モテルルサンプル
「あの……ゼロ、どうかしましたか?」 ここは今や無数にある黒の騎士団の主要なアジトの一つ。 ゼロの執務室で書類の整理をしていたカレン・シュタットフェルト――いや、この場においてはその名は相応しくあるまい。よって紅月カレン――は、敬愛する指導者の仮面に隠れて読みとれない感情が気になって、思わず尋ねてみた。 「どうか、とは?」 「いえ、その……」 構成員も増え、今や日本における反ブリタニアの最大勢力へと膨れ上がった黒の騎士団だが、カレンは出来る限りゼロの側にいたいがために時折こうして彼の秘書のような真似をすることがある。 と言っても、いくらカレンが優秀でもここまで成長した騎士団運営のための専門的な知識や処理能力となると手に余るため、増えすぎた書類を種類別に分けてファイルに収めたりそのファイルをこれまた種類別に書棚に並べたりと、文字通りに整理しているだけだ。 今も思いっきり身体を伸ばして、書棚の上の方へファイルをしまい込んでいたのだが…… どうにも、見られている気がするのだ。 無論、この部屋には現在自分とゼロの二人きりなわけなので、彼から……である。 そこでまずカレンが考えたのは、自分が何かミスでもしてしまったのだろうかということだった。 かつて扇グループ内にあっては文武に抜きん出てグループの中核を成し、黒の騎士団黎明期においても名実共にエースとして活躍していたカレンも、文にディートハルト・リート、武に藤堂鏡志朗等の居る今となってはエースの自信など容易に持ち得られるはずもなく、ただゼロの命令には全力でもってあたりせめてその信頼に応えようとするのが彼女の誇りであると同時に心の拠り所となっていた。 ゼロは、今やカレンの全てだ。 カレンの夢も、理想も、希望も、その全てがゼロという形となって存在していると言って過言ではない。 だから彼女は怖れる。ゼロの失望を。ゼロからの信頼を失う事を。それは己の全てを失うことに等しいから。 こうしてゼロの顔色を伺うカレンに、普段の気丈さは欠片も見受けられない。もっとも、仮面に隠されたゼロに顔色もへったくれもないのだが。 それでもカレンは恐る恐る問うてみた。 「何だか、ずっと見られているような気がしたので……」 「ッ? ……いや、そんな事はないゾ」 イントネーションがやたらと妙だった。 「ゼロ?」 「うむ。何でもない。少し考え事をしていただけだ」 「そ、そうですか」 安堵に胸をなで下ろし、カレンは再び作業に戻った。片付けなければならないファイルは全て書棚の高い段にあるため単純作業ではあるけれど一苦労だ。 「……」 ノートPCのキーボードを叩きつつ、ルルーシュは内心冷や汗ものだった。まさか書棚の整理をしているカレンのお尻をずっと視姦してただなんて言えるはずもない。考え事をしていたというのは嘘ではないが、何を考えていたかと言えば女体の神秘についてだ。童貞野郎の本領発揮、妄想の中でルルーシュは井上も千葉もラクシャータも千切っては投げ千切っては投げ、ナオンにもてること風の如し。コーネリアだってメロメロだぜ? ああ、しかしどうしてこうもままならないのか。 チェスに関してはまさに天才としか言い様のない指し手であり、実戦でもまるで盤上の駒を操るかのように縦横無尽に兵を動かしブリタニアを翻弄しまくったゼロともあろう者がどうして未だに童貞クンなのか、我ながら理解に苦しむ。 特にショックだったのは、先日扇要や玉城真一郎といった古参の幹部連と飲んでいて『これまでつきあってきた女について』という実に男子校な話題で盛り上がった時の事だった。 言うまでもないけれどルルーシュは終始希有壮大な嘘を吐き通していたのだが、そんな中、今までずっと童貞仲間だと信じて疑わなかった扇が実は童貞でなかったのだと知ってしまったのだ。しかも噂では最近つきあってる彼女が実に家庭的且つ献身的な女性で、扇の弁当にはいつもハートマークが入ってるらしい。それを聞いた時は、いつ捨て駒にしてやろうかと本気で考えた。大量の爆弾を抱いて総督府に特攻とかいいんじゃないかしら。 扇のような優柔不断でモジャモジャな男でさえ童貞じゃないのにどうして伝説に名を刻むカッコマンであるところの自分が童貞なのか、神の采配は時に不条理極まる。 大前提として、自分には何か男としての魅力が欠けているのでは(シャーリーは実は単に悪趣味で例外だっただけかも知れない)とも考えたが、毎夜鏡の前でポーズをとっている分にはそんなはずはないように思えた。 うん、格好いい。凄く。 仮面のせいでこの理知的な顔立ちを万民に晒すことが出来ないのは世界規模の損失だが、その仮面のデザインにしても三日三晩寝ないで考え抜いた自分が考え得る限り最高にイカしたデザインなのだ。普通の女なら見ただけで股を濡らして言い寄ってきてもおかしくないはずである。……と、ルルーシュは固く信じていた。 なのに何も無い。 おかしなくらい、なーんにも無い。 (馬鹿な! こんなはずがあるか!) 心の中でルルーシュは両拳を机に叩きつけていた。 仕方がないのだ。年頃なのだ。スタイル抜群の美女や美少女に囲まれて、ただでさえ普段から悶々としているのだ。 四六時中セックスしてぇーエロいことしてぇーナオンちゃんにモテてぇー……とルルーシュが考えてしまっても、むしろ童貞少年としては当然の権利なのである。 いっそギアスで行きずりの女に命令してしまおうかと考えたことは数え切れないくらいにあったが、根っこの部分でルルーシュ・ランペルージという少年は実に純情であった。これだけエロ妄想に耽っていても「初めてはやはり愛がないとダメだな」とか考えていた。その浪漫、筋金入りの童貞、まさに童貞の権化と言えよう。 今、ルルーシュの目の前ではカレンのお尻が背を伸ばしたりしゃがんだりする度に元気よく躍動していた。 C.C.のような妖艶な魅力とは正反対の、実に健康的な美しさだと思う。美少女揃いで有名なアッシュフォード学園でもカレンよりレベルが高い、となると限られてくる……と言うよりこのレベルに達してしまえば後は個人の趣味嗜好の問題だろう。 では、ルルーシュの好み的にカレンは果たしてどうなのかというと…… (そう言えば、あまり考えたことがなかったな) クラスメートではあったがカレンはレジスタンス活動のせいで出席は著しくなかったし、ルルーシュも授業は寝て過ごす場合が多かったため面識は無いに等しかった。いわばあの日の新宿での出会いがカレンとの初めての出会いと言っても差し支えなかったのだ。よって、学園で彼女が演じている『大人しい病弱な美少女』といった印象をルルーシュはほとんど抱いていない。気丈で活発で行動的な、そして黒の騎士団においては最も信頼出来る部下の一人――そんな少女だった。 カレンのお尻の動きを目で追いながら、改めて彼女について考え、ルルーシュはその類い希な妄想力を駆使して彼女とのラブラブなエッチをシミュレートしてみた。 ……悪くない。 悪くないどころか、いかん。 「エレクチオンッ」 チンコ勃った。 「ど、どうしたんですかゼロ?」 驚いたカレンが勢いよく振り返る。常々けしからんと思っているたわわな胸が「ばるんっ」と揺れた。大きさでは生徒会長ミレイ・アッシュフォードにはかなわないまでも、ルルーシュの見立てた限りではこの揺れ具合からするに弾力において劣るようなことはあるまい。おかげでチンコが大変だ。 ……不味い。退っ引きならない状態になってきた。 「いや、なんでもない。次の作戦名を考えていたのだ。名付けてエレクチオン作戦!」 あまりにも阿呆な言い訳で誤魔化しを企てるルルーシュ。 「あっ、そうだったんですか」 でもカレンは納得してくれたようだった。 「あ、ああ。このエレクチオン作戦が成功すれば、ブリタニアに大打撃を与えてやることが出来るだろう。我らの理想の実現まで、もう一歩だ」 こうなったらもう言いたい放題だった。 対ブリタニアの一大作戦、エレクチオン作戦。カレンの脳内ではいったいどんな素晴らしい作戦として想像されているのか、ともあれ凄くウットリしている。本当はチンコ勃っただけだなんて知ったらどんな顔をするだろうとか考えてたら余計にムズムズしてきた。マントの下は大暴走だ。 ――こうなっては仕方がない。四聖剣の仙波と卜部の顔でも思い浮かべてカチンコチンコを鎮めよう。 ルルーシュは恰幅のいい仙波崚河とヒョロリと背の高い卜部巧雪の二人が自分に微笑みかけている情景を思い浮かべてチンコの沈静化を図った。 ……ああ、情欲が、失われていく。魂そのものが萎えていく感覚にルルーシュはゲンナリとした。 「……ゼロ。もしかして、危険な作戦なのですか?」 敬愛するゼロが一大作戦を口にした途端、急に静かになってしまったのが気になったのだろう。カレンは心配そうにゼロの黒い仮面を覗き込んできた。 「う、む。非常に危険を伴う作戦に……なる。……かも知れない」 カレンが、近い。どうやら本気で心配してくれているらしく、流石にルルーシュも心が痛んだ。あとズボンに閉じこめられている股間も痛がっていた。 そんなルルーシュの暴れん坊がきかん坊してる事など露とも知らず、カレンは思い切り胸を反らした。 「ゼロ……わ、わたしがっ!」 ……ワーオ。え、ちょ、女性の胸ってこんな揺れ方するものなの!? ルルーシュは困惑していた。女体の神秘が彼の明晰な頭脳に津波のように押し寄せてくる。 「わたしが、この命に代えても貴方をお守りします! どんなに危険な作戦でも、私は、私だけは絶対に、絶対に……貴方を……」 カレンの熱い胸の内と豊かな胸の実にルルーシュは感動していた。……こんな時、例えばC.C.ならどんな風に言ってくれるだろう。きっと『危険? ああ、そうか。まぁ頑張るんだな』とか『危険? 私の体重のことか? 余計なお世話だ』とかそんな程度の事しか言うまい。くそう、あの尻女め! 人の金でピザばかり食って許せぬ! 今、ルルーシュの中ではC.C.への憤りとカレンへの感動が情動の渦となって激しく波打っていた。まさに勇侠青春謳。行けどもけものみち、獅子よ虎よと吠えて茜射す空の彼方にはまほろばが見える。 ああ、カレンみたいな娘が自分に惚れてくれたなら、男冥利に尽きるとはまさにそういう事なのだろうなぁとルルーシュはマントの下で滾る股間を押さえつつ切に思った。色んな意味で切なかった。
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