〜隷属のフロンティア〜



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 ――この閉じられた狭い世界で……
 有限の、おもしろいことなど何一つ無い世界で……
 ようやく、少しだけ楽しいものを見つけたと男は思った――



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 薄暗い部屋に、湿っぽい音が響く。
 それは、一定の間隔で、定められた作業を黙々とこなすかのような機械的な音だった。音を発しているのは肉と肉のはずなのに、生物的な空気がほとんど感じられない、ひどくクリアーな印象を与える……作業。
 それが気に食わなくて、男は女の前髪を掴むとグッと自らの股間に端整な顔立ちを押しつけた。
「ふ、く……オラ、もっと強く挟むんだよ」
「……ぐっ」
 あまりにも理不尽な命令に、KOS-MOSは抗議の視線を送った。……いや、正確には違う。“人間であるならば”それは間違いなく抗議の意味を為していたであろう。しかし、彼女は人間ではない。人間でないが故に、彼女は男に逆らうことは出来なかった。
 男は、ヴィクター・インダストリーが対グノーシス用に生み出したヒト型掃討兵器であるKOS-MOSと比べればあまりにも無力な存在だった。あまりにも無力な存在だからこそ、手を出せないのだ。
 それでも理不尽な命令を遵守しなければならない義理は無い……はずだった。そもそもこのような役割――胸部、乳房と呼ばれる部位によって男性の生殖器を挟み、慰める――は本来の彼女の在り様からはかけ離れている。
 KOS-MOSの内部データベースには、これが所謂性行為であり、女が男に一方的に奉仕するためのものであることが登録されていた。彼女のボディはそういった行為を行うこと自体は不可能ではなかったが、元来の目的としては存在していない。だからこそ拒否権は厳然としてあった。
 だと言うのにこうして従っているのにも、一応の理由はある。
「……こう、ですか?」
「あーーーっ! ちっげーよ! そんなただ挟んで動かすだけじゃ全然キモチイイわけねーだろうが!? もっと乳をこねくり回して、乳首で裏筋やら亀頭を刺激するなり色々あんだろ!?」
 色々ある、と言われても、流石に技法の知識まではない。
 仕方なくKOS-MOSは男が言った通りの動きを先程からしてみせているのだが、どうやらそれだけではお気に召さないらしかった。彼の言動は一々理解不能だ。
 しかし、それでも彼は恩人なのである。
「ったく、せっかくブッ壊れてたお前を拾ってやったってのに、オナホ程度の役にも立たないなんてなぁ」
 彼の言う“オナホ”、とは何なのか……またKOS-MOSの知識に無い単語だった。が、取り敢えず侮辱されていることはわかる。
(このような時は、怒ればよいのでしょうか……シオン)
 けれど、怒れないのだ。
 KOS-MOSの存在定義が、現状においてそのような人間的感情の発露を許さない。
 男は――この世界、この時代に迷い込んだ拍子に致命的なダメージを負い、さらにはエネルギーも尽きかけていた自分を救ってくれた。そこにどのようなやましい理由、下心があったのかは今となっては容易に想像がつくけれど、恩人であることに変わりはない。だからこそ、KOS-MOSは彼の願いを『聞く』と言ってしまったのだ。
 下卑た笑みの下に潜む獣欲に、気付こうともしないで。
「クソッ! 本当に役立たずだなこのポンコツが……あー、折角のエロボディなのにこれじゃどんどん萎えちまうっ」
 苛立たしげに男はKOS-MOSの髪を引っ張り、今度は顔を上向きにさせた。この程度、ダメージには繋がらないが、女としての痛みは存在する行為だろう。
「……」
「お? なんだ、何か不満でもあるのか?」
「……いいえ」
 早く終わってくれればいい。
 今のKOS-MOSには、そうとしか考えられなかった。
 やがて結局は何も変わることのないKOS-MOSに業を煮やしたのか、男は憤然として立ち上がると、
「あーーーーーー! もぉ、やめだやめだ!!」
 そう怒鳴り散らしてKOS-MOSを押し倒した。
「……あっ」
「どうせろくなテクがねぇなら、それこそオナホール代わりにでもした方がマシだ! オラッ、この役立たずが!」
 手近に落ちていたロープを使いKOS-MOSの腕を縛り上げると、男は自ら乳房を握り締め、その間に男性器を埋めていった。
「お、おほぉ……柔らけぇ……素材だけはイイもん使ってやがるぜぇ」
 誉められているのだろうか。
 判別できず、KOS-MOSは無言で男の為すがままに任せることにした。男は陶然としながら乳房を揉みしだき、腰を前後させている。
「ヘッ。気持ちいいにはいいんだが……反応がねぇのはやっぱつまらねぇな。おい、お前」
「……なんでしょう?」
「お前、一応性交出来るようには造られてんだろ? 何かねぇのか? そのためのプログラムとかモードみたいなのは。こう、いきなりすげぇド淫乱になるとかよぉ」
 あるわけがない。
 あまりにも馬鹿げた話にほとほと呆れてしまう。が、それがこの男の望みであるなら、かなえてやるしかないのだろう。
「ド淫乱モードなどというものはありませんが――」
「なんだ、ねぇのか? ホント使えねぇな」
「――ですが、善処してみます」
 言うが早いか、KOS-MOSは人格、知識、その他“人間的な”側面を持つ全てを駆使して男が望むであろう反応を弾きだしてみた。
 結果……
「……んっ」
「お?」
 KOS-MOSが初めて漏らした艶のある響きに、男は興味深げな反応を見せた。
「……あっ……く、ふぅ」
 所謂、演技だ。
 持てる性知識を総動員した、馬鹿げた演技。しかしどうやら男が求めていたのはコレらしいと理解すると、KOS-MOSは俄然力を入れ始めた。
 頬の温度を調節して朱を散らし、目尻に冷却水を滲ませる。
 後は……適度に喘ぎ声を漏らせば、完璧だ。





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「……ん、むぅ……ひ、う」
「ほっ!? な、なんだ……急にどうした? 演技か? それとも……本当に、感じてやがるのか?」
 おめでたい男だ。そのようなこと、あるはずがないのに。けれど、
「……は、はい」
 そう答えておいてやることにした。この程度で満足して貰えるなら、面倒が少なくて済む。
「まっ、どっちでもいいやな。……おほ〜、キモチ良いなぁおい」
 男はKOS-MOSの反応に少しばかり気をよくしたのか、イヤらしい笑みを貼り付けたまま身勝手に腰を振り続けた。
(感じる、という感情、感覚はよくわかりませんが……)
 この行為のどこにそういったものがあるのだろう。
 ヒト型として造られ、性交も可能な以上KOS-MOSにも快楽を快楽として捉えることの出来る機能はある。が、少なくともこうして男の性器を胸で挟み扱かされている分には『キモチヨサ』など微塵も感じられなかった。
「……っ、ふ……う……」
 あまり派手に喘ぐのもどうかと思い、少しずつ、吐息のように漏らしていく。
 羞恥、くらい知っている。女性体として、恥じらいの無さは味方からも時に顰蹙を買い、注意を受けたから。そのため、派手に喘ぐのは好ましくないだろうとKOS-MOSは判断した。
 しかし男には不況だったらしい。
「おいおい、感じてるんだったら我慢なんかしてねぇでもっと派手に喘げよ。これじゃ雰囲気台無しだぁこのポンコツが」
 難しいことを言ってくれる。
 しかし、果たしてどうしたものか。
 KOS-MOSが思い悩んでいるのを見て、男は舌打ちをした。
 やはり演技だと見破られてしまったろうか。けれど、いったいどうすれば……――
 と、その時だった。
「ヒッ!?」
 自分でもまったく予想だにしなかった感覚に、KOS-MOSは素っ頓狂な声をあげていた。
「おっ、今のはなかなか良かったぜぇ。いい反応だぁ」
 ニヤニヤと笑いながら、男はさらにKOS-MOSの乳首を抓み上げる。
「ひゃうぅううっ!?」
 まるでスタンガンで攻撃でもされたかのようだった。それも、胸の先端部を集中的に。
 ビリビリと電流が走ったかのような全く未知の感覚。
「は……あっ……はぁ……い、今の……は……?」
「おら、ボーっとしてねぇでもっと感じてろや!」
「ひぐっ!?」
 それをKOS-MOSの性感帯か弱点とでも認識したのか、男の執拗な乳首責めが始まった。
 抓み、捻りあげてみせたかと思えば、今度は親指の腹で押し潰すかのようにこね回し、グッと真ん中に寄せていく。
「あっ、ふ、くぅ……ぐ、いぅッ!」
 声が漏れてしまうのを自制できない。KOS-MOSは混乱していた。
「ははっ、なんだよ、良い声で鳴けるじゃねぇか」
「そのっ、ような……う、ひぃくっ!?」
 親指と人差し指の腹が、乳首を指万力で挟む。
「ほぉ……こりゃ驚いた。ロボットでも乳首が勃起しやがるとはな」
「ぼっ……き……?」
 データベース内を検索し、即座に該当する答えを得る。が、理解できずにKOS-MOSは僅かに首を傾げた。
「勃起、とは……ふ、くぅ……だ、男性の陰茎が、海綿体の充血により膨張……硬化することでは、ないのですか?」
「陰茎? ああ、チンポのことか」
「ちん、ぽ? ……ひゃっ、くひっ!?」
 さらに乳首を強く挟まれ、しかも今度は擦り、扱かれていた。
「だから、今オメェが挟んでるモノのことだよ。チ・ン・ポ。そら、言ってみろや」
 そこはかとない淫猥な響きに当惑しつつも、KOS-MOSは男に命じられた通りに復唱してみた。
「は、ぅ……チ、チ、ン……ポ……、ですか?」
「おー、そうだそうだ。チンポだよ、チンポ」
「チン、ポ……コレが、チンポ……?」
「そう。コイツがな、俺もお前も気持ちよくしてくれるんだ。で、お前のそのヤ〜らしく勃起したエロ乳首も、まぁ乳首チンポみてぇなもんだ」
「えろ、乳首? ……くひゅッ! ひゃ、はぁ……え、えろ……エロチシズムの、こと、でしょうか?」
「おう。エロチシズムでもエロチックでもなんでもいいやな。ま、要するにお前さんはエロ乳首を刺激されるとチンポみてぇにビンビンにおっ勃てて感じちまう変態スケベロボってことだよ」
 散々な言われようだったけれど、言われていることの半分程度しか理解できず、KOS-MOSはいまだ当惑の渦中にあった。
 エロ、スケベ、勃起、変態……言葉としての意味はわかる。が、それが自分にどう該当しているのかが、わからない。
「はぅっ!? ……う、あ、あぁ……わ、私の……エロ……乳首が……あなたに抓まれて……く、あぁく、ふぁっ! こ、これが、……乳首が、勃起して……チンポのように……キモチ、いい?」
「わかってきたじゃねぇか。お、おぉっ!? はっ、こ、こりゃいいぜ……わかってきた途端に気分もノッてきたみてぇだなぁ」
 気分が乗るというのも今一つ要領をえない言い回しだったが、ニュアンスは伝わってきた。今自分が感じているのが性的快感なのだろう。つまり、KOS-MOSは男性器を胸で挟み、乳房、乳首を刺激されて快感を得てしまっているのだと正しく理解していた。
「あふっ、あ、ふぅあっ!? ち、チンポが……乳首を、擦って……ぇあっ!?」
「こうすると、俺もお前も一緒に気持ちよくなれるだろう? はは、素晴らしいことだと思わねぇか?」
 それは……確かに、素晴らしいことだった。少なくとも、今のKOS-MOSにはそのように思えた。
 では、この今の感覚は――
「互いに、感じ、合う……コレ、が……愛、なのでしょうか?」
「そうだとも! いいか? コレが愛だ。お前は俺と、俺のチンポを愛しちまったのさ。だから気持ちいいんだ」
「愛……コレが、ヒトの……愛?」
 何度も反芻しながら、快楽に耽る男の顔と、胸の中を行き来する肉棒を交互に見やる。
「あ、愛……あなたと、チンポを……私は、愛して……はくぅっ!?」
 男の指が乳首を離れ、KOS-MOSの乳房を再び揉み、そのまま腕の付け根へと撫で上げていく。丁度腋のあたりをツツーッとなぞられ、KOS-MOSは乳首を刺激された時と同様に甲高い悲鳴をあげた。
「ほっ、おまっ、腋でも感じるのか!? こいつぁすげぇや……腋で感じるロボ娘かよ……とんでもねぇスケベぶりだな」
「そ、こは……ダ、ダメ、です……性感帯では、無い……ん、んひぃいいいいいっ!?」
 KOS-MOSの言うことなど男が聞く耳を持つはずもない。むしろ逆におもしろがって指を這わせ、ワサワサと腋をまさぐる。
「はっ、はぉっ、お、おぉおおおおっ!?」
 今までになく正体不明の感覚が湧きあがってくることに、KOS-MOSは驚異を感じていた。何かが、身体の中を登っていく。爪先から頭の天辺まで突き抜けていくかのような……
「わ、わたし、わたし、は……ふ、は? ……あ、……あなたの……チンポ、膨れ……震えて、ます?」
「おう、震えてるぜ……お、おぉ……こ、腰が勝手に、動くっ! も、もぉ駄目だっ、我慢できねぇ……ッ!!」
「ひぅ、はっ、ひゃはぅううううううっ!?」





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 KOS-MOSが初めての絶頂を迎えるのと同時に、胸の中では熱い何かが凄まじい勢いで弾けていた。
「こ、これ……コレは、なに? ……ぶ、き、ですか? あ、私の、乳房の中で、何かが……爆発を……」
「武器? ……あ、あぁ……く、くひ……武器だな。ああ、武器だぜぇ……お前をこれからも散々に気持ちよくしてくれる、スゲェ武器だよ」
 胸の中で男の性器が先程までの硬度を失っていっているのがわかった。そこで知識が繋がる。
「……今、のは……射精、ですか? 陰け――チンポ、が……精液を射出して……勃起が、おさまった?」
「まっ、そうなるわな。でもまぁ暫く射精してなんざいなかったから、すぐに元気になるぜ? クク。だから、安心してチンポ挟んでな」
「……あっ」
 男の言った通りだった。
 KOS-MOSの胸の中で、萎えかけていた剛直がすぐさま硬さを取り戻していっているのがわかった。と言うより、さっきよりもさらに硬く、大きくなっている気さえする。
「もっとだ。もっと……気持ちよくなろうぜ? 愛し合うんだよ。俺のチンポと、お前のエロ乳マンコで」
「エロ乳……マンコ? まんこ……女陰の、俗称?」
「なんだ、マンコがわかんねぇか? ……まぁ、いい。パイズリで散々射精したら、次はマンコの使い方と感じ方を教えてやるよ」
「まん、こ……あっ」
 KOS-MOSが知識の照合を行おうとしている間にも男は再び完全に勃起し直していた。そうして、KOS-MOSの手を縛り上げていたロープを解くと、その場に仰向けになって寝転がる。
「どら。今度はわかるだろう? どうすれば、俺のチンポを気持ちよくできるのか。だったら……自分から、やってみな」
 波打つ肉棒を見下ろし、KOS-MOSは小さく頷いていた。
 わかる。
 今なら、どうすれば相手を、そして自分を気持ちよくすることが出来るのか、理解できる。
 ならば、学習した通りに実行、さらには応用し、男の望みをかなえてやるだけだ。そこに、既に自分の望みも混ざっている事を僅かながらに理解しながら。
「ん、ふ……チンポを、再び挟みます」
 自らの手で乳房を抱え、寝っ転がっている男の上になるべく体重をかけないよう覆い被さる。見た目には二十歳前後の女性でも、実際の重量は相当なものだ。そのまま覆い被さっては潰してしまう怖れがあった。
 慎重に、慎重に……肉棒を、扱いていく。
「ほっ……は、はは。いいぜ? 最初の頃とは比べモノにならねぇやな。エロ乳が、嬉しそうにチンポをくわえ込んでいやがる」
 嬉しい、のだろうか?
 ……嬉しいのかも知れない。
 きっと、自分は今、嬉しいのだ。
「は、い……く、ひっ! ……あ、ぅ……うれ、しい……私は、チンポを気持ちよくできて……うれしく、そして……私自身も……気持ちが、いい……です……あっ、あふっ、ふぅああああっ!」
 胸が敏感になっている。
 自分の身体、機能は全て熟知しているつもりでいたのに、まだこんなにも未知の部分、未知の感覚があったのだということにKOS-MOSは素直に驚いていた。
 これが愛によるものなら、ヒトの愛とはなんて素晴らしいものなのか。
「う、ぐぅ……チンポが……硬い……硬い、です……それに、私の嗅覚が、訴えています。……この、チンポから、凄い匂いが……しています。毒素は……ありません。しかし……臭い……は、ぁ……雄の、精臭が……あふっ、ひゅ、ぅはぁ……っ」
「ははっ! 流石は変態スケベロボだ! まさかチンポの匂いでまで感じやがるたぁ驚きだぜ。……よーし、じゃあ、一つ上までレベルを上げるとするか」
「……?」
 男が何をするつもりなのか、KOS-MOSはわからなかった。
 僅かに腰を浮かせ、亀頭部分を胸の谷間からはみ出させる。何のつもりだろうか? 亀頭は、乳房に包まれていた方が気持ちよいのではないのだろうか?
「ふーん。やっぱ、これだけだとわかんねぇか……まぁいいや。取り敢えず、今、胸から先っちょ出しただろ?」
「は、い」
「その部分をな、舐めるんだ」
 そこまで言われ、KOS-MOSは男がどうしたいのか理解した。
 胸で刺激を与えながら、新たに先端部を口を用いて刺激しろと言っているのだ。確かに合理的な方法だった。体勢的には少しばかり辛いかも知れないが、口内も使用すればより高度な快感を与えることが出来るはずである。
「了解、しました……チンポを、口に含みます。……ふ、むぅ……ちゅる……じゅぽっ」





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 刺激を与えればいいのはわかる。とは言え何分初めてのことなのだし、専門のデータがあるわけでもない以上、KOS-MOSの舌の動きは稚拙という以外になかった。
「ちッ、コッチはまだ駄目か」
「……れろ、ちゅぷ……じゅる?」
「おら、もっと舌で亀頭を押すんだよ。グッと、頬に押し当てたりして。……お、おぉ」
「はぐ……むっ、ちゅ、つ……じゅろ……ちゅぬ、ぷ……」
「そうだ、そうだぜぇ……うっ、ふ、ぃー……おお、それでそこの、スジのあたりを舌でこそぐんだ……う、おっ!」
 男に言われた通りに口内を、舌を動かし、KOS-MOSは果たして感じて貰えているのかどうかをつぶさに観察した。表情を見る限り、言われた通りにやってみた動きは正解だったようだ。そこからどうすればより感じて貰えるのかを模索し、新たに実行に移していく。
「ん、ふむ……ふむぅ……ちゅぱ、れろれろ……ペロ……」
「いいぜ、いいぜぇ……チンポの扱いが、わかってきたじゃねぇか。そうだ、もっとそこを……そう。口を窄めて、締め付けろや」
「ふぐぅっ、む、んむぅ……じゅるる、ちゅろろろろ……ぷっ、ぬちゅ……」
 窄めた口に亀頭部分をスッポリ包み込み、思いきり吸い上げる。男の何とも言えない表情がまた不思議だった。よっぽど気持ちがいいのだろう。そう思うと、自然と胸と口に力が入り出す。
(これが、チンポを愛するということなのでしょうか?)
「はぁむっ、んっ、じゅっぽ、じゅぽ、じゅぷじゅぷ、ちゅぶぅ、じゅるるるる〜……」
「おほっ!? お、おぉおおおお……いいぜぇ、チンポの中身が全て吸い取られちまいそうだぁ……も、もうすぐ、また射精すぞぉ」
「んっ、ぷ、ぷはっ……間もなく、射精するのですか?」
「あ? ああ、そうだ。射精するから口を放すなぁ? さっきまでと同じように亀頭をくわえて、先っちょの穴を舌でほじくるようにして俺をもっと気持ちよくさせてくれ」
「わかりました。チンポの……ここは、尿道口ですね? ……ん、くふぅ……こ、こを……責め、ます……ちゅむ……ずっ……ずっ、ちゅ……」
 男の腰が震えているのがわかる。射精を懸命に堪えているのだと理解し、KOS-MOSは舌の動きを強めた。
 もうすぐ、弾けるのだ。
 口の中で精液が弾けたら、どうなってしまうのだろう? 味は? 匂いは? 気持ちいいのだろうか、苦しいのだろうか、それともまた別の感覚なのだろうか。
 胸を両側から押し込み、窄めた口の中で舌を巧みに操って――
「お、おぉっ、で、射精るぞぉおおおおおっ!!」
「ふぐっ!? ぐぼ、ぶぼぉおおおおおおっ!?」





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 凄まじい勢いだった。
 尿道口を弄くり回していた舌に直接精液が絡まり、一気に口内を溢れさせ、喉まで流れ込んでいく。しかもそれだけでは済まなかった。喉まで流れ込んだ一部は鼻腔から逆流し、鼻から噴き出していた。まるで固形物のような精液に口も鼻も塞がれ、人間ならば呼吸困難で大変なことになっていたところだった。
 しかし幸いながらKOS-MOSは人間ではない。
 人間ではないけれど、彼女の疑似人格OSは既に性的な快感の意味、さらには目的意識までをも取り込み、己の中で昇華させつつあった。
 故に――
「ぐあっ!? お、お前、まだ欲しいのか?」
「ちゅっ、じゅぷ、じゅぽ……ぬぽぉ……ん、くはぁああっ! ……ほ、欲しい? ……そう、です。欲しい。私は、もっと……精液が、欲しい、です」
 男を絶頂に導いた瞬間、自分にも訪れた官能の波。
 KOS-MOSはそれに突き動かされるかのように男の剛直をさらに強く、愛おしげに刺激した。
「ずちゅぅ〜……じゅるるるるる……じゅぽぉっ、ちゅ、むちゅ……ぬちゅちゅ……ちゅるぅ」
「そ、そうだ……そうやって、穴の中に残った精液も、吸い出せ」
 KOS-MOSに備わっている嗅覚と味覚はあくまで戦闘・探索時における毒物などを判別するための疑似感覚に過ぎない。そこに人間のような性的快感と結びつく要素は皆無のはずなのだ。しかし、今はその二つがKOS-MOSを突き動かしていた。
「う、あぁ……チンポが、わたしの、口内で……また、震えています……うっ、はぁんっ! これ、がっ、この感覚が……っ、ひぐぅっ!?」
 自らの乳房を強く強く揉みしだき、乳首を抓んだりするなどしつつ肉棒に刺激を与える。快感を与えると同時に自らも得るということを、KOS-MOSは実践していた。
「いいぞっ、もっとだ、もっとそこの出っ張った部分とかを舌でなぞって、こそげっ! 汚れを全部とって綺麗にするつもりで……あ、あぐぐっ!? よ、よし、よーし、いいぞっ、いいぞぉ! お前の乳マンコと口マンコは最高だ!」
「んっ、ちゅく、ちゅろぉっ! ……ぐ、ひぅううっ! わ、私の……口マンコと、乳マンコで……あっ、ひゃ、うぅ……ッ! チンポ、感じてくれているのが、わかる……わかりますっくはぁあああんっ!? わた、しも、私も感じていますッ、あなたのチンポから、伝わって……ぐっ、ふみゅ、あひぃいいいんっ!? こ、これ、これ、はぁ……あっ、ぐ、あぁああっ!!」
「イクぞっ!? イクッ、射精してやる、タップリとコッテリしたチンポ汁を射精してやる、射精してやるから全部飲み込めぇえっ!!」
「ひゃぶぅううううううううううっ!!」





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 一度目と二度目よりもさらに激しい、凄まじい量の精液がKOS-MOSを満たしていく。
「ご……ぷぉ……」
 ブクブクと泡立つ精液が口から、鼻から溢れ、KOS-MOSの能面のようだった表情が歪む。しかしそれは苦痛による歪みではなく、快楽によるものだった。
「……ぶ、ぷふぅ……ごぼ……ずっ……ちゅ……びゅひ……あ、ばぁ……ぜ、せえ……えぎが……こ、んな……に、ひぃ……わだし、を……みたし……は、ばぁ……」
「……へ、へ……お前も思いっきりイッたみたいだな。まさか、口と胸でチンポ扱きながらイクようになるとは……すっげぇ科学力だなぁ、おい」
 嘲るような男の物言いにすら、KOS-MOSは理解不能な感覚を持て余していた。これが、人間の感情――その、揺らぎのようなものなのだろうか。
 わからない。
 わからないけれど、だからこそ、もっと理解したかった。
「へへ……もっと欲しいか? 俺のチンポが」
「……ぅ、ふあ……は、はい……もっと、欲しい、です。……私は、あなたのチンポを、もっと知りたい……理解したい……感じ、たい」
「そうか。そんなにお願いされちゃ、仕方ねぇな」
 再び、剛直がそそり勃っていく。
 KOS-MOSが持つ射精の知識とはかけ離れた回復力だった。
「あ、あ……チンポが……また……」
「教えてやるさ。嫌ってくらいに、コイツの良さをな」
 と、男の言葉にKOS-MOSはキョトンとして、尋ねた。
「“良い”のに、“嫌”になるのですか?」
 KOS-MOSの素朴な疑問に、男は目を見開くと、次の瞬間爆笑していた。
「ぶっはっはっはっは! ああ、ああそうだ! ク、クックク……そうだなぁ。嫌になるわけ、ねぇやなぁ。お前、チンポ大好きだろう?」
 その質問にはもはや迷う必要はなかった。
「はい。私は、あなたのチンポが大好きです」
 満足げに頷き、男がゆっくりと立ち上がる。
「じゃあ、もっと好きにさせてやるよ」
「……あっ」
 KOS-MOSの胸に去来するのは、本来彼女にあるはずのない期待や不安、そして仄かな別の感情。そう、それは明らかに感情だった。
 肉棒をうっとりと見つめ、KOS-MOSは、さらなる快楽の深みへと沈み込んでいった。





to be Continued?






絵:寒天示現流





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