E・TENERITAS




◆    ◆    ◆





 眩しい、と感じた時には既に遅かった。
「DRAGON・TOOTH……!」
 長大な閃光が刃となって大気を斬り裂く。長い髪が巻き上げられ、右太股付近に熱とダメージを感知したT-elosは飛び退ろうとして出来ず、片膝を突いた。
「グッ!」
 アラートが鳴り響く。
 戦闘の続行は……不可能。何よりも、機械的な判断よりT-elosの“痛覚”がそれを明確に訴えていた。
 しかしこのままでは終われない。たとえまともに戦うのが不可能だとしても、何とかして逆転の方程式を導きださんと、T-elosはあらゆる手段、方法、そして成功確率を瞬時に弾き出したが、そのいずれもが決定打に欠けていた。純粋な個人戦闘力でなら自分は決してKOS-MOSに後れをとっていない、けれど問題はその他の連中だ。
(数ばかり増やして、ゾロゾロと……厄介な)
 前回矛を交えた時よりもさらに数を増している。一人一人が小賢しくもその実力を認めざるを得ない連中だというのに、こうなっては撤退すら難しい。
「だがっ、私は――」
 KOS-MOSを破壊するまで、目的を果たすまでは、死ねない。
「KOS-MOSーーーッ!!」
 疾駆。
 そのままブレードを抜き打ち、斬りかかる。
「ッあぁああああ!!」
 意地と誇りを懸けた最後の一撃は、しかし届かなかった。
「く、ぬぅっ!?」
 脚のダメージによる加速不足。
 擦れ違った瞬間、KOS-MOSのブレードはT-elosのブレードを斬り払い、体勢を崩したT-elosはそのまま、倒れ込んだ。
「……チッ」
 喉元に突きつけられるブレード。
 無感情なはずのKOS-MOSの瞳に寂しげな色が宿る。
「……終わりです、T-elos」
 見下ろす側と、見上げる側。
 瓜二つの二人は、赤と青の視線を交差させていた。





◆    ◆    ◆





「……く、……はぁ、はぁ……」
 傷ついた躯体を壁に預け、T-elosはその場に腰を下ろした。
 思いの外ダメージが大きい。特にドラゴン・トゥースで斬り裂かれた太股のせいで歩行が困難だ。修復……否、回復には暫しの時を要するだろう。あの場は平然と切り抜け撤退したものの、もし追撃を受けていたなら……そう考えてしまうのが、また腹立たしい。
「……クソッ。やってくれるじゃないか、あのクズ共……ぐっ」
 苛立ち紛れに悪態を吐き、壁を殴る。平時の力であればその一撃で粉砕されていたであろう壁にはヒビ一つ入ってはいない。回復のために躯体の出力が最低レベルにまで落ちている証拠だった。
 我ながら情けない、負け犬の姿だ。
 憤懣やるかたないとはT-elosにとってまさに今の状態だったが、腐ってばかりいても仕方がない。KOS-MOSの打倒は自分にとって宿願であり、また成さねばならないことでもある。
「そのためには、あいつらが邪魔か」
 賞金稼ぎハーケン・ブロウニングとその一党。
 自分一人の手に余るというのは、戦力分析などするまでも無い。かといって今や徒党を組むような相手もおらず、八方塞がりなのが現状だった。
 では、どうするか。利用出来る相手はいないのか――そこまで考え、
「……馬鹿馬鹿しい」
 T-elosは自嘲した。
「誰かと組んでKOS-MOSを破壊することに、意味などあるものか」
 己の手で成さねば意味は無いのだ。
 利害の一致から以前に沙夜と手を組んだことはあったものの、今となってはまた彼女と組む気にもなれなかった。孤高であることを美徳とするような意識など持ちあわせてはいないが、これは自分の意地、それに矜持なのだろう。
(もっともそんな意地、KOS-MOSを破壊した“その先”には何の意味も無いのだろうが……いや、だからこそ……か)
 瞑目し、全身を弛緩させながらT-elosは長く息を吐いた。
 全身の隅々まで力を送り込むイメージ。今は回復に専念し、一刻も早く立ち上がらなければならない。そうして、もう一度KOS-MOSと、奴らと戦う。
 滾る戦意は回復を阻害しはしなかった。むしろ躯体を活性化させ、より早く、強く、ダメージを修復させていくかのようにさえ感じる。
(待っているがいい、KOS-MOS。次に遭った時が、貴様達の――)
「おやぁ、こんな所でお嬢さんがお一人、何をしてるブヒィ?」
 閉じていた眼を開き、殺気を剥き出しにしながらT-elosは声のした方を睨み据え、舌打ちした。
(クソッ……こんな時に)
 ゾロゾロと、十数匹はいるだろうか。
 エンドレス・フロンティアではさして珍しくもない種族、獣人。その一団が下卑た笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。
「お嬢さん、どうしたブヒ? おっと、怪我してるブヒか?」
(このブタが……リーダーか?)
 隙あらば近付いてきた瞬間首でもカッ切ってやろうと思ったが、リーダーらしき豚頭の獣人は意外や慎重に間合いを計りながら、T-elosの様子を見て愉快そうに鼻を鳴らした。
「このミラビリス城はやたらおかしな仕掛けや物騒な連中の宝庫ブヒ。お嬢さんみたいな方がお一人では危ないブヒよ。なぁ、お前達もそう思うブヒ?」
「へい、ですなぁ」
「団長の言う通りだ。お嬢さん、何なら俺達が護衛してやろうか?」
 護衛、と言いつつその目は舐めるようにT-elosの肢体を視姦していた。
(下衆共め……躯体さえ完調なら即座にブチ殺してやるものを)
 何とか立ち上がるだけでも出来ないものか足腰に力を入れてみたものの、まるで自分の身体ではないかのように重く、言うことを聞いてくれない。ならせめて手だけでも、と思うが、そちらも悲しいくらい非力だった。
「おやおやぁ、本当に調子が悪そうブヒなぁ」
「……ぐっ」
 持ち上げた腕を伸ばし、手甲からブレードを現出させるも、そこまでが限界だった。今の力では肉を裂くどころか薄皮一枚切りつけるのがせいぜいだろう。目の前に立つ豚獣人の醜く肥えた身体を斬り裂き斃すなど、到底不可能だった。
「ダメブヒよぉ、調子が悪いのにこんな物騒なもの出しちゃあ」
「あぐっ!?」
 腕を捻り上げられ、無理矢理に手甲を剥ぎ取られたT-elosは苦痛に顔を歪ませた。憎々しげに睨め上げるも、無論視線だけで相手を殺せる道理が無い。豚獣人はそのままT-elosの腕を捻り上げ、さらにいまだダメージの深い太股を、踏みつけた。
「がぁあっ!」
「おぉっと、すまんブヒィ。お嬢さんがいきなり刃物なんて向けてくるから、吃驚してついつい……悪い事しちゃったブヒなぁ」
「ぐくっ、こ、の……」
「ごめんブヒごめんブヒィ」
「ぐぁ……ああっ」
 謝りながら何度も何度も執拗に踏みつけた場所を足裏で抉り、豚獣人はその肥満な身体に違わぬ体重をかけてT-elosをいたぶった。歯を食い縛り、痛みを堪えながらなおも睨み付けてくる美しくも健気な姿に、獣人達は皆その顔を喜悦に醜く歪め、舌なめずりしていた。
「ブヒヒ。大人しくしてくれればこっちだって優しく扱ってやるブヒよ。こちとら盗掘作業が忙しくて女なんて久しぶりブヒからね」
「しかもこんなべっぴんさん、いつ以来ですかねぇ?」
「ホントによぉ、たまんねぇ身体してるぜ。見ろよ、その爆乳」
 耳障りな声が木霊する。
 耐え難い屈辱だった。
 いつもの自分の戦力ならカスも同然の雑魚共にいたぶられ、嘲笑われ、さらにこの先どのような目に遭わされるのか、考えただけで反吐が出る。痛みを忘れ、憎怨のままに限界を超えて躯体を動かそうとし、T-elosは藻掻いた。が、豚獣人の巨体はビクともしない。
「ブヒブヒ。さぁさぁ、そろそろ大人しくして、一緒に愉しむブヒよ。そうすればすーぐに楽になれるブヒ」
 醜悪な顔を眼前に突きつけられ、T-elosはギリッと奥歯を噛んだ。そのまま顔を背けようとし……不意に、形良く艶やな唇の端が、釣り上げられた。
「……臭いな」
「ブヒ?」
「臭いと言ったんだ、息が。この生ゴミめ」
 この期に及んで晴れ晴れと高圧的に言い放ったT-elosの顔は、しかし単純に開き直ったり捨て鉢になった者の顔でもなかった。
「なんだその口は。中がゴミ処理場にでもなっているのではないか? ク、クク……ハッハッハ! 今まで様々な化物を見てきたが、ゴミ箱に手足の生えた類は初めて見たぞ。このエンドレス・フロンティアという世界はまったく驚かせてくれる。珍種のデータ採取には打って付けだな。生物学者がさぞ喜ぶだろう。我々の世界でならどれだけ生物学の発展に役立ったかと思うと少々残念ね」
 言い終えてからもT-elosは余裕を崩すことなく、唖然としている豚獣人の顔目掛けてツバを吐き捨てた。
「臭いと言ったろう? さっさとその珍妙な豚細工を私の目の前から退けな。目障りなんだよ、ゴミが。それとも負傷して苦しんでいる私を笑わせるためにわざわざそんなおもしろおかしいツラの皮を貼っつけてくれてるのかい?」
 T-elosのそれは、もはや敵意でも殺意でもなかった。
 明らかに自分より下の存在に対する侮蔑、嘲笑で、それは今の今まで獣人達からT-elosへと向けられていたはずのものだったのだ。なのに、いつの間にか立場は逆転してしまっていた。
 T-elosは、あまりにも圧倒的に上位存在だった。自分達の優位性などこの瞬間獣人達は頭からすっかり抜け落ちてしまっていたと言っていい。立てず、満足に手すら動かせない一人の女に完全に気圧されていた。
 しかしそれも長くは続かない。
「……へ、へっ」
 獣人の一人が虚勢を張るかのようにT-elosを笑い飛ばしていた。
「お嬢さん、自分の立場ってぇモンが、理解出来てないんじゃねぇのかい? ねぇ、団長。グッ、グクク……!」
「そ、そうブヒ。好き放題言ってくれてるけど、お嬢さんはちょーっとばかり現実が見えていないようブヒなぁ」
 部下の言葉に気勢を取り戻したのか、団長は豚鼻を揺らしながら今一度T-elosの傷ついた太股を踏み躙った。
「……ンッ、……ぐ……!」
「ほらほら、お前は大怪我してるブヒよ? 実際どんくらい強いのか偉いのかなんてぇまったく知らないブヒが、今はただのダルマブヒ。エロダルマブヒ!」
「……ふ、フンッ……! ……ほざけ、痴れ豚が」
 T-elosのその言葉が、最後の引鉄を引いた。
 それまでニタニタと笑っていた獣人達の表情が一斉に残忍さを帯びる。
「……少しは優しくしてやるつもりだったブヒが、気が変わったブヒ」
「ッ! ……このっ、汚い手で私に触れるんじゃ――」
「黙るブヒ」
「はぐぅう!?」
 全体重を傷口にかけられ、流石のT-elosも悶絶する。目尻から流れ落ちる涙が、涙を流せてしまう己の躯体が今は恨めしかった。
「ブヒヒ。さぁ、お愉しみの始まりブヒよ」
 睨み続ける事だけが、T-elosに出来る最後の抵抗だった。





◆    ◆    ◆





「ブヒ、ブヒヒ……お、おぉおぶほぉおお……こ、こいつはたまらんブヒィ……!」
「く、……くっ、そぉ……ッ」
 冷たく硬質な床にT-elosを押し倒し、その上に馬乗りになった団長は果たしてどれだけ洗っていないのかもわからない恥垢まみれの逸物を取り出すと、有無を言わさず褐色の爆乳へと突き挿入れていた。
 そのままゴツゴツと節くれ立った手で乳肉を荒々しく揉みしだき、T-elosをただの淫具であるかのようにして剛直を扱きまくる。豚鼻をフルフルと震わせ、団長は恍惚と息を漏らした。
「一目見た瞬間からこのエロ乳を犯したくてたまらんかったブヒ。まったく、これだけ気が強くて口の悪い女でも乳だけはしっとりと柔らかく俺のチンポを包み込んでくるんだから不思議なもんブヒ」
「黙れッ、この汚豚が! 早く、……くっ、わ、私の上から……退けぇえ……ッ!」
「ったくうるさいブヒィ」
 呆れたようにT-elosを睥睨し、団長はやれやれと首を振ると乱暴に乳首を抓りあげた。
「ひぐっ!?」
「さっきも言った通りお前が何者かは知らないけど、今はただの乳オナホブヒ。俺達のチンポをキモチ良くするためだけのオナホ女が、生意気な口きくんじゃねぇブヒ」
「わっ、私を……この私を、乳オナホ、……だと……っ、……き、さまぁ……!」
「だーからうるせぇブヒ」
「ぐっ、あああっ!」
 もう一度乳首を抓り、引っ張り上げると、団長はズンッと一際強く腰を谷間膣へと突き込んだ。そのまま激しいストロークで打ちつけ、パンパンッと豚の腹肉がT-elosの褐色の柔肉を叩く音が周囲に響き渡る。
(この、豚……調子に乗って……! 躯体が回復さえしたなら、考えつく限り最も残忍な方法で……殺す……! その豚鼻切り落とし、寸刻みに腹の肉を削り取って、魂魄が擦り切れるまで殺し尽くしてやる……!)
 一向に瞳から力の失われない溜息を吐きながら、団長はまたもピッチを上げた。先端から溢れた先汁のためか、パンパンという乾いた音に混じり、次第にヌチュ、ヌチュと粘ついた音が聞こえ始めていた。その音があまりに耳障りで、T-elosは忌々しげに眉根を顰めた。
「……まだ反抗的ブヒなぁ。まったく……まぁ、そこも可愛いブヒが」
「黙、れ……下衆が……! ……臭い息を吐くなと、言ったはず……よ?」
「ブフゥ……本当に、困った娘ブヒ……っとぉ!」
「ンぐっ!?」
 ついに谷間から飛び出した亀頭がT-elosの唇を掠めた。当然、そこから漏れ出ていた汚液もT-elosの唇に付着し、苦み走った味と生臭さが口鼻腔内にじわりと沁み広がっていく。
「ぐっ、……う、……うぇ……っ……ぐ、……ふぅ……!」
 込み上げる嘔吐感に思わず顔を顰めたのが新鮮だったのか、団長は先汁にまみれた亀頭を鼻先に近付けるとT-elosの顔面の下半分に自らのカウパーを滅茶苦茶に塗りたくった。
「キッ、貴様! やめっ、ぶっ!? ……やめろっ、この! こんな、汚っ……臭い、ものを私に……殺すッ! ぐぷっ、……絶対に殺っ……殺すぞッ!?」
「殺す殺す本当に物騒な娘さんだブヒ。まったく怖くてたまんねぇから、おい」
 器用に腰を回して硬く勃起した亀頭をT-elosの口周りや頬に擦りつけながら、団長は乳房を揉んでいた手をいったん放すと部下達を招き寄せた。
「お前達も、このお嬢さんにこってり溜まったチンポ汁を擦りつけて、ぶっかけてやるブヒ。そうすりゃきっと大人しくなるに違いないブヒ」
「なっ!?」
 良いことを思いついたとばかりにそう言い放った団長に、T-elosはギョッとして他の団員達を見回した。団長に負けず劣らず、性欲旺盛な獣人特有の巨大な肉茎がヘソまで反り返り、極上の雌に興奮し怒張している。
「グルル! そいつぁいいや!」
「なんせかれこれ二ヶ月も? 溜まってましたからね。たっぷりブッかけてやりましょうぜ、団長!」
 団長以外にも屈強な獣人達が、十人余。そのいずれもが二ヶ月も溜め込んだ薄汚い獣精をブチまけてやると意気込んでいるのだ。いったいどれだけの量、どれだけの匂い、どれだけの濃さなのか想像もつかない。
「こ、のっ! 放せっ、いい加減に……ヒ――ッ!?」
 抵抗しようとしたT-elosの手首を掴み、団員の一人はそのまま強引に自らの股ぐらに引っ張り寄せると熱く屹立した肉竿を無理矢理握らせた。その熱が、T-elosをむしろ底冷えさせた。
「やっ、やめ……握り潰されたいのか!?」
「グルル。威勢はいいけど力の方は全然だなぁ、お嬢ちゃん。……お、おほぉ……いや、でも手コキにゃ丁度良い具合だぜぇ」
 無論、T-elosとしては本気で獣人の陰茎を握り潰してやるつもりだった。しかし能力の低下している今のT-elosの握力では、彼の言う通り手淫に丁度良いくらいが関の山で、痛みを与えることさえままならない。
 熱く、硬く、太く、凶悪に、凶暴に滾っている肉棒の脈動が手を通じて伝わり、あまりの不快感にT-elosはこれでもかと奥歯を噛んだ。
「よしよし、じゃあオレのチンポも思いっきりシコシコ扱いてもらおうか」
「黙れ! 誰がそんな腐れ粗チン……自分で勝手に扱いていろこのっ! 殺してやる、貴様らこのゴミ虫共……一匹残らず、ブチ殺して――」
「うるっせぇんだよ嬢ちゃん。あんま調子くれてっとテメェこそブッ殺すぜぇ?」
 目を見れば即座に本気だとわかった。
 自分に向けられた“殺す”という言葉とそこに込められた僅かだが本物の殺意に、T-elosの脳裏を自身の使命がよぎった。
(……KOS-MOS! 私は、何があろうともKOS-MOSを……KOS-MOSを破壊しなければならない……のに……!!)
 KOS-MOSを破壊する。
 元の世界へと帰還する。
 その目的を果たすまでは、こんな所で雑魚共の手にかかり死ぬわけにはいかなかった。泥を啜ってでも生き延びなければならないのだ。そのためだけに自分は存在しているのだから。
(こんなくだらない死に方……出来ない……ッ)
 悔し涙が頬を伝った。
 自分以外の何者かに屈服するなど、死よりも辛いことだ。なのにそうせざるを得ない現状をT-elosは恨み、憎み、怒り、憤り、そういった負の感情全てを込めて、獣人の汚らわしい肉竿を握り締めていた。
「……グル?」
 何事か、獣人が訝しむ。その顔を胸中で微塵に斬り刻みながら、T-elosはゆっくりと、陰茎を握ったままの手を上下に動かし始めた。
「おっ、おっ? こいつ、ようやく諦めたか? 自分から……」
「……黙れ。下衆が」
 吐き捨て、肉竿を扱きながら、細く長い指でカリ首や裏筋部分を刺激してやる。
 男の快楽のツボを心得た、熟練の娼婦のような手練だった。T-elos自身どうしてこのような知識を自分が有しているのかはわからなかったが、どうすれば男が悦ぶのか、そのデータは間違いなく、有る。
(これは……私のデータ……“記憶”、なのか?)
「……クソッ」
「ガルルッ! こ、この姉ちゃん……態度は悪ぃがテクは一流だぜぇ……このチンポの扱き方、プロじゃねぇか……!」
「ほ、本当だ……お、おぉほぉおお……っ!」
(……単細胞共め。こんな事が、そんなにキモチ良いというの?)
 記憶にはあっても、理解は出来ないし、したくもなかった。
 ただこの場をやり過ごすため、生き延びるためにT-elosは苦惨な道を選び、そうしているだけだった。戦闘で、面倒な化物の相手をしているとでも思えば良い。これは性交ではなく、あくまで化物を斃すための方法なのだ……そう自分に言い聞かせ、T-elosは手淫の動きを速めた。
「おっ、グ、グルゥあぁああ!」
「た、たまんねぇ……」
「……とっととイッちまえ、この早漏……ッ」
 罵られても、圧倒的優位な立場にいる以上獣人達は腹も立たなかった。むしろ罵倒する以外に抵抗出来ない女の哀れさが彼らの征服欲を満たし、それはまま性欲に直結した。
「ブヒヒ! 手コキも良さそうブヒなぁ」
「団長、パイズリの方はどうなんで?」
「こんな乳マンコは初めてブヒよ。弾力があって、そのくせもっちりとチンポを包み込んで……吸い付いてくるようブヒ。ブ、ブヒホォオオオ……! こ、こりゃ男の精液を搾り摂るための乳、搾精性器ブヒよ……」
(何が、精液を搾り摂るためだ……カスが、好き勝手なことを言って……!)
「……クソッ、……クソ!」
 胸の中で、団長の剛直が震えているのがわかった。
 先程までは他の団員達とさして変わらぬサイズだったはずが、どんどん膨張し、今では一回りも大きくなっている。
(なんなの? コイツの……チンポ……本当に、化物か?)
「ふ、ぐ……ン、……はぁ……っ」
 脈動が、乳房をも震わせていた。
 浮き出た血管はT-elosの指並に太く、それが柔肉に喰い込んで、抽挿のたびに乳肉を刮ぎ取っていくかのようだった。カリ首もエラの張り方が尋常ではなく、握り拳のような亀頭は依然としてT-elosの唇や頬を擦っては薄汚い雄汁を塗りたくっていく。その味が唇に沁み、匂いが鼻腔を犯すたび、頭に奇妙なノイズが走った。
(なんて、匂い……コレが、洗ってない雄の匂い、だと……くっ、このままでは、匂いが躯体に染みついて……とれなくなって、しまう……!)
 この躯体は大切なものなのだ。こんな匂いが染みついては一大事、……なのだが、さりとてどうする事も出来ない。無念のまま、T-elosは眼前を行ったり来たりする巨大な亀頭を見据え、下唇を噛んだ。
「く……ぐ、……ふぅ……うっ」
「ブヒ、ブヒヒ……もっともぉっと、先汁を擦りつけてやるブヒ。このドスケベな褐色爆乳を、俺の専用乳便器に変えてやるブヒよ……! これから毎日、精液を搾り摂らないと生きていけないカラダにしてやるブヒィ! 毎日毎日朝から晩までチンポ挟んで、揉んで扱いて……ブヒ、ブホホォオ!」
(乳便器、など……ふざけるなっ! ……この汚らわしい、クズッ、醜悪な、汚豚如きが……この私の、胸に、下衆性器を挟んで……いい気に、なって……!)
「ブヒヒ! 怖い眼ブヒィ。でも両手でチンポ扱いて、乳マンコにもチンポ挟んでる状態じゃ虚勢もいいとこブヒ。……だいたい……」
「きゃひぅうっ!?」
 今の悲鳴は誰のものだったのか、T-elosは最初わからなかった。
 自分のものだったことを理解出来たのは、三秒程も経ってからのことだ。
(な、なに? 今の……わ、私の悲鳴……だったのか……っ!?)
「ブヒヒィ。可愛らしい悲鳴もちゃ〜んと出せるんじゃないブヒか」
 頭が痺れ、地震にでも遭ったかのようにクラクラする。視界に収まっているはずのものが見えているのに見えず、T-elosは懸命に目を凝らした。
「き、さま……なに、を……ぉ」
「ブヒ? キモチ良すぎてアタマ飛んじゃったブヒか? なら、もう一回――」
「ひゃぁあああアンッ!?」
 再び先程と同じ刺激が電流となって全身を駆け抜けた。
 そうして、今度こそT-elosはその正体を知った。まだ微かにぼやけているが、目の前にあるのは団長の極悪な肉棒と、己の乳房。乳房の先端で突起している乳首と、それを抓る団長の、野太い……指。
「ブヒ、ブヒヒ!」
「ひゃっ、ひゃめっ、おっ、……おぉおおっ!?」
 抓り上げたまま、団長はコリコリと指先で乳首を弄んだ。その都度T-elosの唇から彼女のものとも思えない甘い悲鳴が漏れ出し、彼女自身を困惑させた。
(こんな、こんな悲鳴……私じゃない……私は、こんな悲鳴は、あげない!)
「きさっ、キサマぁ……んぁああっ♥」
「ブヒヒ。可愛いブヒ、可愛いブヒィ。あんまり可愛くて、先汁がどんどん漏れちゃうブヒ、止まらんブヒィ!」
「はぁうっ、あっ、ひゃうぅうう♥ だ、出すなぁ! そんな、汚い……臭い、汁……私に擦りつけるなぁあ!」
 今のT-elosからは、余裕などすっかり失われていた。
 戦い殺戮するためだけのキラーマシーン然とした彼女の面影は崩れ、ただ未知の感覚に震え喘ぐ哀れな女の姿がそこにはあり、野獣達の欲望に晒されている。そしてそれを一番信じられないのは他でもない、T-elosなのだ。
(違う! 私は、私はこんなの……違う……違、うぅ……!)
「ブヒヒ! そら、先汁がもう射精したみたいな量になってるブヒ。勿体ないからこのエロ乳に擦り込んでやるブヒ!」
「やめっ、ひぁっ♥ あっ、やめぇぁああああっ!?」






 谷間膣内からは限界まで膨張した獣棒が、外からはゴツい手が乳房を圧迫し、圧し潰し、捏ね回し、雄臭い先汁を擦り込ませていく。
(臭い! 臭い、臭い臭いぃいいい!!)
「やめろっ、やめろぉおおッ!! ひぐっ!? ひぁうぅううっ♥」
 鼻にかかった蕩けた悲鳴。
 獣汁の生臭さ、不潔な肉棒にこびり付いた恥垢の腐臭が頭脳を破壊していくかのようで、T-elosは固定された躯体を悶えさせた。
 壊されていく。
 自分が。
 T-elosという存在が穢され、汚染され、破壊されていく。
 KOS-MOSを破壊するための存在である自分が、このような異世界で、愚にもつかない下等な獣に弄ばれて、壊されてしまう――!
(違う! そんなのは、駄目だ、嫌だ、違う! 私は、KOS-MOSを破壊する! そのために、KOS-MOSを破壊し、KOS-MOSを……KOS-MOSと……――)
「ふぁあっ、ふぉおおおおおおおッ♥」
 電源のスイッチをオンオフ連続で切り替えられるかのように、意識が明滅を繰り返す。暗転するたびに元の意識が崩れ、溶けていくかのようだった。
「やめろぉおおお♥ ころすっ、ぜったい、ころすぅうううう♥」
 今となってはこの甘ったるい雌じみた悲鳴も自分のものであると認めざるを得なかった。正体不明の疼きがウイルスのように自我と躯体とを蝕み、懸命に抗いながらT-elosは喘いだ。
「ブヒヒ。本当物騒ブヒ。物騒だけど、乳首はコリッコリ、だらしなくヨダレ垂らして、もうすっかり出来上がっちゃってるブヒよ」
「ふざけたこと、ぬかすなはぁあっ♥ こんな、こんなブタじるぅ♥ すりつけられたくらいで、この、わた、わらひがぁっ、どうにか、なる、などぉ、おっ、おぉおおおお♥」
 パン生地をこねるかのように、団長はT-elosの豊潤な乳肉を玩弄し続けた。激しく握り潰して痛みを与えた後は優しく労るように撫で、T-elosの感覚を狂わせ、精神を摩耗させながら神経は過敏にさせていく。
(駄目……だ……! これ以上は、私が、私で無くなる……私は、KOS-MOSを破壊するまでは、私で在り続けなければ……ならない、のに……流され、る……私が、私の人格が、意識が、流され……溶かされ……塗り潰されて……KOS-MOS……KOS……MOSぅ……っ)
「……んぁあひぃいいいいイイイッ♥」
 痺れを心地良いと感じ始めた時、T-elosは既に壊れていたのかも知れなかった。一方でこれが己に隠された本性なのではないかと考えている自分もいる。この躯体、KOS-MOSと同型のようでありながらその実機械ではなく殆どは生身で構成されている女としての肉体の本性が、雄の熱と匂いによって喚び覚まされたのではないか、と。
 普段のT-elosであったならば、馬鹿げていると一笑に付したろう。
(だが、これは……これ、はぁ……♥)
「あふっ、おっ、おぉおお……♥ ころ、しゅぅ♥ きさま、らぁ……こんな、くされちんぽ、らんてぇ……ひきちぎって、……おっ、あっ♥ いぁあああ♥」
「グルゥ!? こ、この女……またっ、扱き方が激しく……っ」
「ガッ、や、やべっ、射精るっ、このままじゃ……!」
 まだ握力が回復したわけではない。筋力は低下したまま、ごく一般的な成人女性の力ながら、T-elosの動きにはそれ以上に熱が込められ始めていた。
 それは、本性に目覚め始めた雌の熱情だった。
 情欲を喚起され、口では否定しながらも快楽を求めてしまう本能がT-elosの動きに機械的な手練以上のものを与え、獣人達を絶頂へ誘わせようとしていた。
(あつ、い……ドクドク、はねて……わた、し……私は……なにを……どうして、こんなに……わか、らない……でも、……これ……イ、イ……?)
 唇が三日月のように、曲がる。
 愉悦だった。
 自分の手で、指で、乳房で、肉で、感じている男達を見ると恍惚と胸がざわめく。
 ……やはり、そうなのだ。
「ンッ♥ あっ、あぁあああ♥ クッ、ふ、ふふ……なさけない、ちんぽめ……♥ 今にも、イきそうなのだろう? ……いいわ、イキなさい……わたしの、手で……きったないザーメン、はき出して……はぁあっ♥ くっさいの、こいぃの、出して……射精しなさいッ♥」
 T-elosの青い瞳が爛と輝いた。
 手の中で脈打つ肉棒への嫌悪感が、一擦りごとに薄れていく。引き換えに鎌首を擡げるのは精を欲する淫獣のサガだった。その事に確証を持ってしまえば、元より高圧で加虐的な性情のT-elosにとって、自らの手業により男達が快感に噎ぶ姿は愉快なことこの上ない。
「グルァアア! でっ、射精るぅ!」
「お、俺もぁあああっ!!」
 左右の手の中で、獣精が弾けた。
 溜まりに溜まった精液はゲル状で、ドロリとT-elosの手を伝う。さらに飛散した一部は髪や顔に付着し、その一部を甘露とばかりにT-elosは舐め取った。
「ん、んちゅッ♥ ……んむ、じゅるっ……ふむ、ンン……はぁ♥」
 舐め取った精液を口内で丹念に咀嚼し、嚥下する。
 口腔に貼りつき、喉に詰まりそうな程に濃厚なそれを味わい尽くし、まだ全然足りないと言いたげな視線を団長へと向けたT-elosは、いまだ精液のたっぷりとこびり付いた両手で自らの乳房を鷲掴むと、そのまま団長の剛直を圧迫した。
「ブヒィイイイッ!?」
 今までとは段違いの快感に責められ、団長は魂消るような悲鳴をあげると、巨体を大きく仰け反らせた。
「……ん、ふ、ふふ……はぁ♥ ほら、今度はお前が……タップリ……射精、するのよ……ンッ♥ く、ふぅ……ああっ♥ バカでかいチンポ、震わせて……そんなに、私の胸がキモチ良いの、か? 醜い豚の分際で、この私の胸を、オナホにするなど……死ぬまで射精し続けても、許されない、わよ? ……ふ、んぁあああっ♥」
「じょ、冗談抜きで死ぬまで搾り摂られそうブヒ……! や、やっぱりあんた、とんでもない女だったブヒ……ブブ、ヒィイ!」
 引き攣った笑みを浮かべながら、団長もT-elosの動きに同期させ勢いよく腰を振った。肉と肉がぶつかり合い、弾ける音が派手に響く。今の二人の昂ぶりはとどまるところを知らず、獣欲の赴くままにひたすら互いの肉を貪り合った。
「ふっ、あっ♥ あっ♥ あぁあぉおおおおおおおおッ♥」
 KOS-MOSの破壊も、元の世界への帰還も、そのために生き延びようと敢えて屈辱にまみれたはずの記憶も、全てが押し流され、消えていく。
(そう、だ……こんなに、キモチ良いの、だから……これが、正しい……のか? ああ、そうか……そのために、私の、躯体は……肉の悦楽を得るために、肉でなければ、ならなかったのよ……だから、こうして、チンポを扱いて♥ ……獣臭い精液を浴びて、啜って♥ ……わたしは、T-elosでも、KOS-MOSでもなく……マリアでもなく……私は、ただの……雌に……なる――)
「イクッ♥ 乳マンコ精液便所にされてイクぅううううううう♥」
「ブヒッ、ブヒィイイイイイイイイイッ!!」
 その瞬間、T-elosは己を縛り律するあらゆるものが弾け飛んだかのような錯覚を覚えた。
 膨れ上がった亀頭は鈴口をパックリと開き、噴射された夥しい量の精液が褐色の美貌を濁り澱んだ白に染めていく。
「……はぁ……はぁ……ンッ♥ ……ふ、……んぁあ……♥」
「……ブヒ、……ブヒィ……」
 射精後の疲労感からか肩で息している団長だったが、その肉竿はまだ硬さを失ってはおらず、さらに周囲に並び立つ団員達もT-elosの痴態を前に股間をはち切れんばかりに怒張させていた。
「……フ、フフ……♥」
 肉の悦びを受け容れた貌で、T-elosは舌なめずりをした。
 今や自分は彼らの獲物ではない。彼らこそが、自分の獲物なのだ。
「どうした? そんな所で粗末なチンポをいきり勃たせてないで、こっちへ来て愉しまないのか?」
 誘う言葉もあくまで高圧的に。
 T-elosの艶貌には、妖淫極まりない笑みが浮かべられていた。





〜END〜







イラスト:寒天


Back to Top