子供の玩具





◆    ◆    ◆





「ね? お願いだから、お姉ちゃんにそれ返して?」
 喧しい蝉の声が頭上から降り注ぐ公園。
 木陰、水など出ない水飲み場で、谷川柚子は額を伝う汗すら拭わず、必死の声色でそう懇願していた。
 目の前にいるのは、まだ十を過ぎたくらいか。小学生程度の男の子だった。その手には見慣れた携帯ゲーム機を持ち、ニヤニヤと子供らしい無邪気な、それでいて嫌な予感を感じさせる笑みを浮かべている。
 また、汗が額を、頬を伝い流れ、首筋から胸、腹へと落ちていった。
 暑さのせいばかりではない。先程から、たった数秒間のやりとりとは言えこの緊張感のせいだ。何故なら少年の手にした携帯ゲーム機――COMP――はただのゲーム機ではない。悪魔召還のためのいわば召還器であり、柚子と仲間達の命綱も同然のものだった。
 ほんの僅かな時間とは言え、手放してしまったことを後悔しても遅い。
 十分程前……柚子は東京封鎖によって閉じ込められ、真夏だというのにシャワーすら浴びられない状況に遂に限界を感じ、せめて濡らしたタオルで汗だけでも拭こうと仲間達には手洗いに行くかのようなニュアンスで一時別れを告げ、近場の公園の水飲み場へとやって来た。
 場所によっては電気だけでなく水も出ないのが今の山手線内の悲惨な現状だったが、幸いこの公園は近くの貯水タンクから水を持ってきているらしく、柚子は持っていたタオルを充分に湿らすことが出来た。
 周囲に人はいない。
 一応物影で、上着をまくり上げ、ようやく気持ち悪いべたつきを多少緩和出来ると思った瞬間――……子供の、声がした。
 男の子が一人きり。
 他に誰かと一緒にいる様子はない。親とはぐれたか、そもそも封鎖された時に一人で遊んでいるだかしたものかは柚子には与り知らぬところだ。
 ともあれ、十歳程度の少年が柚子が置いたCOMPを手に取り、電源を入れようとしているのを見て柚子は咄嗟に『ダメ!』と叫んでいた。
 思えば、それが悪かったのだ。
 まだ悪戯も盛りの子供だろう。そんな子供が駄目と言われて素直にやめてくれるはずもない。
 男の子はCOMPをこれ見よがしに柚子にちらつかせながら、さてどうしてやろうとでも言いたげに思索に耽っているかのようだった。
「それは、お姉ちゃんの大切なものなの。だから……ね?」
「……ふーん。このCOMP、そんなに大切なものなんだ」
 何を言っても自分で自分の首を絞めているような気がして、柚子は暗澹たる思いに囚われていた。子供の相手など、慣れてはいない。親戚同士の集まりも母との不仲を理由にあまり顔を出さずにいたため、子供と触れ合う機会などまったくと言っていいくらい無かったのだ。
 汗の量が増えていた。
 蝉の鳴き声が喧しく、不快だ。
 男の子はCOMPと柚子の姿を何度も交互に見比べていた。
 こうなったら力尽くで取り戻すか? とも考えたが、元来が争い事を嫌う性情だ。柚子はグッと思いとどまり、再び優しい声色で懇願した。
「ねぇ、お願い! お願いだから……」
 そんな柚子をマジマジと見つめていた少年が、ゴクリと喉を鳴らしたように見えたのは果たして気のせいだったのか。
「……いい、よ」
 今にも蝉の声に掻き消されそうなくらい小さな声。
「……え?」
 自分で必死に懇願しておきながら、柚子は少年の返事に戸惑いを隠せなかった。まさかこんな素直に返してくれるとは思わなかったのだ。
 自分の誠意が通じたのか、と。
 柚子がホッと胸を撫で下ろそうとした瞬間、少年は、
「でも――」
 言葉を、続けていた。
 ジワジワと暑さが脳を責め立てる。
 汗が目に入り、痛みに柚子はまばたきを繰り返した。
「替わりに、ボクのお願いを聞いて欲しいんだけど……そしたら、返してあげるよ」
 何て事の無さそうな提案。
 子供らしい、本当に子供らしい我が侭。
 だから、柚子は頷いてしまった。
「う、うん。……いい、わよ? お姉ちゃんに出来ることなら……」
 パァッと、少年がさらに晴れ晴れと笑った。
 浮かべた笑顔の意味が先程と違っていたことに、柚子は気付かなかった。





◆    ◆    ◆





「んっ、……ふ、くぅ……むっ」
 押し殺した声が、木陰に響いていた。
 蝉の鳴き声に掻き消されながら、けれどその呻き声のような喘ぎに、少年は未知の興奮を覚えて乱暴に手を動かしていた。
「――ふぁっ」
「わ、わっ」
 指がめり込んだ瞬間、柚子の声に甘味が混じっていた。
 なんて柔らかい身体、なんて柔らかい声なんだろうと少年は驚きながら思った。



 ――お姉ちゃんのオッパイを触らせてくれたら、返すよ――



 男の子の提示した条件に、当然柚子は難色を示した。当たり前だ。
 まだ好きな人にだって触らせたことのない乳房を、どうして見ず知らずの少年に触れさせなければならないのか。それに、こんな小さな男の子にまで胸のことを言われるとは少しばかりショックだった。
 自分の胸が同年代の少女達と比べても大きく、形も美しいという自覚はあった。別にその事を普段から鼻にかけるような真似はしなかったものの、女性として多少なりと優れている、男性から――特に意中の相手からよく見られたい、という観点においては、柚子は自分の胸を一つの武器と認識さえしていた。
 が、その武器は悩みのタネでもあったのだ。
 常に男性からの好奇の視線に晒されてしまう、ストレス。
 少しでも“彼”の興味を惹こうと、柚子は時折敢えて胸を強調するようなファッションで彼と遊びに行ったりすることもあった。しかしそのような時、どうしても気になってしまう大量の視線があったのだ。
 だから柚子にとって、胸はちょっとした自慢であると同時に軽いコンプレックスの材料でもあった。
 その胸を、まだ幼い男の子からさえそういった目で見られてしまったショックに柚子は心を痛め――それでも、COMPのために耐えた。
「ん、く、……んむぅ……〜〜ッ」
 痛い。
 男の子の触り方、ないし揉み方には、女性に対する気遣いなど欠片も無く、ただただ乱暴に乳肉を握り潰そうとでもするかのような歯止めのきかない好奇心だけがあった。性欲もまだ芽生えかけの少年だろうに、それでもやはり男……ということなのだろうか。
 服の下から手を突っ込み、とても手の平におさまりきらない乳房を粘土でもこねるかのように飽きることなく揉み続ける少年の吐息は、二人の身長差のせいで丁度揉まれている胸にかかるようになっていた。
「あ、く、……はぁああっ」
 熱い。
 少年の吐息が、肌を焼いているかのようだった。
 指と同時に吐息でまで責められているようで、柚子は泣きたくなった。
「すっげぇ……お姉ちゃんのオッパイ、すげぇよぉ……」
 興奮しているのか、少年の顔は真っ赤だった。
 どうしていいのかわからないのだろう。ただ、揉むだけ。ひたすらに激しく、いったいどうしてそんなに必死なのか。今の柚子に多少なりと余裕でもあれば、彼の姿は滑稽にすら映っただろう。
 しかし、柚子に余裕など無かった。
「ひ、あぁんッ」
 漏れ出す声が次第に大きくなっていることに、柚子は気付いていた。気付いていて、止められずにいた。
 わからないのだ。
 どうして自分の口からこのような喘ぎ声が零れだしてしまうのか。
「ひゃうんっ!?」
 不意に、少年が顔を柚子の胸に埋めていた。
「ちょ、ちょっと、君……そんなっ」
「……柔らかいなぁ」
「はぅうっ!」
 さっきまで肌を焼いていた息が、服の上からとは言え直接吹き付けられていくのに柚子は身悶えた。
 首筋や背中を大量の汗が伝っていくのがわかる。脇の下や乳房の下がジュクジュクして気持ち悪い。
「や、やめ……」
「お姉ちゃん……ちょっと汗臭いね」
 酷いことを言われている。
 なのに、言われた瞬間柚子は少年の体臭を思いっきり意識してしまった。
 自分の匂いよりも多少キツい、男の子の匂い。
 酸っぱいような、饐えたような。そんな匂いが、鼻腔に流れ込んでくる。
「き、み……そんなの、ダメ……あ――ッ」
 駄目、と言った時には既に遅く。
 興奮した少年は、柚子の捲れかけていた上着を一気に捲り上げていた。
「わ、わぁあ」
 感嘆の声があがる。
 柔らかく揺れるたわわな胸の膨らみに、少年は目を丸くしていた。
 ツンと上を向いた小指の先程の乳首も、やや大きいながらも下品になりすぎない桃色の乳輪も、全てが少年の目には新鮮で、彼はただ、本能に導かれるようにしてそこに顔を埋め――
「うっ、ひぁあああああんっ!?」
 ――舌を、這わせていた。
「やっ、ダメ……だった、ら……んっ、くひぃいいんっ!?」
 柚子にとってもまったく未知の領域、感覚だった。
 十七年の決して長いとは言えない人生、柚子には男性経験はまだ無かった。好きな少年のことを思い浮かべ、自慰に耽ってしまったことは何度かあっても、それとは全く異なる感覚が、電流のように背筋を駆け上がり、脳を揺らしていた。
「……ん、ちゅ……ちゅぱぁ……お姉ちゃんの肌、しょっぱいや……」
「ダ、メ……よぉ……く、ひっ!?」
 何とか少年の舌から逃れようと身を捩った時、柚子は見てしまった。
 彼の、股間。
 薄手の短パンに隠されたそこで――まだ幼い、男女の理など知っているのかどうかも怪しい少年の股間で、彼の男性器は苦しそうに憤り、脈打っていた。
 目に焼き付いたそれが、またも柚子の脳を揺さぶった。
(なん、で……あっ)
「や、へ……あひぃいいいっ!?」
 少年の舌が胸から徐々にずれ、今度は柚子の腋の辺りを舐めていた。
「そ、そんなところ、ダメ……汗かいてて、汚い、から……んくふぅうんっ♥」
 声が甘い。
 それ以上に脳に甘く赤い靄が懸かっていた。
「だって……お姉ちゃん、なんだか……おいしくて……レロ」
「はぁあああぅううっ♥」
 ビリビリと、全身が痙攣する。
 最初はまた汗かと思った。けれど、違う。
 違う何かが、股間で下着を湿らせている。
「――ヒッ!」
 それに気付いて、柚子は今度こそ少年から離れようとした。腋を締め、彼の顔を引き離そうとして、けれど出来なかった。
「やぁ、ああっ!?」
 少年の舌で、汗に蒸れた脇の下を、胸を舐めあげられるたびに、柚子の全身から力が抜けていく。立っていることもままならないくらいに、既に腰が砕けそうだった。震える足をなんとか支えるだけで精一杯だ。
 そんな足に、
「〜〜〜〜〜ッッ!?」
 硬いモノがあたっていた。
 否、あたっているだけでなく、懸命に擦りつけられていた。
「ちょっ、キミ……ひゃっ!?」
 考えるまでもなかった。
 少年の股間だ。
 短パン越しに、硬く勃起したそれが柚子の太股を擦り――もはや、犯されていると言って良い状態だった。
 少年の男性器で、脚を。
 犯されている。
 レイプ、されている。
「ひぅんっ!?」
 そう考えただけで、柚子は限界を超えてしまった。
「わっ」
 少年の驚いた声が徐々に近付き、遠ざかっていく。
「……あっ」
 ペタン、と。
 地面に、柚子は尻餅を突いてしまっていた。さっきまで胸の高さにあったはずの少年の顔が、今度はずっと上の方にある。
 まるで今の二人の関係のようだった。
「お、お姉ちゃん……だい、じょうぶ?」
 心配そうに声をかけながらも、少年の股間はビクビクと脈動を続けていた。それも、今度は柚子のほぼ目の前でだ。
「……んっ」
 ゴクリ、と。
 柚子は我知らず、喉を鳴らしてしまっていた。
 少年の、汗の匂い。短パン越しにも匂ってくるかのようだ。
 喉だけでなく鼻をも鳴らし、柚子は少年を見上げた。木陰だというのに、逆光になって表情がよくわからない。太陽の熱が全身を焼いている。
 ……いや、これは、太陽の熱では……無い?
「お、お姉……ちゃん」
 どうしてそうしてしまったのか。
 柚子は、少年の股間に手を伸ばしていた。
「ふ、あ……っ」
 幼い声が、目の前をぼやけさせる。
 股間を撫で回す手は、COMPを用いて悪魔を操る、悪魔使いの手ではなかった。
 雄を悦ばせようとする、雌の手だった。





◆    ◆    ◆





「……あ、うぅ」
 少年の股間をゆっくり撫で回しながら、柚子は懸命に言い訳を探していた。
 こんな幼い子供の性器を弄くるなんて、とんだ痴女だ。性犯罪者だ。
 わかっている。
 止めなければいけない。
 それなのに、止まらない。
 止まらないどころか、その先さえも期待している自分がいる。
「……は、あ……あぁ♥」
 もどかしい。
 短パン越しに触れている手が、物足りなさを訴えていた。
 彼の男性器は、どんな形をしているのだろう。どんな大きさで、どんな色をして、どんな匂いがするのだろう。
 柚子の男性の知識など、所詮はティーンズ向けの雑誌に載っている程度のものでしかない。ロマンチックな“彼”との初体験を妄想して身悶えていた夜が、酷く遠いように感じられた。
 どうして自分は……あんなにも好きだった“彼”ではなく、今日会ったばかりの少年の股間を愛おしそうに撫で回しているのだろう。
 不思議だった。
 なのに嫌悪感がない。奇妙なくらい自分はこの行為を望み、欲し、のめり込んでしまっているのだ。
「お、おねえちゃ、ん……んんっ!」
 少年も、もどかしいのだろうか。物足りないのだろうか。
 柚子はペロリと舌で唇を舐めていた。
 水気のない唇だった。
 喉が渇いているのは暑さのせいか、それとも緊張のせいか。
 頭がボーっとする。熱で浮かされている現状を打破するのに必要なのは、果たして何だろうか。
 理性を取り戻すこと?
 ……多分、違う。
「……あ、ぅ……ん♥」
 喘ぎながら、柚子は少年を見上げ、微笑んだ。その微笑みの意味を果たして理解したのか、彼は小さく、だがしっかりと頷いてみせた。
 柚子の手が、少年の短パンにかかる。
 短パンだけでなく、下着ごとずりおろし――
「……ふ、ぁあ♥」
 柚子は、少年の男性器を露出させていた。
「これ……キミの、……おちんちん……なんだ……♥」
 最初の感想は、“可愛らしい”だった。
 ピクピクと痙攣するソレは思ったよりも小さく、上までスッポリと皮を被っていた。それがまだ幼いせいなのか、それとも彼が包茎なだけなのか、柚子にはわからなかった。そもそも包茎がどうだとか考えている余分な容量は、脳には無かった。
「んっ♥」
 臭い。
 今までの汗の匂いよりも数段、少年の性器から漂ってくる匂いは臭く、通常ならそれは間違いなく不快感を抱かせる類のものだった。
 なのに、柚子は鼻を鳴らしていた。
 スンスンと、芳しい香りを嗅いでいるかのように。
「……臭いね、キミのおちんちん」
「お、お姉ちゃんだって、臭かったじゃんか!」
 別に怒っているわけでもなく、そう言い合って二人は微笑み合っていた。
 微笑みながら、柚子の手が少年の股間に伸びる。
「あっ」
「……ん、フフ♥ 今、ピクッてなったよ? キミのおちんちん、ピクッて」
「う、うるさい、やい……ッ」
「かわいい……♥」
 手を添えると、少年の性器はビクンと一際大きく震えた。
 ゆっくり、さすってやる。
 決して痛みなど与えないように。まだ性の何たるかも知らない少年を甘く惑わすかのように、柚子は彼の性器を撫でた。
「あっ、お、おねえちゃ……ふ、ぅっ!」
 もう限界かと思われた彼の性器は、さらに膨張していた。皮をかむった先端が苦しそうにヒクつき、必死に頭を出そうとしているのが柚子にもわかった。
 そこからは、何かを考えての行動ではなかった。
「ひぐぃいいいっ!?」
「あ、い、痛かった?」
 窮屈そうな皮を、柚子は指先で少しだけ剥いてみた。途端、少年が悲鳴をあげたのを聞いて心配そうに見上げると、痛みと言うよりは未知の感覚に驚いたものらしい。だらしなく開いた口から唾液が滴っていた。
 タラリ、と。
 唾液の雫が、地面に落ちる。
「……あっ」
 どうしてか、柚子にはそれがひどく勿体ないように感じられた。
 また、乾いた唇を舌が無意識に舐めていた。
 湿らせたいと思った。
 水……ではなく、もっと違う、液体で。
 たった今目の前をこぼれ落ちていった、雫――
「おねえちゃ……ん、むっ!?」
 急に半立ちになった柚子に驚く間もなく、少年は口を塞がれていた。
「んっ、ふむ、……んちゅ……ちゅっ♥ ちゅぱ……じゅぷ、るろ……ちゅむぷ、……じゅ、じゅずず……んむ、れろ……レロ……んっ♥」





 
◆    ◆    ◆
◆    ◆    ◆






 吸い付いた唇が、優しく唇をはむ。
 伸ばした舌が舌と絡み合い、柚子は激しく、狂おしく、少年の唇を、溢れ出す唾液を啜った。口壁を舌でなぞり、舐め、舌をしゃぶってさらに唾液を求める。
(……おいしい♥)
 倒錯的で、甘美で、膨れ上がる罪悪感でさえ媚毒だった。
「あむ、ふっ、んむぅ……ん♥ ちゅぶ、じゅっ、じゅる……く、ふ、ぃ……あっ♥」
 息も出来ず、呼吸が苦しくなりそうなくらい、二人は互いの唇を、舌を、唾液を貪り合った。
「……んぷ……はぁああ」
 まだし足りないとでも言わんがばかりにようやく離れた唇と唇の間に、キラキラと輝く唾液の橋が架かる。
 唾液の橋が、柚子の目にはプリズムのように見えた。太陽光を反射し、自分達を繋げているそれは今にも途切れそうなくらいか弱くて、……プツリ、と、切れそうになった瞬間柚子は思わず「あっ」と声を発していた。
 切れてしまう。
 それが寂しいのか、悲しいのか、わからない。茹だった頭では考えるという行為は億劫以外の何者でもなく、ただ身体を動かそうとした。そしてそれは、少年も同様だったらしい。
「んっ、むぅ……ふ、んちゅっ♥」
 唾液の架け橋を辿るかのように互いに近付けた唇と唇が、重なる。
 伸ばした舌と舌が、絡み合う。
 吐き出した息と息が、口に、鼻に、吸い込まれていく。
「は、ぁ……ふぅ、んっ♥ ズ……じゅ、ぷ……んぶ、じゅる、ぺろ、ぺろ……ちゅぷ、じゅぶぶ……ふぐっ、む……ぁ……んんっ……〜〜〜、ぅ、……ぷ、はぁ♥」
 柚子が舌を上下に動かせば、時にそれに追従し、時に逆らうようにして少年も舌を動かし、僅かにザラつく表面が擦れ合って泡立ち、自分以外の唾液の味わいが口内に充ち満ちた。
 歯茎を舐める。
 犬歯に引っかかった舌を敢えてそのまま押しつけ、微かな痛みに陶酔する。
 頬の裏側をグッと強く刮ぐようにねぶり、再び舌と舌を絡ませ合う。
「ちゅっ、ぷ……ぴちゃ……じゅぷっ、ぷふっ♥ はぁ、む……む、むぐぅ……ンッ♥」
 水音はどこまでも淫らだった。
 淫猥に、痴戯の限りに耽り、ただ狂おしく幼い男の子を辱める行為は、自分自身をも辱め、貶めているようで柚子は背筋がゾクリと震えた。
 深い、深いキスが続いていく。
 こんなにも貪欲な己が内に在った事を、柚子は初めて知った。
 乙女ぶった青々しい純な恋心の影に隠れていた、ドロリと全身にまとわりつくような、汗臭く、粘着質で、肌と肌を擦り合わせること、粘膜と粘膜を生々しく絡み合わせることで生じる肉への欲求が、怖い。
 恐怖するのはわかっているから……かも知れない。
 何を?
 ――きっと、抗えない事。
 もっと深く、奈落の底まで、この欲望の汚泥にズブズブと沈み込んで這い上がれなくなるであろう自分を……柚子は、否定出来ない。拒めない。
「ふ、……んっ、ちゅぶ、ぷぁ……は、ぁああっ、お、おぉ……んっ♥」
 汗と唾液でグチャグチャになった唇が離れる。
 物足りない。
 全然足りない。
 もっと、もっと強く、深く、繋がりが欲しいと柚子は思った。
 最初は無理矢理だったはずなのに。嫌だったのに。
 当惑していたのは柚子の方だった。困り果て、なんとかしなければと必死だった。
 なのに今はこんなにも、少年を求めている自分がいる。
 言い訳が欲しかった。
 言い訳が欲しくて、柚子は縋るように天を仰いだ。
 そこには、灼熱の太陽があった。

 ――ああ、そう。きっと――

「ん、しょ……」
「……? おねえちゃん?」
 何をするんだろう、と。小首を傾げた少年の股間へと身体を近付かせていく。

 ――きっと、この暑さのせいだ――

 得た、と柚子は思った。
 言い訳を。
 自分が狂ってしまった理由を。
 正しいかどうか何て関係がない。今の柚子に必要な免罪符は、善悪も常識も倫理も超えていた。
 目の前で、少年の男性器が硬くそびえ、震えながら反り返り、幼いながらも必死に自己主張していた。
 可愛らしいのに雄々しい。
「……はぁ」
 香り立つ雄の匂いに、柚子はクラッとした。溺れそうになるのを堪え、妖艶に頬を歪ませる。十七歳の少女としてではなく、自分もまた一匹の雌となって。
 膝立ちになり、柚子は以前雑誌で知った知識をもとに、
「んっ♥」
「うわぁあっ」
 少年の性器を、胸で挟んでいた。
 挟んだ瞬間、柚子の心臓は一際大きく跳ねた。
「ぼ、ぼくのちんちんが、おねえちゃんの、おっぱいで……あぁあっ」
「……ふ、ふふ♥ どう、かな?」
 どうと聞かれても、なんと答えればよいのかわからない。困惑顔の少年は、股間から生じ駆けのぼってくる奇妙な快感にのたうっていた。
 埋もれてしまっているのだ。
 年上の女性の、大きく、豊かで、柔らかな――乳房に。自分の、性器が。
「な、なにこれ……う、わぁ……!」
「パイズリ、って言うんだって。……お姉ちゃんも、よくは知らないんだけどね」
 挟まれただけで少年は震え、柚子もまた早鐘のように鼓動を高鳴らせていた。
 胸が熱い。
 揉まれていた時や舐められていた時よりも、ずっと熱かった。
 疼くのだ。
 疼いて疼いて、仕方がない。
「こうやって、ね。男の子のおちんちんを、おっぱいで挟むの」
「は、はさんで……どうするの? どう、なっちゃうの?」
 おっかなびっくりの少年に柚子はクスリと微笑んで、ゆっくりと、胸を左右から圧迫しつつ上下に動かし始めた。
「はわぁああっ」
「……んっ♥ お姉ちゃんも、初めてだから……あっ♥ よく、わからないけど……こう、やって……おちんちん……おチンポを、オッパイで擦って、扱いてあげるのを、そう呼ぶんだって……ん、くふぅ……ッ♥」
 胸の中で、少年の性器がピクピクと可愛らしく震えているのがわかった。谷間から匂いだけが漂ってくる。自分の汗と、少年の汗……そして、そこに混ざる微かな精臭を、まだ知らないはずなのに柚子はうっとりと吸い込んだ。
 なんてイヤらしいのだろう。
 淫靡で、狂おしく、頭がおかしくなり、壊れていく。
 既存の全てが破壊され、肉欲を伴って新たに構築された生々しい感情が柚子を突き動かし、わざと刺激するかのような貌と言葉で少年を嘲った。
「……あっ♥ おチンポ、またちょっと大きくなったよ?」
「う、えぅ……」
 恥ずかしいのか、少し決まりが悪そうに顔を逸らした少年が可笑しくて、柚子は胸を少しずらし、少年の皮の部分に乳首を引っかけてみた。
「わっ」
「う、ふふ……あんっ♥」
 少年の性器に負けないくらい勃起した乳首が、皮の間から僅かに顔を出していた亀頭を擦り、少年は尻をキュッと窄め、震えさせた。
「おねえ、ちゃん……ああ……ッ」
 反応の全てが新鮮で、湧き上がる衝動は凶悪だった。少年の猛りまくった性器が胸の中を行ったり来たりするたびに、柚子は蕩けてしまいそうになる自分をはっきりと意識していた。
(すごい……この子の、チンポ……一生懸命に反り返っちゃってる……皮かむったまま……コレって、包茎って言うんだっけ? ……包茎の、お子さまチンチンなのに、私興奮しちゃってる……オッパイでおチンポ挟んで、私の方が、キモチ良くなっちゃってる、よぉ……♥)
 まるで氷で出来た筆先で背筋を撫でられているかのようだった。なのに悪魔達の唱える氷雪系の呪文とはまるで異なる、魂を震わせるこれは凍てつくのとは別種の心地良い冷たさだった。
 ゾクリ、ゾクリと。
 昂ぶっていく。跳ねる心臓が、そのまま踊り出すかのようだ。
 そして実際に踊っているのは、柚子の豊満な乳房だった。
「あぅ、うぁああっ、おねえちゃんッッ」
「クスクスッ♥ キモチ、良いんだね……おチンポ、ビンビンにして……ね? キモチ、良いんだよね?」
「わ、わかんないよぉ……うぅうっ」
 快感の何たるかもわからない子供なのだと再認しただけで、柚子は背徳感に身悶えた。子供を、犯している。大勢の同級生の男子や、大人の男達が常に食い入るように見つめていた乳房で。
 少年の唾液が頭上から垂れてきた。
「……あっ♥ ……ん、ふふ……ぺろっ♥」
 口の脇にかかったそれを舐める。
 なんて、甘露なのだろう。
「お、おねえちゃん……ぼ、くぅ」
 もどかしそうに皮かむりの肉棒を擦りつけ、少年は藻掻いた。
「ちょっ、胸からはみ出ちゃうよっ」
「う、うぅ〜〜っ」
 挟まれて扱かれるのも快感なら、ただひたすら年上の女性の身体に性器を押し当てているだけでも少年にとってはたまらないのだ。
「ひゃんっ!? あっ♥ くすぐったいって、ば……んっ」
「ふ、わぁあ……ッ!」
 右腋の下を少年の肉棒にくすぐられ、柚子は思わずピタッとそこを閉じてしまった。結果、強く挟まれてしまった少年は胸に挟まれた時とはまた異なる感触、圧力、柔らかさに切なく喘いだ。
 まったくの偶然ではあったのだが、柚子は目聡く少年の新たな快感に口元を綻ばせた。獲物を狙う雌の笑みを浮かべ、ペロリと唇を舐める。そこはまだ少年の味がした。
「ん、どうしたの?」
「おね、え……ちゃ、っ」
 腋を締めながら。
 わざとらしく、何も気付いていないかのように。
「ねぇ、苦しいの? 痛いの?」
「ふっ、うぅうう……っ」
 抜き出そうと藻掻く少年の尻に、左腕を回す。抱きかかえ、右腋をさらに強く締めて、柚子は身体を軽く揺すった。
「うぅひっ!? ひゃっ、あ……ッ」
「ねぇ、どうしたの? お尻震えちゃってるよ? おチンポも……ピクピクって。苦しいのかなぁ、痛いのかなぁ……ん、ふ、ふふっ」
 右腋に意識を集中し、柚子は恍惚と目を細めた。
 東京封鎖以来、満足に汗も拭けなかった身体。濡れタオルで拭おうとした直前に邂逅した少年。今、そんな自分の汗の匂いと、少年の汗と精の匂いが交じり合って、ツンと鼻腔に侵入してくる。
 ゴクリ、と喉が鳴った。
 口の奧から唾液が溢れ、口端から零れ落ちた。
 変態的な感覚だ。
 自覚はあるのに、止められない。止める気など、湧いてこない。
「キモチ良いんだよね……キミの、おチンポ。ねぇ、そうなんでしょ?」
「はっ……ぐ、くふぅうっ」
「お姉ちゃんの、汗臭い腋に挟まれて、チンチンがすっごくキモチ良くなっちゃってるんだよね? キミの皮かむった子供チンポ、子供なのにお姉ちゃんの腋とかオッパイで感じちゃってるんだよね?」
 加虐心にさらに火が点いていく。
 その火の点いた加虐心で――
「……あっ」
 柚子は、腋の力を弛めた。
 さらに左腕も外し、少年を完全に解放する。
「え、……ぅ、え?」
 どうして解放されたのかわからないのだろう。少年は狼狽えながら、柚子と自分の股間を交互に見ていた。
 おそらくは、限界を迎える寸前なのだろう、と。男性の機能に疎い柚子でも、彼の様子からそれはつぶさにわかった。
 もうすぐ達してしまう、その直前でわけもわからぬまま解放され、少年は涙目だった。もはや完全に二人の立場は逆転してしまっている。
 彼に胸を触らせて欲しいとねだられた時の感情を、柚子はもう思い出せない。
 今はただ、彼が欲しかった。
 彼を手に入れるために、柚子は両手を自らの胸に添えた。
「キモチ良いなら、そう言わないと……ね?」
「……あっ」
 乳房を揺すり、柚子は艶やかな唇で囁く。
「ちゃんと言えたら……フフ」
 まるで自分自身が悪魔にでもなってしまったかのような錯覚。
 もしかすると、実際にそうだったのかも知れない。悪魔を使い、悪魔と戦っているうちに谷川柚子は悪魔になってしまっていたのだ。
 それは少年を誑かす淫魔に違いなく、柚子は熱の籠もった吐息を漏らした。
「お、おねえ……ちゃん」
 少年の身体が、動いた。
 まだ躊躇いながら、けれど確実に。
 柚子の胸へと向かって。まるでそこに自分の性器を挿入するのが正しい行為であるかのように。
「ぼ、ぼく……ボクの、……」
「ん?」
 悪魔の残酷さは、けれど少年を昂ぶらせていた。
 いきり勃った肉棒はいまだ包皮に守られたままの先端を震わせ、ヘソまで反り返らんばかりの勢いだった。
 我慢など、どうして出来るものか。
「ボクのオチンチン、おっぱいで挟んでよ! ギュって、挟んで!」
「うんっ♥」
 満面の笑みを浮かべ、柚子は再度少年の肉棒を乳房で挟み、激しく扱き始めた。
「あっ、あぁああ〜〜〜、おねえちゃっ、キモチ、いッ……ふぅ!」
「フフ……もう、凄すぎるよ、キミのおチンポ……♥ お姉ちゃんの汗の匂いと、キミの汗とチンポの匂いが混ざって……んっ、アタマ、おかしくなりそ……」





◆    ◆    ◆
◆    ◆    ◆





 少年が今まで射精せずに済んでいたのは、二人ともがまだ稚拙であり、そも射精というものを全く意識していないせいでもあった。
 が、例えそうであったとしても肉体的にはとうに限界を迎えているのだ。
 皮に隠れたままの少年の先端、割れ目からはカウパーが滲み、まだ経験したことのない精通が訪れようとしているのは明白だった。
「あっ♥ 出てきた……なんか漏れ出してきちゃった♥ キミの先っぽから、チンポのお汁が……あ、はぁ♥」
 そこから先は、獣だった。
 限界などお構いなしに、もっと焦らそうだとか、さらに強い快感を与えてやろうだとか、何も考えずひたすら柚子は胸を動かし、少年の性器を扱きあげた。そのせいで皮がさらに捲れ、段々と亀頭部分が外気に晒され始める。
「あっ、あぁああ、うああああっ!」
 未知の体験に少年が喘ぎ、悶えた。
 これまで皮に覆われて、守られていた敏感な部分が、柚子の柔肉の中で遂にその姿を現そうとしているのだ。その痛みにも似た快感は、少年にとってはあまりにも強い猛毒だった。
「おねえちゃんっ、ボク、ちんぽおかしいっ! チンチン、変だよぉ!」
「……ふっ、ん、くぅ♥ あっ、はぁ……♥ 大っきくなってきたよ? キミのおチンポ……皮が剥けて、まだ大きくなる……硬くて、太くて……ふわっ♥ それに、この匂い……臭いの……臭いのに……おチンポの匂い……あっ♥ ……わた、し……こ、れぇ……んんぁあああっ♥」
 頭がおかしくなりそうだった。
 鼻腔から侵入した匂いが脳にまで回り、重要な回路の幾つかを破壊してしまったのではないかと、柚子はそんな妄想さえ抱いていた。
 いや、きっと妄想などではない。
 これは本当だ。
 自らの汗と混ざり合った少年の匂いが、谷川柚子を壊したのだ。
 だから今の自分は仕方がないのだ。
 封鎖された東京で、夏の暑さにあてられ、少年の匂いを嗅いでしまった自分は、とうに壊れてしまっていたのだから。
 自分は、壊れた淫魔なのだ。
「んっ!」
 だから動かす。
 乳房を動かし、少年の性器を扱く。
「おチンポ……震えてるっ、震えてるよっ♥ キミのおチンポ、先っぽからお汁垂らしながら……ピクピクしてる、ピクピクしてるっ♥」
「やっ、それダメだよぉ! オシッコ、オシッコだから……オシッコだから、おねえちゃん! おねえちゃん、もぉやめてよぉ!」
 少年のそれは悲鳴だった。
 柚子は流石に今から放たれようとしているのが精液であると察しがついていたが、彼にはまだそれがわからないのだ。だから小便だと思って、柚子を退避させようとしているのだろう。
 が、柚子はグッと身体ごと少年へと押しつけていた。
「ひゃぁあああああっ!」
「んっ、ふふふ……ダ〜メ♥ ……逃がさない、よ? キミも、キミのおチンポも……はっ、あ……く、ふぅ……♥」
「んひっ!? お、おねえちゃ……あぁあああああああっ!!」
 柚子の唇が、魔性に歪んでいた。
 少年の悲鳴が耳に心地よい。
 胸の中で断末魔の震えを、竿を駆けのぼるマグマのような精液の脈動を感じながら、柚子は少年を見た。見て、微笑んだ。
「……イッちゃえ♥」
 その瞬間、弾けていた。
 少年の性器の先端が、柚子の乳房の中で。
「あぅ、あああっ、あぁああああああっ」
 身悶えしながら、強烈すぎる快感に、初めて味わう射精感に少年は驚き、歓喜していた。口元がだらしなく弛み、股間が何度も跳ねる。
「す、すご……あっ♥ キミのチンポ、ビクビクって……わたしのオッパイの中で、すっごく、震えちゃってる……悦んじゃってる……あ、はぁ♥」
 ゴポリ、と。
 精液が泡立って、弾けていた。
 少年の初めての精通、射精だった。それを自分が導いたのだ、奪ったのだと思うと、柚子の脳はこれまで以上に蕩け、狂おしく熱に暴走した。
「お、おねえ、ちゃん……あぁ」
 くたぁっと、茹でた野菜のように身体ごと萎れてしまった少年がまた可愛らしくて、柚子はクスクスと笑った。可愛いだけではなく、彼を愛しいとさえ感じてしまうのは、きっとまだ脳がおかしいせいだろう。
 そう、おかしいせい、だ。
 本当の自分は、彼のような子供のことなど、何とも思っているはずがない。
「……疲れちゃった?」
「う〜ん……わかんない」
 胸を精液がドロリと流れ落ち、下腹を通って股間へと落ちていく。
 瞬間、キュンッと子宮が疼いたような気がした。
「じゃあ、少し休もうか」
「……うん」
 やや寂しく感じながらも少年と身体を離し、柚子は彼の股間を見た。
 汗と精液でドロドロのグチャグチャになった幼い性器は、けれどまだ完全に収まってはいなかった。それどころかすぐにでも二戦目に突入出来る、突入したいとでも言いたげに、疲れ切っている主人とは真逆の反応を見せていた。
「……そう、少し、ね」
 ペロリ、と。
 舌が、唇を舐めていた。
 まだ乾いているなぁと、柚子は頭上の太陽を見上げながら、その熱に頬を弛めていた。





―了……?― 








絵:寒天示現流




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