The blank of 5 years
※あくまでアレです。回転系です。
「突然だけど、脱獄する気無い?」 「……君はいったい何を言っているのかね?」 第9無人世界、グリューエン軌道拘置所の面会室で、開口一番意味不明なことを曰ったフェイトへとスカリエッティは心底から『なに言ってるのこの女?』と眉を顰めた。何やらよっぽど焦っているのか、汗で金髪が首や額に貼り付いている。 見ようによってはイヤらしい絵ヅラなのだろうに、全てを台無しにしているのは赤々と紅に朱の散った……つまるところ元からの色に加え極度に血走った彼女の眼だった。 生き様と言動は冗談なようでも、眼は本気だ。 そもそも、確かにフェイトはクルクルさんだが一応は執務官のはずなのだ。両者とも殆ど忘れかけていたがスカリエッティの逮捕にしてみてもフェイトの宿願だった……のに、こんなにも真剣極まりない表情で脱獄しろなどと言う。 疑問に感じるなという方が無理だった。 「何を言ってるもへったくれもないよ。脱獄しない? しよう? するべきだと私は思うんだ」 「だからさっぱり理由が呑み込めないのだね」 「理由なんて必要ないよ。強いて言うなら悪党なら悪党らしく足掻いた方が悪の美学的にイエスでしょ? 脱獄の一つも出来ないとかそんなんじゃゴッサムシティで生きていけないよ! バットマンにやられちゃわないようレッツ脱獄、ほら!」 余計ワケがわからなくなってきた。 悪の美学なんて言われても、別にスカリエッティはそんな美悪の華を目指してコスい犯罪を繰り返していたわけではない。じゃあなんであんな事してたのかと問われれば返答に困るが、何はともあれ脱走なんて言葉にはこれっぽっちも食指が動かなかった。 それどころか、スカリエッティはスッと頭を下げるとまるで聖者のように穏やかな口調でフェイトへと返答した。 「残念ながら悪の美学とやらではご飯食べられないのだよ。その点、この拘置所は寝てるだけでご飯食べられるし、正直税金の無駄遣いとしか思えないくらい設備も快適なのでね。大浴場にはサウナもマッサージチェアもあるくらいだ。今の私はバットマンどころかコウモリネコの相手をするのも億劫なくらいなのだよ。と言うわけでもう一生出ないで良いというかお願いします出さないでください」 要約すれば、『ボクここでウンコ製造器になります』宣言。 そう言って顔を上げたスカリエッティは、とても清々しい空気を身に纏っていた。浮かべた笑みは雄大なガンジスの流れを彷彿とさせるようなアルカイックスマイル。色々と、主にニート的な意味で悟ってしまった男の顔がそこにはあった。 「ちょっと待って!? 一応悪役でしょ? 機動六課の、そして私の最大の宿敵だったはずでしょ!? だよね!?」 「はは。何を言われようとも私はここから出る気は無いのだね。喰って寝て喰ってウンコして寝る生活を満喫してやるのだね」 もはやスカリエッティの決心は覆しようもない程に強固なものだった。冬場に屋根のあるところで過ごしたくてわざわざ軽犯罪をおかすホームレスのおっさん並に。 「ぐぅ、どんな凶悪犯罪者でも犯罪起こす気を無くさせてしまうというある意味なんて怖ろしい拘置所なの、此処ッ」 「はは、そう青筋立てんとまぁゆっくりしていきたまえ。ほら、この前チンクが差し入れてくれた茶菓子もあるんだ」 「仕方ない、脱獄のことは取り敢えず置いておいて茶菓子はいたふぁきはふ。はむはむ……むっ!? ふぁにコエおいひいっ」 出されるや否や茶菓子を貪ったフェイトはさっきまで血走っていた目を幼かったあの日のように輝かせてゆっくり丹念に味わった。モグモグ。 「生八つ橋に似てるけどそれよりももっと柔らかくて、モチモチとした食感が小豆本来の甘味を生かした粒餡のほんのりとした甘さと一緒に舌の上でムッチンプリンと踊る、踊るよ! コレどこのなんていうお菓子でありますか!?」 興奮のあまり口調が変わっていた。 「知多半島のお土産で『波まくら』と言うのだね。ちなみにその柔らかさは『赤ちゃんのほっぺたのような柔らかさ』と言われているけどまさにそんな感じなのだね。コレと比べると八つ橋の皮は」 「まるで象のお尻だよ!」 なんだかうどんのコシに対する評価みたいだった。 「さぁ、お茶も飲みたまえ」 「いただきます。あ、ほうじ茶だ」 「私は和菓子にほうじ茶の組み合わせが好きでね」 和気藹々。 それから二人は小一時間ばかり世間話に興じた。 最近の不況の話や、政治の話、環境問題、将来の夢、庭に植えた柘榴に実がなっていたこと、冬のボーナスがまた下がりそうだという愚痴、ウーパールーパーの唐揚げのキモさ、どうして中国では絶滅危惧種が平気で市場に並んだりするのか、などなど。 「……あ、いけないもうこんな時間だ」 ふと気がつけば面会時間ももうすぐ終わりを告げようとしていた。どうやらすっかり話し込んでしまっていたようだ。 とは言え最近は遠方の任務も多いため溜まりに溜まっていた愚痴と、会話に対する飢え、さらに美味しい和菓子とお茶によって満足したのかフェイトは「それじゃまた」と笑顔で席を立ち―― 「違うよ!? 脱獄だよ脱獄! 脱獄計画練らなくちゃ私がここまで来た意味無いよ!?」 大声で叫んでいた。拘置所の中だというのに。 「ああ、そう言えば最初はそんな話だったのだね。あまりに珍妙な話だったからすっかり忘れていたよ」 「忘れないで! 私の人生かかってるんだから!」 その一言でスカリエッティは静かに席を立った。 壮絶に嫌な予感がする。絶対に聞きたくない。 「……じゃあ私はこれで」 「ははバインド」 「おうふっ!?」 そそくさと立ち去ろうとしたところを両脚をバインドされ、スカリエッティは哀れ顔面から床にダイブした。ひんやりした感触が唇に伝わって気持ち悪いやら痛いやら。 「まぁ逃げずに聞いてくださいよお父さん」 「こっ、こんな時だけ父親呼ばわりとかどんだけーなのかね!?」 「娘ってそういう生き物だってなのはが若い頃言ってたよ」 「……まだ二十そこそこなのに若い頃って表現が的確すぎて涙が止め処なくこぼれ落ちそうだよ」 「でもそれ以外に表現のしようが無いし」 本人が聞いたら間違いなく二人とも吹き飛ばされそうだったが、鬼の居ぬ間に何とやら。なのはがその場にいなければフェイトだって多少気が大きくもなる……事もある。 しかし両脚がバインドされた状態では満足に立ち上がることも出来ず、スカリエッティは暫くモゾモゾと身体を動かしていたのだが結局諦めてゴロリと横になりながらフェイトの話を仕方なく聞いてやることにした。 「……で、どうして私を脱獄させたいのかね」 「それはもう聞くも涙、語るも涙のお話でね」 多分聞いたら馬鹿馬鹿しすぎて泣きたくなるのだろうなぁとこの時点でスカリエッティは悟っていた。そしてその予感はあまりにも正鵠を射ていた。 「貴方が逮捕されて、六課もその役目を無事に終えて予定通り一年で解散したんだけど」 「ふむふむ」 「おかげでエリオと離れ離れになっちゃったんだよ」 「子離れしろという神の啓示なのだね。終了」 「終わらないでよ!? こっからなんだから!」 必死の形相で食い下がってくるフェイトを面倒臭そうに見つめ、スカリエッティは床に寝っ転がっているせいで冷えたのかWC……ウンコ製造器の面目躍如とばかりにO・TO・I・REに行きたくなってきた。早く終わって欲しいものだが、きっとくだらないことをグダグダ延々語られるのだろうなぁと思うとウンザリする。 「WCニコル」 「……は? イミフな事言ってないでさぁ聞いてよ私の悲劇」 今のスカリエッティに出来る最大限の意思表示はしかしフェイトに欠片も通じることはなく地獄のようなロングロングストーリーが開始されてしまった。 「機動六課が解散した時にね、私は上司のはやてだとアテにならなかったから義兄のクロノに申し出たんだ。『寿退職がしたい』って。そしたらお義兄ちゃん、なんて言ったと思う? 可愛い義妹に『お前の頭の中身がポップコーンなのはわかったから大人しく映画館の売店に帰ってコーラと一緒に出番を待て。たっぷりと無塩バターと塩をかけてな』とかそれ酷すぎるでしょ? 酷すぎるよね? なのはだってシグナムだってそんな酷い事言わないよ言う前に撃ったり斬ったりしてくるけど! それでそれでね、私としても引き下がれないからエリオとの婚姻届をこうババッとお義兄ちゃんの眼前に突きつけてやったわけ。そしたら何も言わずに破り捨てたんだよ!? 三日三晩寝ずに完璧にエリオの筆跡マスターしてサインした私の苦心を踏みにじったんだよ! 酷いでしょ? 酷いよね! 心ごと踏みにじられた気がして温厚な私でも流石にそれはどーなのと義兄妹残酷物語に意義申し立てようとしたら今度は向こうからスッと一枚紙切れ渡してきてとんでもなく辺境での任務言い渡してきてあまりの暴虐の限りに私も怒ったから取り敢えずザンバー振り回してみたらぶったんだよ!? 色んな人にぶたれまくりなこの私をさらにバチコーンと。火花出たよ目から人間って本当に火花って出るんだってビックリしたよ。それでね、これ以上反抗すると反逆罪で拘置所にブチ込むとか血も涙もない事言うから大人しく任務に向かったの。その任務先と来たらこれがまた超弩級の極寒世界だったもんだからね、強敵相手にソニックフォームになったら寒くて寒くて戦闘中だっていうのにやたら睡魔さんが瞼に砂撒くどころか全力でぶつけてくるものだから三途の川まで凍って見えていきなりコキュートスとかレベル高すぎだよ! ……そんな辛い毎日を送ってる私の所にね、エリオから手紙が来たの。ラブレター。もう私嬉しくてね、飛び跳ねながら手紙開けたら写真が一枚入ってて、ああ、エリオ背が伸びたなぁ色々大きくなってそうだなぁとか幸せ気分に浸ってたら気付いたんだ。エリオの隣で、キャロがすっごい勝ち誇った顔しててこれがもう本当なんて言うの? あんなドス黒い笑顔のキャロ見たこと無い。人間ってあんな顔が出来るものなの!? ってくらいショック受けて取り敢えず任務の目的だった組織を写真見た後五分で壊滅させて大急ぎで戻って通信したんだけどエリオに『一緒に暮らそうよ』ってそれとなくプロポーズしたら『今の自然保護区での仕事が楽しいので暫くはここで頑張ってみます』とか言われちゃって悲しいやら悔しいやら絶望したやら首を吊ってしまいたいやら仕方がないのでエリオをもう一回呼び戻すには機動六課再結成でもさせるしか無いと思い至った私は貴方に脱獄して貰ってもう一度対スカリエッティの必要性を上に説いて回って新生機動六課を設立しようと考えてここに来たんだよ当然今度の部隊長は私で人事とか全部自由フリーダムうわーすごいあったしカンポキ!」 「トイレ」 三文字返すのがスカリエッティの限界だった。 「トイレになんて行ってる暇無いんだよ!」 「暇とかそういう問題ではなく生理現象なのだからこれは何よりも優先されるべき事柄なのだね! トイレ、トイレホントもうヤバイのだね破裂してしまうニコル!」 必死になって己の窮状を訴えるスカリエッティを、フェイトは役立たずのゴミにでも向けるかのような視線で見下ろし、 「バインド」 再び、バインドを放った。 「へぶぅううっ!?」 スカリエッティの身体が海老反りに限界を超えてググッと反った。そのままそれこそ漁船に揚げられた海老のようにビッタンビッタン床を転げ回る。 どこにバインドをかけたかってあまりに悲惨すぎて言えやしない。言語に絶するあまりにもあんまりな仕打ちだ。 「ちょっ、まっ……がぎ、ぐぎぎぎぎぎぎッッ〜〜〜〜〜!!?」 信じられないところをバインドでキッツく締めあげられて、スカリエッティは白目を剥き泡噴いてぶっ倒れてしまいそうになりながらゴロゴロと面会室内を転げ回った。 「ほら苦しいでしょ? じゃあ朝目が覚めてトイレに行く時のような気分でレッツエンジョイ脱獄!」 「ぼぼぼぼぼ膀胱がぼぼぼ暴行されてるジョジョ状態でそんなめめめめめ目覚めの気分むむむむむ無理に決まってるのだだだだだだホァタァアアアアッ!!」 怪鳥の如き声をあげ、海老反りしていたスカリエッティの身体が今度は跳ね上がってピンと直立した。かと思いきや股間を中心にしてグネグネとくねり出す。見ているだけで苦しみが伝わってくるあまりにも壮絶な挙動だった。 「うぅ、仕方ないなぁ。解く?」 「今解かれたらどうなるか猿でもわかるあsdfghjkl@:・¥:@@」 「うあー……顔が紫色になってきた」 ふと、フェイトはスカリエッティの苦悶する姿を見ながらいつもなのはやシグナムが自分を見ている時の感情は今この胸に抱いている不思議なトキ☆メキと同じものなのかどうか考えてみた。 「……あれ? 私達って親友だった……よ、ね?」 疑問に頭を埋め尽くされてしまった。 「ああ、なんだか今なら悟りも開けそうだよ……悟りと同時にヘブンズドアーが開きかけてもう……扉の向こうから古き者達が顔を出しかけてるやぁコンニチハ」 段々とスカリエッティの表情が苦悶ではなく清々しいものへと変じようとしていた。悟りニートの時以上に聖人に近付いていく様はいっそ怖ろしい。フェイトにはとてつもなくおぞましいなにか、宇宙を乱す物の怪のようにさえ感じられた。 「この場で討ち滅ぼすのがきっと正義だよね」 「……フフ。正義、悪、光と影……全ては彼方……宇宙は深く 、限りなく広く、その無限に思える奥深さの前には、 ひとつの星の寿命など晩秋の蛍の光のように儚い……」 真理に到達しかけたスカリエッティの頭上にザンバーが構えられる。刃の煌めきは無慈悲に一閃され、虚空を裂き、全てを両断していく。 「諸行無常……祇園精舎……天上天下唯我独尊……寿限無寿限無……海砂利……水、魚……」 ――その日、流星となった。
「……いや、マジで死ぬかと思ったのだね」 「どうして生きてるのか私が言うのもアレだけど不思議だよね」 トイレを済ませ至福の表情を浮かべたスカリエッティと改めて正面から向き合いつつ、フェイトはとてつもなく不本意ながら自分の不死身ぶりはまさか父親似なのではないかいやしかし遺伝子的な繋がりはないはずと懸命に己に言い聞かせていた。 「で、ええと何の話をしていたのだったか」 「脱獄」 「ああ、そんな話だったか。正直色々一緒にトイレに流してしまってすっかり忘れていたよハッハッハ」 ようやく本題に戻ってきたものの、この男はやはり解放してはいけないパンドラの箱の中身ではないかとフェイトは後悔していた。 「はぁ。なんとかエリオを呼び戻す手段があればこんな苦労する必要もないのに」 「しかしだねぇ、呼び戻すのではなく自分から会いに行くという選択肢はないのかね?」 「えッ!? ……なにそれ、恥ずかしいヨぉ……」 いきなり頬を染めてクネクネしだしたフェイトを見てスカリエッティは顔を顰めた。ウゼェ。 「あ、あのね、一応私って保護者だし、年上だし、そんな自分から会いに行くなんてふしだらな真似は倫理に反するかなぁ、とか考えちゃうくらいにはね? ……わ、わかるでしょ?」 「いんや全然」 説得力皆無どころの話ではなかった。 「君は今さら何を言ってるのか……これまでの自分の行いを全て振り返ってみたまえ」 フェイト、回想中。 これまでの出来事が走馬燈のように脳内を駆け抜けていく。 なのはとの出会い。 はやてとの出会い。 シグナム達との出会い。 ……そしてエリオとの出会い。 思い返すだけで胸がポカポカしてくると同時に、そこから先は血塗られた陰惨な記憶ばかりが甦る。 あの手この手でエリオに迫ってはなのはに撃たれ、シグナムに斬られ、はやてに給料と休みを減らされて…… 「……わぁ。我ながら色々あったよね」 思い出がポロポロとこぼれ落ちていくけれど、これといって感動が湧き上がってこないのがまたなんとも。取り敢えず自分がまだ生きていることに感謝しつつ、フェイトはほぅと一息吐いて、満面の笑みを浮かべた。 そうして、感慨深げに、 「――うん。エリオ……最高」 恍惚と、言い放っていた。 「結局そこに行き着くのはまぁわかりきっていたがね」 しみじみと呟くスカリエッティの言葉は諦観ではない。織り込み済みの結果に辿り着いた際に生じる科学者特有の感傷のようなものだ。確定予測というのは嬉しいような寂しいようなつまらないような、ともあれこれでようやくフェイトの与太話から解放されるのだから、嬉しい方に分類してしまってかまわないだろう。 「ありがとう、スカリエッティ。おかげで決心がついたよ」 「フフ。礼を言われるようなことは何もしていないがね」 立ち上がり、面会室の扉に手をかけたフェイトを見送って、スカリエッティは再び訪れる安寧の日々に想いを馳せた。どの積みゲーから崩していくか実に悩む。 「――私、征ってくるよ」 「え、いくってその字?」 カタカナでないだけマシか。 ともあれ、決意と覚悟は本物だった。全身から迸るは金色のオーラ。空気は帯電し、バチバチと無数の危険な魔力球がフェイトの周囲に浮かんでいた。 「今の私なら、ゼットンと喧嘩しても勝てる!」 ただし二代目に限る。 「……行った、いやさ征ったか」 去りゆくフェイトの背中は雄々しく、自信に満ち溢れ、これから行おうとしているコトの是非はともあれ、そこに纏った空気はあくまでも凛然と爽やかだった。 しかしその空気故に、スカリエッティは確信していた。 「スターライトブレイカーを三発、さらに紫電一閃でナマスかねぇ」 またもや確定された予測だ。実に面白味はないが、敗者には敗者の美が、矜持がある。願わくばフェイトにも、敗けてなお強く美しくあって欲しいものだ。無理だろうけど。 腰を上げ、刑務官に付き添われて独房までの長くはない距離をのんびりと歩きながら、スカリエッティはでは自分は敗者としてどうだったのか考えてみた。 ……が、すぐさま口の端を釣り上げ、自嘲した。 「フフ……考えるまでもないか」 矜持のあるような悪党だったならば、フェイトの言う通り脱獄くらい考えていただろう。それが露とも脳裏を掠めないということは、要するにそういうことだ。 拘置所の廊下に響く自身の足音に耳を傾けつつ、スカリエッティはしみじみと溜息を吐くのだった。 |