軍属だ。軍において命令の遵守は絶対でなければならない。わかるね? 同志ラトロワ」
 もっとも。
 連中は元からラトロワの命令違反を咎めるつもりなど欠片も有りはしないのだ。必要なのはこうやって喚び出すための名分に過ぎない。
 ニヤニヤと、ラトロワに注がれている視線の全てがこれから始まる“娯楽”に色めき立っていた。
 そう、娯楽だ。
 娯楽など何も有りはしないこの時代この戦場で、彼らが一時の享楽に耽ろうとすることまでラトロワは文句を言いはしない。自分と、そして部下達にさえ関係がなければどこで何をしてくれようと構いやしないのだ。
 なのにままならないものだと思う。
「まったく心苦しい。毎度のことながらね、胸が張り裂けそうな思いだが――」
 己の演説に酔えるタイプというのは、ラトロワのような叩き上げの軍人からしてみればまったく理解できない類の人種だった。戦場では、殊にあのBETAという化物共が相手では演説をする間も、また己に戦果に酔う暇さえもありはしない。後方だからこそ堪能できる、これも一つの娯楽ではないだろうか。
 もっとも、そんな演説も終わりが近いのだろう。
 周囲の息遣いが荒い。
「今から、君の査問会を行う」
 鼻で笑ってしまいそうになるのを、ラトロワは必死に堪えた。
 査問会。
 もはやお馴染みの文句だ。“アレ”のどこが査問なのか、それこそこの場にいる連中を片っ端から査問にかけて聞き出したいものだが、そうもいくまい。
 小さく溜息を漏らし、ラトロワは一歩前へ出た。
 強化服に包まれたままの成熟した肢体は、飢えた獣達の荒い息遣いを前にしても一切怯むことなく気丈だった。
 何て事はない。
 どうせ、すぐに終わる。この程度で部下や友軍の命を守れるのなら、安いものだ。
「君は己の全身全霊を駆使して、我が身の潔白を証明してくれたまえ」
 それが、ご大層な演説の最後だった。



「……ふ、ふっふふふふ。いやはや、待ちくたびれてしまいましたよ」
「ええ、ええ。同志ジュガーノフ。私もこれ以上は我慢できそうにありません。見てください。もう、溢れてしまいそうだ」
 そう言って、小太りの老将官はラトロワの鼻先へと限界まで勃起した醜い肉棒を突き出してきた。老人特有の匂いとアンモニア臭とが混ざり合って吐き気がしたが、まさか吐くわけにもいかない。あくまで従順に、査問会という名の淫辱を受けることが今のラトロワに科せられた忌まわしい使命だった。
「同志ベリャーエフ、そう急ぐこともありますまい。どうせこの会は朝まで続くのですから。それまで、じっくりと同志ラトロワを査問にかけるとしましょう」
 そう言ったのは痩せぎすの初老の将官だ。少し力を入れてやれば折れてしまいそうな、朽ち木のような手足である癖に、ラトロワを前に昂奮しきっている肉棒は臍まで届きそうなくらいに反り返り、朝まで続く淫交を期待して脈打っていた。
「ク、クフフ。同志ラトロワ、それでは早速始めようか」
 言われるままに、ラトロワは小さく頷くとゆっくりと将官達の剛直へと手を伸ばした。
 これが――ラトロワが命令違反、またはその疑いがあると勝手にでっち上げられた際にいつも催される“査問会”という名の饗宴だった。
 要は暇潰しだ。
 前線を知らずして成り上がった高官共の、戦場における娯楽の一つ。
 彼らが劣等民族と呼ぶところの夫を失った年増女を辱め悦に浸る、おめでたい程に馬鹿馬鹿しい宴が始まるのだ。
「さて同志ラトロワ。今君の目の前、手の中にあるモノは、何かね?」
 いつもと変わらぬ戯けた問答。
 ラトロワは皮肉気な笑みを浮かべながら、握り締めた剛直を扱きつつ答えた。
「……チンポ、……です」
「そう、チンポだ。誇り高きロシア民族の血を遥か後世まで残すための、偉大なるフイだよ。劣等たる君の亭主のモノとは雲泥の差だろう?」
「……は、い」
 歯噛みしそうになるのを堪え、ラトロワは指先で裏筋の辺りを弄びながら熟達した手管でもって陰茎を扱きあげた。
「お、おぉ、ほお……まったく、同志ラトロワ……君は素晴らしい。どうして君のような素晴らしい女性があのような男と……君も、今では後悔しているのではないかね? 劣等民族のチンポでは、夜も満足できなかったろう」
「……はい」
 機械のように返事をし、ラトロワは内に宿る激しい憤怒と憎悪を必死に、ひた隠しにしながら下衆共に奉仕した。なるほど、言うだけあって歳のわりにはどれも大したものだ。もっとも、どのような薬を服用しているものだかわかったものではない。折角発達した医療技術も彼らのお遊びに用いられようとは、この人類の黄昏にあって嘆かわしいにも程がある。
「ふ、ふ……いいぞ。もっと強く、早く扱くんだ」
「そうだとも。君は今、愛する祖国に奉仕しているも同然なのだから」
「君の中の愛国心のように、我々のチンポを愛し慈しみたまえ」
 祖国を愛する心は――無論、ある。
 BETAによって蹂躙された国土を取り戻すために日夜戦っているのは事実だ。だがそれと、彼ら醜悪な老人共に奉仕するのとを一緒くたにされてはたまったものではない。
 唾棄したい思いに駆られながらも、ラトロワは老人達を一刻も早く満足させるべくさらに熱の入った動きで肉竿を扱いた。
「どうだね? 君も興奮するだろう?」
「……はい」
 興奮など、どうしてするものか。
 どうせなら色に狂った、それこそ彼らが自分に使う“売女”という陰口通りに淫乱な雌を演じてやればさらに早くこの馬鹿げた宴を終わらせられるかも知れない。しかしそこまでは、出来なかった。
 ラトロワは誇り高い女で、軍人だった。
 その誇りは己のためのものではなく、あくまで部下を、子を、今は亡き夫を愛し、軍人として守るべきものを守る事のためにあって、そのためなら身命を賭すことになんら臆することなく、斯様な羞恥ですら必要ならば甘んじて受けられるのがラトロワだった。それでも……例え演技でも、彼らのような下衆を相手に色に狂ったような真似をすることだけは出来そうになかった。
 このまま耐えていればいい。
 朝まで連中の相手をしてやって、充分に満足させてやれば、またいつも通りの日々が始まるのだ。部下達を鍛え、BETAを駆逐し、今は遠いところにいる息子と、そして亡夫への想いを胸にヴォトカを傾ける。
 死と隣り合わせの、けれどだからこそ生きていることを否応なく実感出来てしまう日々。その日々を生き抜くために、これすらも必要なことなのだ。
「お、おおっ、そろそろ一発目だ……イくぞ! う、受け止めろ!」
「ワ、ワシもだ! お、おぅおおおっ!」
「射精るぞっ! ぐっ、おぉおおっ!」
「……う、く……ッ」
 急に飛んできた精液に、目を瞑るのが遅れてしまったラトロワは思わず痛みに呻いていた。老齢のわりに勢いよく放たれた精液はラトロワの全身にブチまけられ、彼女の強化服をドロリとした白濁液が汚した。
 ご苦労なことだが、随分と溜め込んできたのだろう。
 黄ばんだ精液はまだ先端からビュクビュクと射精され続けている。どいつもこいつも、この一度きりではとても終わってくれそうにはなかった。





◆    ◆    ◆

◆    ◆    ◆





「ほ、ほほぉ……相変わらず、君の腕は大したものだ」
「まさにロシアの誇りじゃよ、同志ラトロワ……んっ、ぐ、ぅ」
 言いつつも、まだまったく衰えていない。
 射精したばかりの肉棒はまだまだこれからとばかりに波打ち、亀頭を震わせ、赤黒く浮き出た血管を脈打たせていた。
 薬の力とは言え本当に大したものだ。
 内心で毒突きながら、ラトロワは作業を再開しようと彼らの陰茎をもう一度握り締めた。今度は先程よりもさらに強く扱いてやるか、それとも口の方を使ってやった方がさっさと終わってくれるか。
 連中は朝までのつもりでいるのだろうが、出来る限り早く終わらせてから熱いシャワーを浴び、全てを忘れて眠りたい。
「さ、さぁ。もう一度ワシのチンポを……頼むぞ。フヘヘ」
「こっちもなぁ。念入りに愛してくれたまえよ」
 やはりもう一度手でしてやった方が良いか、と。
 ラトロワが陰茎に手を添えたその時だった。
「……ふむ」
 先程射精していなかった、この中で一番年嵩で地位も高いとある将官が、ラトロワを見下ろして何やら不満げに嘆息していた。
「……なにか?」
「いや、なに。同志ラトロワよ」
 ラトロワのある種の諦観を、老人達はこれまで許してきた。
 必要なのはラトロワの艶熟とした身体だ。ジャール大隊を率いる、ロシア軍きっての女傑が自分達の前に衛士服を着たまま跪き、奉仕する……それだけで彼らは満足してきた。
 ……今までは。
「この査問会も、今回で果たして何度目になるか。……君の愛国心、忠誠心に疑うべきところは無いと、私はそう思っておる」
「……ありがとうございま――」
「だが」
 皺に埋もれた濁った目を見開いて、老人はフェッフェッと不気味に喉を鳴らした。
「それももう、飽いてきた。……君には、さらなる愛国心を見せて貰いたい」
 枯れ木のような指がパチンと鳴らされ、
「ッ!?」
 唐突に現れた気配にラトロワが振り向いた時は、もう遅かった。
「なっ」
 老人達の合間を縫うように。
 黒服の男が二人、ラトロワの腕と肩を掴み、一本の注射器を首筋にあてていた。
「なに、を……うっ!?」
 注射器内の液体が一気に注がれていく。
「か……はっ、あ……」
 頭の中がぼやけた。急激に熱湯でも入れられたような、かと思えばゾクリと背筋は震え、熱く身体は火照っているのに凍えそうなくらい寒い。
 麻薬か媚薬か。
 おそらくはそのどちらかなのだろう。まさかそんなものまで使われるとは思っておらず、油断した。彼らは自分を売女と罵り嘲りながらも、同時に一軍人、衛士としての能力を高く評価していると安心しすぎていたか。
「なぁに、後遺症のようなものはないよ、同志ラトロワ。そう不安そうな顔をするものではないな」
「ふ、ぐ……ぅ……ッ」
 舌や唇を強く噛み、なんとか意識を保とうとするものの、まるで奈落に真っ逆様に突き落とされたかのようだった。
 浮遊感がある。
 戦術機に搭乗し、噴射跳躍したときのものとはまるで違っていた。
 全身が昂揚しているのだ。
 あってはならない感覚に。
「クックク。そう、後遺症はない。後には何も残らない。君は優秀な兵士のまま、同時に優秀な娼婦に……そう、本物の売女になるのだよ」
 ニヤニヤと笑う老人に、ラトロワは唾を吐きかけてやりたかった。
 が、その程度の自由さえ効かなくなった身体は、ゆっくりと傾いていた。





◆    ◆    ◆





「んっ、ふ、むぅっ……ふぐ、……ん、ちゅぱちゅぱ……む、んん、ふむぅううんッ」
「いやはや、我が国の技術力にはまったく驚嘆させられる。まさかあの跳ねっ返りがこんなにも熱心にチンポをしゃぶる愛国者に早変わりとはねぇ」
 ラトロワの舌使いに感嘆しながら、将官の一人は満足げに何度も頷くと半乾きの精液によって少しばかり固まってしまった彼女のアッシュブロンドの髪に触れ、ゆっくりと撫で回した。
「くひっ!? んっ、……むぐ、ふぅうううんっ!」
 たったそれだけ。
 頭、髪に触れられただけだというのにラトロワの全身は細かく痙攣し、股間を大量の愛液で湿らせてしまう。本人がどれだけ抵抗しようとも、薬の効果は肉体を完膚無きまでに蝕んでいた。
「フフ。しかしその目が良い。身体は快楽に屈しようとも、精神だけは折れないとでも言いたげな目が最高にそそる」
「ハハハ。まったくですなぁ。しかしその精神も、果たしていつまでもつことやら。何せ劣等民族のチンポにも容易く屈して尻を振っていた女……おっと、そのような言い方は失礼だったかな同志ラトロワ」
「ふぐ……ん、む……ぐ、ぶぅ……ッ」
 亀頭を頬張ったまま、憎々しげに老人を睨め上げ、ラトロワは出来ることならこのまま男根を噛み千切ってやりたい衝動に襲われた。
 なのに、出来ない。
 あの薬の効果なのか、精神がどんなに拒否しようとも肉体が勝手に快楽を求め、下衆共にこれ以上なく熱心に奉仕してしまうのだ。そのなんと悪辣なことか。
 精神ごと破壊するような薬は敢えて用いず、あくまでラトロワ自身が肉体の快楽に膝を折るのを待っているのだ。
(……クソッ! なんという……快楽主義のクズ共め!)
「んむぅ、んんっ、じゅぷ……ちゅぱ……ペロペロ、んちゅ、むぅ……っ」
「はっは。いいぞぉ同志ラトロワ」
「フフ。しかしクチでの奉仕にばかり夢中になっているのはいけないな。折角の胸が宝の持ち腐れだぞ?」
「んぐむぅううっ!? んぷっ! んぁひぃいいっ!?」
 唐突に乳首を抓られ、ラトロワはあまりの快感に目を剥いた。
 まるで全身が性感帯となってしまったかのような今の状態で、元々感じやすい乳首に不意打ちを喰らったのだ。その衝撃たるや、幾つもの雷に全身を隈無く打ち据えられたかのようだった。
 硬直し、痙攣していた肉体が徐々に弛緩していく。それに合わせ、もう一度老人はラトロワの乳首を抓った。
「ンィイイイイイッ!? カッ……ふぐっ、ぁあああっ! ……あ、あぁあぉぉおおお」
 クタリ、と身体が萎れる。
 と同時に、股間から愛液や汗以外の液体が流れ出て床を汚していた。
「おいおい、同志ラトロワ。いかんぞ、ここはトゥワリェートではないのだ」
「まったく……雌臭い小便を撒き散らしおって! 君は厳正なる査問会をなんと心得ているのかね?」
「不心得者め。まぁ、いい。小便は許してやるから、その感じまくっていたデカ乳を使いしっかり奉仕するがいい」
 いかに気丈なラトロワと言えどもこの仕打ちは堪えた。が、ここで少女のように泣き出し、許しを請うてどうにかなるものでもない。
 股間の気持ち悪さに耐え、ラトロワはまだ痺れている乳房に手をあてると、目の前に突き出されていた剛直を挟み扱き始めた。
「……んっ、……く、……ぁ……う、あっ……」
 扱き、擦るたびに、先程の衝撃が甦ろうとするのを感じた。
 なるべく乳首に触れないよう気をつけつつ、しかし肉体の方は再びあの雷撃を感じたがっているのか頻りに指を勃起した先端部へと伸ばそうと繰り返す。
 鉄の意思が揺らぐのを、それでもラトロワは耐えた。
 耐えながら、丹念に胸で挟んだ剛直を扱き、擦り、……身体の疼きを、そんなものは有り得ないのだと誤魔化す。
 股間が熱い。
 ジュクジュクと、先程の小水と、愛液と、汗とが交じり合い、部屋中にミックスされた淫蜜の匂いが充満しようとしているかのようだった。さらにはそこに老人達の肉棒から漂う饐えた匂いが加わり、ラトロワの脳を狂わせようとするのだ。
(……馬鹿馬鹿しい……ッ)
 こんな、匂いなどに負けてなるものかと半ば意地になりつつラトロワは左右の乳房を交互に動かした。
「おっ、おお……素晴らしい、素晴らしいぞ同志ラトロワ。ク、フフ……この乳の感触ばかりは、やはり若いだけの小娘では、いかん。妻であり、母であった女の乳房だからこその味わいというものよ……は、ぁああおぉおお……ッ」
「んっく、はっ、んふぃいいいいいっ!?」
 興奮のあまりか、突如老人が自らも腰を突き入れたことによりラトロワは目の中で火花が散った気がした。
 熱い。
 どこが熱いのか、混乱する脳で必死に考え、それが胸であると判明したと同時に今度はまた別の部位に火が灯った。
「んぁあぁあああああっ!?」
 どこだ、と。
 目が彷徨う。
 虚空を彷徨い、やや下に移り、自らの身体を見回して、理解する。
(は、腹だとっ!?)
 中腰になった一人の将官が、ラトロワに抱きつくようにしてその鍛えられた腹筋に亀頭を擦りつけていた。
「ふはははぁ……素晴らしいな、この鍛えられた強まり具合がまた、……年増女のタプンとした柔らかい肉付きも良いものだが、鍛え抜かれた軍人のものもまたなんともはや、よい感じだわい」
「んくっ、……ふっ、ぁあああぅうう……ッ!」
 予想外の部位に灯った熱が、ラトロワの鋼鉄の精神に亀裂を走らせていた。
 乳房も、腹も、どうしようもなく、熱い。
 その熱に耐えうるだけの防壁が、果たして今の自分に残されているのだろうか。
「ん? どうしたのかね、同志ラトロワ。目が潤んでおるぞ?」
「フッフフ。チンポの感触に感動したか」
「構わんよ。大いに感動し、奉仕したまえ。このチンポこそが、君が仕えるべき主なのだから……なっ!」
「ひぅううぎぃいっ!?」
 剛直を挟み扱いていた乳房が、老人のものとは思えない腕力で握り締められていた。今度のは雷どころではない。もっと凶悪な、それこそ機体を要撃級に殴りつけられでもしたかのような衝撃だった。
「……あっ……ぐ、ふ、ひぅぅ……〜〜ッ……が……はぁ……」
「ほれほれ、休んでいる暇など……ん?」
 その時だった。
 ラトロワの胸を蹂躙していた将官は、何かに気付いたように怪訝そうな顔をし、やがて満面の笑みを浮かべると強化服の胸部をビリビリと乱暴に破り、快感に打ち震えている乳房を外気に晒した。
「……ほ、ぉ。これはこれは……クッ、クッククク!」
「ははぁ、なるほど……コレは素晴らしい」
 老人達が何をそんなに感心しているのか。
 握り潰されそうになった衝撃によって失われていた胸の感覚が戻るに連れ、ラトロワもようやく理解した。
「こ、……ぁ……こ、これ、は……」
 ラトロワの乳首の先端から、僅かではあるが母乳が漏れ出していた。
 息子が乳離れしてから長いことそのような気配など無かったのに、先程の無茶な愛撫に反応してしまったとでもいうのだろうか。
「クックク! たまらん、たまらんなぁ同志ラトロワ! 君は最高だよ……この国を守る軍人であり、我らを癒す女であり、同時に母でもあるのだから!」
「んひぃああぁああああっ!!」
 咄嗟に胸を庇おうとした動作も緩慢で、ラトロワは何も出来ないまま再び胸を強く荒々しく揉みしだかれ肉棒への奉仕を強要された。
 頭がおかしくなりそう――もしかしたら、もうおかしくなっているのかも知れなかった。強く強く胸を揉まれ、握られ、挟んだ肉棒をしごかされる度に、頭の中に赤い靄がかかったようになるのだ。
 さらには、胸だけではない。
「お、おおおほほ! 母乳が腹まで垂れてきおった! よしよし、これでもっと腹の方を擦ってやるからなぁ」
「ほれ、乳だけでなくクチも使わぬか! 亀頭や幹だけでなく、袋の方も……おっ、おおおっ!」
「んぐっ、ちゅぶ……ちゅぷ、んっ、レロ……ちゅっ、ペロ、ペロ……くっ、ふ……あっ、あっ……ぁああああっ♥」
 声に、甘い響きが混じる。
 悲鳴でも呻き声でもなく、明らかな嬌声だった。
 艶を含んだ甘ったるい声が――夫が死んで以来、一度たりとも零れ出たことのない淫声が、口を衝いて……吐き出されていく。
「ひぃああああっ♥ あっ♥ やめっ……ンくひぃいぃぃぃいいいイイイッ!?」
 たまらない。
 堪えられない。
 堕ちる。
 堕ちていってしまう。
(――あ、……ぁ……た……)
「ふっ、おぉおおおまた射精るぞぉおおッ!」
「イくぞ、お、おっ、おぉおおおおおっ!」

 ――奈落の、底まで。

「ひぅいぃいいいぎぃいいいぁあああああああああああああああああッッ♥」





◆    ◆    ◆

◆    ◆    ◆





 目の前も、それに頭の中も、真っ白だった。
 どこまでも広く白く、なのにそこは闇なのだとラトロワは理解していた。
 何故なら、こうして目前に広がっているのは奈落だ。
 自分は、そこに堕ちたのだ。
「フフ。さぁ、同志ラトロワ」
 ……耳元で、声が聞こえた。
 誰の声なのかは、わからない。
「折角だ。もう一度母になってみるのはどうかね?」
「ほぉ、それは素晴らしい」
「明日のロシアを担う子の母となれば、彼女の犯してきた罪も全て赦されましょう」
 誰なのかわからない声が、何事か話している。
 わからない。
 何もかも、わからない。
「ロシアの子を身籠もり、君自身も生まれ変わるのだよ、同志ラトロワ」
「そう、その通りだ。ズドニョームラジジェーニヤ、同志ラトロワ!」
「クックク。さて、誰の子を宿すことになるかな」
「……ん、……あっ♥」
 ヌチュリ、と。
 他人事のように、下半身からぬめった音がした。
 ラトロワの闇は、さらに深く、広まっていった。





―了―






絵:寒天示現流




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