さ だ め
炎の運命
〜或いは獄炎に翻弄される一人の女の宿業と就職の悩み解決します〜
「つまり、恋人と喧嘩した……と言うことでよろしいのでしょうか?」 「い、いえ。恋人とか、そう言う関係じゃないんです」 教会の懺悔室という場所には様々な子羊達が訪れる。 悩める者、悔いる者、迷える者、答えを欲する者、背中を押されたがっている者……司祭という聖職に就いてから、メルファは何百、何千人もの人々の密談をこうして相手の顔も見えない暗い箱部屋で聞かされてきた。人々が心に抱えているものを優しく解きほぐす手伝いをするのもまた、神に仕える者の役目と思えば、土台無茶な相談でもメルファは常に誠心誠意、心を尽くして相談に乗ってきたつもりだ。 今日もこれで五人目の子羊。 しかし今回の子羊の話は、どうも要領を得なかった。 「恋人では……無い。ええと、先程の話では……その、御家族以外で、貴女ととても親密にされている方が」 「は、はい。……親密、です」 「ええ。その御方が、貴女のご職業に難色を示されたと……」 「職業に、と言うわけではないんです」 そこで再びメルファは首を傾げた。 自分の理解力が足りないとするならばそれはまさしく不徳の致すところ。聖職者として正さねばならないが、それ以前に何か根本的な行き違いがあるような気がする。 今、仕切りの向こうにいる女性――正直なことを言ってしまえば聞き覚えのある声であったし誰なのか見当もついているのだが――には、非常に親密なお付き合いをしている相手がいるらしい。別にそれ自体は何も悪くないし、メルファの奉じる神は男女の交際や結婚を当たり前に祝福している。聖職者の結婚を禁じたりもしていないためメルファ本人にも結婚願望はあった。もし素晴らしい相手と巡り会えたなら、生涯を伴侶として歩みたいとそんな人生に憧れてもいる。 話が逸れたが、まぁ恋人とうまくいっていないという相談もこの懺悔室では少なくはない。男女交際の経験など全く無いため当たり障りのない事しか答えられないのがメルファとしては心苦しくもあったが、今回も所謂そんな恋愛相談だとてっきりそう思っていたのだ。 なのに、違うのだという。 彼女の――特に恋人というわけでもないのだが非常に親密なお付き合いをしている、おそらくは異性で、聞いている限りでは結構年上なお相手が、彼女が新しい職に就くたびに難色を示し、その度に職替えをしなければならなくなってしまい非常に困っている……と言うのが、大まかな相談の内容だった。ちなみにその職業というのは決していかがわしいものではなく、飲食店のウェイトレスであったり菓子屋の売り子であったり、この時点で聞いた限りではメルファとしても至極真っ当としか答えようのないものばかりだった。 恋人が風俗店で働いていただの、ヤクザな仕事で困っているだの、その手の相談は何度か受けたことがあるものの、今回のこれは何がどうなっているのかお手上げ状態だ。 「では職業自体は特に問題はないのですか?」 「は、はい。……なん、ですけど……そのぉ」 キュッと、仕切りの向こうで女性が何かを強く掴んだ気配がした。スカートの裾でも握り締めたのだろう。切羽詰まった空気が伝わってきて、メルファは理由はわからないままでもこれは大層気の毒な状況なのだろうと推測し、瞑目した。 「言い辛いことなのでしたら、無理をなさらず」 「いえ! い、言い辛く……は、……ありますけど、……で、でも、他に相談出来るような場所も、相手もいなくて……」 尻窄みになっていく声からは相手の気弱さと善良さが伝わってくるかのようだ。出来ることなら、司祭としてと言うよりも人間として彼女を助けてあげたいと思う。 「……あの――」 「し、司祭様ッ!」 「はっ、はいっ」 仕切られた先で相手が身を乗り出したのに気圧され、メルファは思わず引きながらかろうじて返事をした。ようやく覚悟を決めたのか、気配が少し変わっている。 「……お話、します。……その、実は――」
「……は? コスプレ?」 「いえ、そうではなく」 夕餉時。教会裏の畑で採れた野菜たっぷりのクリームシチューを啜りながら、ナナエルはメルファの話を聞いて訝し気に眉を顰めた。ニンジンは器用に避けて、ナナエルの注文通りとろけそうなくらい煮込まれたタマネギやジャガイモ、それに鶏肉を頬張って、口の方はご満悦だ。 「モグ。ン、ゴク。……違うの? コスプレの話だったじゃん」 「あの、違います。懺悔室に来たニクスさ――いえ、ある女性のご職業と、その仕事着に関する、お話です。……恥ずかしながら、私一人では上手い解決案が浮かばず……数日後にまたお見えになるとの事でしたので」 スプーンを咥えたまま、ふむと独りごちてナナエルは小首を傾げた。 「だからコスプレでしょ?」 まったく話が噛み合っていない。 それとも天界では衣服に関する話題は全てコスプレとして処理されてしまうのだろうか。人の身には計り知れぬ事なのかも知れないと懊悩し、メルファは天へ祈りを捧げた。 「……では、仮にコスプレであるとして。どのような職についてもその、仕事ではなく仕事着の方に……ご本人にとってとても大切な方が納得してくれないそうなのです」 「それは……難儀だな」 ぞんざいな物言いで口を挟んだのは、修道服を身に纏ったメルファより幾分若いくらいの女性だった。上級司祭であるメルファに対しただの修道女がそのような口をきくのは些か不敬ではあったが、彼女、修道女は修道女でも前歴はなんとこの大陸の女王だ。 元『逢魔の女王』アルドラ。前回のクイーンズブレイド決勝で敗れて後、色々あってこの教会で修道女見習いをしつつ生き別れの妹を探している。ぞんざいな口調は八年もの任期中に身についてしまったものなので、本人も直すべきと努力はしているのだがなかなか上手くいかない。 「連れ合いが仕事着に納得せず……その女、ニクスは職を転々としておるのだろう?」 「ええ。……あの、アルドラさん、一応その……ニクスさんのお名前は伏せてお願いします」 「ああ、すまぬ」 「ってかさー、あたしとしてはあのヘタレスケバンもどきに彼氏がいたって事の方が驚きなんですけどー。なにそれ、悪質な冗談じゃないの? 嘘でしょ虚構でしょ? なんであたしみたいな超絶☆美少女大天使様にだって彼氏とかいねーのにあんなヘタレにいんのよムキィイイイイイッ!!」 「……そんなのナナエルさんがナナエルさんだからに決まってるじゃないですか。いいから食事くらい静かに摂りましょうよ」 今の今まで一人会話に加わらず静かにシチューを啜り、パンを囓っていたハチエルから冷たく窘められてナナエルはさらに顔を顰めた。 「うっさいわねぇ! ってか何その誰それのくせに生意気だみたいな言い方は!? 罰として肉よこせ肉!」 「うあっ!? ちょっ、何すんですかナナエルさんうあぁああああっ」 自称超絶☆美少女大天使は言うが早いか後輩の器にスプーンを突っ込み、元々大して入っていなかった鶏肉を凄まじい勢いで見つけ出すと自らの皿へと総移住させた。このあまりの惨劇には流石のハチエルも涙目だ。 「ひどっ!? あんまりですよもうお肉全然無いじゃないですか!」 「モグモグ。……へへーんだ、いい気味よ〜。ハチ程度に肉なんか勿体ないからあんたはニンジンでも食べてなさい」 今度は自分の器から、これまた神速でニンジンだけを選り分けハチエルの器へと総移住を敢行し、ナナエルは一仕事終えた満足そうな顔で親指まで立ててみせた。 「……天の御使いが、まったく聞いて呆れる」 「天界だってこんな駄天使だけじゃないですよぅ」 「誰が駄天使だ誰がぁ!?」 溜息混じりのアルドラと涙目のハチエルを睨み付け、ナナエルは飢えた獣のように肉へとがっついた。それにしても、史上ここまで言動全てが安い天使が他にいただろうか。 おそらくは、いない。 「ひどいですぅ、お肉〜」 「ホッホッホ〜。肉ウマーマジウマー」 スプーンで器の縁をチャカポコ叩いてナナエルさん大はしゃぎ。行儀も何もあったものではない。まったく酷い話だ。 「……あ、あの、ハチエル様。私のお肉でしたら差し上げますので」 「うぅ、明日からナナエルさんの夕飯はメルファさんの爪の垢でも煎じてそれだけ飲ませてれば充分ですよ」 「ハッ。負け惜しみもいいとこね〜」 ハチエルから略奪した肉を口いっぱいに頬張りながら満面の笑みを浮かべ、ナナエルはじっくり咀嚼したそれを嚥下すると不敵に笑った。 「さーて。肉も補給したしー? ヘタレスケバンの相談事についてだったっけ。要するに彼氏があいつの職場での衣装に納得出来ない真性のコスプレ好きなフェチ野郎ってコトでOKでしょ?」 「……まぁ、流石は大天使様、そう言われてしまえばその通りに思えてくる見事なまとめ具合です」 素直に驚き目を見開いているメルファに、アルドラと、貰った肉を口元へ運ぶ手を止めたままハチエルは頬をヒクつかせていた。確かに、有り体に言ってしまえばナナエルの言う通りではあるのだがやはり色々と酷い。 「で、でもナナエルさん。職場の衣装が凄くエッチで、恋人の艶姿を他の男に見られたくないとかそういう理由かも知れないじゃないですか?」 「あー、確かに前に働いてた酒場ではけしからん衣装着てたわねぇ。ツーかパンツ丸見えじゃん。お前はワカメーヌ・イソノインバウテンかっつの」 ガイノスの某新聞に数十年間連載され続けているとある国民的四コマ漫画に登場する女の子名前を挙げてナナエルはハンッと両の手の平を返した。イソノインバウテン家の次女、ワカメーヌは理由はわからないがいつもパンツ丸出しな短いスカートをはいているのだ。 「まぁ美闘士でパンツ丸出しくらい珍しくも何ともないですけどねー。ナナエルさんもクイーンズブレイドの時なんてレイナさんにボロクズのように負けてオッパイまでポロリしてたしアハハ」 「うるせー。そこに触れんじゃねー」 ドスのきいた声で後輩を脅しつけると、ナナエルは器の底の方に残っていたシチューをギリギリまでスプーンで掬い取り、味わって食事を終了した。満足したと言いたげに、ペコリと頭を下げる。 「ごちそうさまー」 「お粗末様でした」 この辺だけは妙に礼儀が良い。 「まぁハチの言うコトにも一理あるとして、でも心の狭いオトコよねぇ。今さらこの大陸で女がちょっとくらい露出度高い格好してたからってなんだってのよ。むしろ見せるモンでしょ、大陸文化的に考えて。合い言葉は『最後の一枚まで戦え!』じゃん」 「いや、余が知る限りこの大陸にそのような格言は無いぞ」 「パラレルワールドにはあんのよ」 流石のアルドラもナナエルの異次元な会話にはついていけない事もしばしばだった。魔族との混血とは言え、むしろだからこそ天界の住人を推し量るのはやはり無理なのかも知れない。 「どうしてそんなに力説してるのかわかんないですけど、確かにこの大陸は文化的にはエッチぃですからね。……えーと、ニクスさんが働いてるのって普通のお店なんですよね?」 「ええ。……あ、それとハチエル様、一応ニクスさんというのは、その……オフレコでお願いします」 懺悔室の守秘義務なんてもはや紙屑も同然だった。最初に口を滑らせてしまったのが自分なのでメルファとしてもニクスに対し申し訳ない気持ちで一杯だ。 「普通のお店の衣装なんて、きわどくってもタカが知れてると思うんですよ。それこそ下着が見えてたり、胸の谷間がガバッと開いてたり、あとおヘソが見えてたりとか、そのくらいでしょう?」 ハチエルの言う通り、普通の店での衣装と言えば大体そのくらいで、確かに露出は多いが基本的に年頃の女性は肌を見せまくるこの大陸では別段気にする程のものでもない。 「そうよねぇ。別に全裸で働いてるわけでもないだろうし。だいたいついこの前までこの国って女王が股間にコテカ装着してたのよ? 公共の場で女王自らがチンコケース生やしてる国で今さら露出がどうこうとかチャンチャラおかしすぎておヘソでヒノモト茶が沸騰しちゃうわよ」 「チ、チン……ケースだなどと言うなぁあッ!? 大体アレはデルモアの趣味であって余の趣味ではない! 魔界の貴族は隠し武器を兼ねてああいったものを装備しておくのが一般的だと言うから……」 「そのわりには玉座に座ってる時とか偉っそーに大股開きでアレ突き出してふんぞり返ってたじゃん」 「うぐっ!」 返す言葉も無く、真っ赤になってアルドラは撃沈した。……ちょっとだけ、奥の手や隠し武器という響きも相まってか本気で格好良いと思っていただなんて今さら口が裂けても言えたものではなかった。 「ナナエルさん、アルドラさんを虐めるよりも今はニク……何とかさんのお話ですよ」 「あー、そうだったわね。元女王の恥ずかしい股間の話をしてる場合じゃなかったわ」 「うぅううあぁあああああ〜〜〜……」 一体全体何が原因なものやら。頭を抱えてのたうち回っているアルドラの横で、天使二人がうーんと唸っているところへ、 「あの……天使様。いいでしょうか?」 メルファが怖ず怖ずと右手を挙げた。 「ん? なんかわかったの?」 「いえ、その……ただ単純に露出が多いからイヤらしい、と言うことも無いのではないでしょうか?」 メルファの発言に、ナナエルとハチエルは雷に打たれたかのような顔をして硬直した。……その通りだ。他でもない実例が目の前にいたのをすっかり失念してしまっていた。 「わーい、すっげー説得力」 「ですよねー」 「そ、そんな……っ」 見た目は貞淑な司祭の装束なのに、一皮剥けばそこは聖なるポーズという名の淫猥姿態の乱れ撃ち。『帝都の聖女』ならぬ『帝都の性女』の面目躍如な意見だった。 「ツーとあたしの意見とハチの意見を足して割ったくらいが丁度良いのかも」 「あ、そうですね。つまり、自分のフェチズム的に納得いかない姿を衆目に晒すのがムカつくからニクスさんをドメスティックバイオレンス、と」 「ですから、ニクスさんでは……」 もはや訂正しても何の意味もない気はするが、メルファはどこまでも生真面目な聖女だった。 「だ、だが……趣味にそぐわぬ衣装と言うが、メルファ司祭。そのニク某の今までの職業遍歴はわかっておるのか?」 復活したアルドラに問われ、メルファはちょっと待ってくださいと断りを入れると懺悔室で聞いた限りの話をまとめたメモを取り出した。ニクスのボソボソという聞き取りにくい話を急いで走り書きしたため、実は書いた中身に関してはまだよくわかっていないものも多い。 「ってかニク某とか読み方変えたら超卑猥よねー。流石はお股の女王」 「ニクぼ――って何言わすんですかナナエルさんっ!?」 「お前らもう黙らんかぁあっ!?」 アルドラ、絶叫後、涙混じりに再び轟沈。 「まぁまぁ。アルドラさんも……あの、あまり気にしすぎない方が。どなたにも若気の至りというものはありますし」 さめざめと泣く修道女の背中を撫で慰めながら、メルファは取り出したメモをコホンと咳払いして読み上げた。 「えぇと、とある女性の職業遍歴なのですが……まずは酒場のウェイトレス。この時は私もナナエル様も実際に目にしています」 「うん。パンモロだったわ」 実にパンモロだった。紛うことなくパンモロだった。 「次の職業が……え、と、その……メイド喫茶?」 書き取った時はさして気にしなかったはずが、いざこうして読み上げてみるとどんな職業なのかわからずメルファは混乱しているようだった。と、そこでハチエルが元気良く答える。 「あっ、わたし知ってますよー。メイドさん姿の女給さんが『お帰りなさいませ、御主人様』とか言いながら相手してくれる喫茶店です」 「なにソレ。なんか冥土のメイドがたくさんいそうね」 自分で言いながら、ナナエルは大量のアイリが笑顔でお帰りなさいませと出迎えてくれる絵ヅラを想像してゲンナリした。シュールすぎる。 「はいはい、ンじゃ次はー?」 「は、はい。……、……? セ、セーラー服定食屋?」 今度はハチエルもお手上げのようだった。ナナエルも、無論メルファもサッパリわからない。 「ちょっとちょっと、そこの轟沈してる元女王。あんたセーラー服定食屋とか言う珍妙なお店知らない? ガイノスにあるお店なんだから女王のアンタが知らないって事もないでしょ?」 「……幾ら女王だとてそんなワケのわからん職業のことを知っている道理が無かろう。だが、聞いた感じではセーラー服姿の女給がいる定食屋ではないのか?」 まんまだった。 あまりにもそのまま過ぎて、三人とも敢えて回避していた解答だった。 「あのヘタレスケバンにセーラー服……絶対アレよね。ロンスカで、妙な草とか咥えちゃってるわよね」 「武器もヨーヨー使ってそうですよねー。アハハ……ハハ、……はぁ」 疲れ果てたように、天使二人の肩がガクリと下がる。 「……セーラー服の定食屋とか。店の主の良識を疑うわ」 「ナナエルさんに良識を疑われるなんてこの世の終わりにラッパ吹きたくなりますけど、確かにそうですよねぇぐえっ!?」 ハチエルにヘッドロックをかけながら、ナナエルは次を読み上げるようにメルファへと目配せした。オロオロしながらも止めるつもりはないのか、メルファはハチエルを申し訳なさそうに一瞥してからまたもメモを読み上げる。 「今度は……、……そのぉ、……バ、バニー宅配便」 全員、沈痛な面持ちでどのような珍職なのか銘々想像してみる。 「……バニーというのは、アレではないのか? いわゆるペリカンやクロネコが社のシンボルマークなのと同じように、ウサギさんがその宅配業者のシンボルかマスコットなのでは?」 「いえ、この職業に関してはお聞きしました。……バニーガール姿で、宅配するのだそうです」 アルドラの起死回生とも言える発言を心底申し訳なさそうに否定してから、メルファは手を組んで神に祈りを捧げた。ニクスから聞いている時も居たたまれない気持ちではあったが、改めてこうして考えていると余計にどうしようもない気分になってくる。 「……どんなものを、運ぶんでしょうねー」 「……オッパイにニンジンでも挟んで運ぶんじゃない?」 実に投げ遣りな受け答えだった。 |
「あのさぁ、メルファ」 「はい」 「……彼氏がどうこうっつーより、あの女が職業選択を明らかに間違えてんじゃないの?」 沈黙が、降りた。 ナナエルのツッコミに、ニクスを擁護出来る者などメルファを含め誰一人としてこの場にいるはずもなかった。
数日後。 「……はぁ」 教会からの帰り道で、ニクスは自らが押し潰されそうになるくらい重苦しい溜息を吐き出して、石畳の街路へと視線を落とした。 教会の司祭様なら何かしら良い解決案を提示してくれるのではないかと期待したのだが、やはりどうにも難しいようだ。 『もう少し、色々な方の御意見を仰いでみます』 というのがメルファ司祭からの心苦しそうな返答で、ニクスは結局明日からも新しい職探しに奔走し、そしておそらくは衣装が気に入らないからとオシオキされる日々を送ることになるのだ。 「……けど、働かないとご飯食べられないし」 クイーンズブレイド本戦前の前哨戦期に『炎の使い手』として望まぬ悪さをしてしまったせいで、舞い込んでくるのは怪しい傭兵や用心棒、果ては殺し屋紛いの仕事ばかり。真っ当に生きると誓ったニクスとしては、やはり日々慎ましい生活を送りつつ、時に正義の味方として悪と戦うような、そんな人生が望ましいのだが。 「平和に生きたいだけなのになぁ」 ボソッと。しかしそんなぼやきを聞いて腹でも立ったのか、右手に持った杖がやおら蠢きだしたかと思うと人通りも多いというのにニクスの身体を卑猥に弄び始めた。 「ひゃっ!? ダ、ダメですフニクラ様っ、こんなところで……やっ、にゃ、ひぅうう、はぁあおおお♥ ふぁあああああああああんッ♥」 突如往来の真ん中で始まった美女の触手凌辱ショー。 魔杖フニクラによる、お馴染みのニクスへのオシオキタイムだ。 『恋人さんと、仲良くしてくださいね』とメルファは最後まで誤解していたようだったが、まったく勘違いも甚だしい。 ヌメヌメと光沢のある青黒い触手がニクスの豊満な身体を弄び、太股を這い上がって秘裂をなぞる。その感触に思わずニクスが伸ばした背筋を今度は細長い触手の先端がツツッと滑り、喘ぎ声をあげた口に突っ込んまれた極太の触手からは、ドロリと濁った奇妙な汁を大量に流し込む。 「んぐっ、ふごぉおっ、お、おぉほぉおおおお♥ ふ、ふにくりゃしゃまぁあ♥」 硬く凝った乳首を抓られ、扱きあげられながらニクスは嬌声をあげて淫蕩によがり狂った。フニクラによって散々開発された肉体はささやかな抵抗すらも許されない。 「ひぁあっ♥ あっ、にゃぁあああはぁあああアアンッ♥」 恍惚と喘ぎながらも、ニクスは残る理性の欠片で次の職業はさてどこの面接を受けたものか思案していた。 何とか、フニクラが満足してくれる衣装の職業があればいいのだが…… 彼の趣味にも困ったもので、なかなか難しそうだ。 (明日は……スク水青果店かなぁ) ニクスが無事働ける職場があるのか。 全てはフニクラ様の趣味次第。 |
〜END〜 |