Turning Fate/The end for beginning



episode-04
〜食卓賛歌〜


◆    ◆    ◆



 衛宮士郎はだれていた。

 そも、本人は頑なに否定しているが、厨房に立つことは彼にとって責務である以上に何よりの楽しみであった。
 学校が終われば修行とバイトに明け暮れる日々。夏休み中の今などはそれこそ暇さえあれば修行に従事している。
 そんな士郎にとって、朝にチラシを見ながら晩の献立を考え、実際に商店街に足を運んでみてから改めて食材を吟味し、これまでの経験を生かしつつも常に新しい味への探求と挑戦を怠らずに調理に没頭することは、数少ない趣味娯楽であったのだ。
 ……なのに、半年前からその楽しみの大半を奪われてしまった。
「……虚しい」
「? なんか言った、士郎?」
「駄目よー。今お姉ちゃんと遠坂さんがテレビ見てるんだから。見たい番組あるなら録画して後で見なさい」
 別に他に見たい番組があるわけではない。今二人が見ている『藤岡弘探検隊』だって充分におもしろい。
 いくら暑いからと言って、Tシャツ短パン姿で惜しげもなくその御脚を晒している凛と大河を見ているよりは、藤岡弘の暑苦しい顔&演技を見ていた方がよっぽど健全だと士郎は思っている。……男としてはある意味不健全かも知れないが。
 大体、自分が四日に一度しか厨房に立てない事以上に何が不満かと言えば、最近この家の女性陣の恥じらいが目に見えて薄れてきていることだ。いかに例年と比べ酷い猛暑だとは言え、これは衛宮家の当主として見過ごすわけにはいかない。見れないけど。
 既に本性を隠す気など更々無い凛が、短パン姿で胡座をかきつつ、夕飯前だというのに煎餅をバリバリつまんでいるのは、これはまぁ仕方のないことだし、諦めもつく。今や遙か昔にすら感じられる『学園のアイドル・遠坂凛』に憧れていた頃の士郎であったならば、あまりのことに魔術回路が暴走、爆死していたかも知れないが、本性をさらけ出した彼女と過ごすこと半年。嫌でも慣れた。
 大河に関しては、もはや何もかも考えることすら億劫だ。目の前で両脚を投げ出し、シャツの胸元を思いっきりひろげながら「あっついわねぇ〜」とか言って手をパタパタさせている自称保護者に対し、果たしてどんなかけるべき言葉があろう。
 そう、問題なのは彼女達二人ではない。
 問題なのは、現在厨房にて夕飯の準備をしている二人だ。
 そもそも、何故にイリヤはブルマなど履いているのだろう? 衛宮ファミリーに少女が加わって半年、気がつけば彼女の部屋着は体操服とブルマになっていた。
 犯人が誰かはわかりきっている。……虎だ。あの虎は、少女が世情に疎いのをいいことにその服装に関してはやりたい放題。挙げ句、口喧嘩で負けるたびにどうでもいいホラばかり教えるのだからタチが悪い。
 そして、士郎にとっては最後の希望……いや、それどころか日本に残された数少ない大和撫子の一人だろうと信じて疑わなかった桜ですらが、流石に凛や大河ほどではないにしろ、最近は平気な顔をして上は薄手のTシャツ下はハーフパンツ姿でいることが士郎の暗澹たる気分に拍車をかけた。
 今の衛宮邸は扇情的すぎる。
 友人である柳洞一成ほどではないにしろ、士郎の貞操観念は非常に固い。彼の中の常識としては、女性はもっと慎ましやかでなければならないのである。今の衛宮邸は、そんな士郎の価値基準からすれば異世界も同然なのだ。
 以前、控え目ながらもその旨を凛に伝えたところ、『うちみたいな洋館なら兎も角、純日本家屋での真夏の過ごし方って言ったらこんなものじゃない?』などという返事が返ってきた。
 間違っている。その認識は激しく間違っている。間違っているのだが……何故か何も言い返すことが出来なかった。
 故に、今の彼に出来ることと言えば、今この場にいるどの女性よりも奥ゆかしかった愛おしい少女の面影を胸に抱きつつ、ひたすら己が煩悩と闘うことのみ。
「色即是空……空即是色……喝ッ!」
「……ちょっと衛宮くん、うるさいわよ?」
 ……合掌。




◆    ◆    ◆




 そんなこんなで時刻は午後の七時半。
 座するは五人。テーブルの上には、所狭しと並べられた料理の群れ。
「さぁ〜リン、覚悟は出来たかしら?」
「ふむ。自信だけはあるみたいね。まぁ、それはいつものことだけど」
 真向かいに座し、火花を散らす凛とイリヤ。
「はい、先輩。こっちは藤村先生に」
 我関せずと笑顔で人数分のご飯をよそる桜。
「おーなーかーすーいーたー」
 カチャカチャと取り皿を箸で叩く大河を、
「藤ねぇ、いくらなんでもそれはやめろ。不作法にも程がある」
 と諫める士郎。
 これがいつもの衛宮邸の食卓風景である。
 初めの頃はぎこちなかったものの、今ではみんなすっかり馴染んでしまった、まさしく家族の団欒。
 で、肝心の献立なのだが……どうにも先程からイリヤが聞いて欲しそうにウズウズしているため、士郎は全員にご飯が行き渡ったことを確認すると、まずは説明を求めてみることにした。
 テーブルの上に並んでいるのは、メインの鶏肉料理とその付け合わせが盛られた皿、人数分のポタージュスープ、そしてポテトサラダである。スープとサラダの方はわかったが、メインの鶏肉料理はおそらく食べたことのないものだ。
「イリヤ、この今夜のおかずは……」
 その途端、少女の顔にニパーッと会心の笑みが浮かぶ。
「イェ〜イ! 流石のお兄ちゃんも気になって仕方ないみたいだから説明しちゃいまーす。今晩のメニューは『Pollo alla Diavola』と『Vichyssoise』。イタリアンとフレンチに挑戦してみました!」
「あ、ポテトサラダの方はわたしがつくりました」
 わざわざ立ち上がり、腰に手をあて「どうだ!」とばかりに胸を張るイリヤのすぐ脇で、控え目ながらも自己主張を忘れない桜。最近の彼女はそつがない。
「ふ〜ん。ヴィシソワーズ、って言うと、アレね。ジャガイモをベースにした冷たいポタージュスープ。それにこっちの鶏肉の方は……」
「むー! わたしが説明するんだからリンはちょっと黙っててよ。ほら、フジオカヒロシがなんか見つけたみたいよ?」
 敵もさる者。凛の料理知識は侮れない。
 このまま説明され尽くされてしまってはその時点で負けも同然、とばかりに、イリヤは凛の注意をテレビに向けようと画策した。ブラウン管の中では、ちょうど隊員の坂本が大蛇に飲み込まれようとしている。
「ああ! ちょっとこれ大丈夫なの!?」
 途端、あっさりとテレビに釘付けになる凛。意外と単純である。
 まんまと敵の排除に成功したイリヤは、気を取り直して説明を再開した。
「実は昨日、ジャガイモと鶏肉が凄く安かったの。そこでこの二つに挑戦してみようと思ったんだけど……」
「どーでもいいから早く食べましょうよー! お腹空いたー!」
「タイガうるさい。……で、ね。やっぱりわたしは実力的にはまだまだシロウやリン、サクラには到底及ばない……悔しいけどそれは認めるわ。だからこそこうして自分に出来る範囲で……」
「うがー! 早く早くはーやーくー!!」
 安心したのも束の間、飢えた獣は“あかいあくま”すらも凌駕する強敵だった。こめかみのあたりをピクピクと痙攣させながら、それでも懸命に説明を続けようとするイリヤの姿はあまりにも健気だ。
 しかし、このままではいつまで少女の精神が保つかわからない。
 どんなに大人ぶっていても、イリヤはまだほんの少女なのだ。ならば、正義の味方である自分はどうするべきか……考えるまでもない。
「藤ねぇ、ちょっとだま……」
「ガオーーーーー!!!」
 無防備な顔面に、閃光のような右ストレート。正義は力尽きた。
「先輩! 先輩! しっかりしてください!」
「……でね、鶏の皮がパリッとするようにじっくりと中火にかけて……」
「うわ! これマズイわよ! 完全に呑み込まれちゃってるじゃない!?」
「……ああ、親父が手招きしてる……それにあれは……慎二?」
「うーがーーーーー!! 早くしないと死んじゃうーーーー!!!」
 衛宮邸の食卓は、今夜も賑やかだった。



「……C+ってとこね」
 イリヤ会心のPollo alla Diavola――若鶏の悪魔風――は、凛によってあっさりとそんな評価をくだされた。
「出来たてだったならBランクを超えてたでしょうに……惜しかったわね、イリヤ。まぁ、悪魔ッ子が作るから悪魔風というシャレの効かせ方はナイスだったわ」
 自分も悪魔と呼ばれていることなど完全に度外視した凛の言葉を聞いているのかいないのか、イリヤは憮然とした表情で黙々と箸を動かしている。折角の料理が冷めてしまったのも何もかも、原因は現在桜に三杯目のおかわりを要求している一匹の獣のせいだ、とばかりに。
 いかな暴走する大河でも、その目に涙をたたえてまで説明を続けようとするイリヤには結局勝てず、平謝りした後に一通りの説明が終わるまでかかった時間が約十分。それは料理が冷めてしまうには充分すぎる時間であった。
 ……イリヤの説明が長すぎたのも当然主たる原因の一つなのだが、ここでそのことを言及するのはあまりにも酷というものだろう。
「……今度からタイガのご飯は全部バター。それ以外無し」
「きゃー! バターはイヤーーーーッ!!」
 最大の弱点をつかれ、狼狽える虎。普段あれだけ走り回っているのだから、バターになる日はそう遠くないのかも知れない。
「いや、でも美味いよ、イリヤ。正直、たったの半年でここまで腕を上げるなんて思わなかった。間違いなく才能はある」
 骨付きの鶏もも肉は肉汁を閉じこめたまま程良くこんがり焼かれているし、ヴィシソワーズの方も冷やすことを考慮してしっかりと味付けがなされている。どちらも簡単な料理ではあるが、それだけに上手に作るのは難しいものだ。そういった意味では、今回のイリヤの料理は充分に及第点だったと言って良いだろう。
「……うんっ! えへへ……ありがとう、シロウ!」
 さっき泣いたカラスがもう笑った。ニコニコと箸を伸ばす姿はなんとも可愛らしい。
「ま、この調子なら次はBランクくらい軽いでしょ。努々精進する事ね」
「イリヤちゃんは本当に飲み込みが早くて。このままだと近いうちに洋食の腕前は抜かれちゃうかも知れません」
「うー……わたしだってイリヤちゃんのお料理は美味しいと思ってるもん」
 少女の笑顔に、勝るもの無し。結局の処、みんなイリヤには甘い。
 気まずい雰囲気はあっという間に払拭され、いつもと同じ食事風景。次第に口数は減り、イリヤの料理を全員で心ゆくまで堪能していく。
 今の士郎には、その光景を素直に自分の幸せとして捉えることが出来る。以前のように、自分が幸せになることを否定してまで他人のために生きようなどとは思わない。自分も含めて、全ての人々に幸あらんことを――そう思えるのが今の衛宮士郎なのだが、それなのに、彼に幸せを気付かせてくれた少女はもういない。
 最も幸せにしたい女性が隣に居らず、彼女が居ない限りは自分もまた最上の幸福には届かない。しかし、その結果として今の幸福を幸福であると認識できる自分があるという矛盾。
 だが、そこに未練など無い。
 自分の決めた生き方に後悔などしないと、そう誓うことが出来る人間であったればこそ互いを愛したのだから。
 それでも募る淋しさは、愛した記憶がこんなにも強く、確かに、心の中に息づいているから。
(でも、俺はちゃんと笑えているよな、セイバー)
 笑えているのなら、きっとそれでいい。
 あの日の黄金の朝焼けが、笑顔で締め括られた別れが胸にある限り、自分は笑い続けていられるだろう。
 再び逢うことなどかなわない。けれど、もし万が一もう一度彼女と逢うことを赦されたなら、その時は、きっと二人笑顔でお互いを迎えられるように、と。



「ふー。ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
「ごちそうさまです。あ、先輩、片づけはわたしが……」
「ごちそうさま。いや、片付けくらいさせてくれ」
「ごちそうさまー!」
 デザートに用意されていたプリンを食べ終え、腹ごなしの談笑タイム。士郎と桜は後片づけのために台所に立ち、テレビの前ではいつも通り何も発見することなく終わった藤岡弘探検隊に、イリヤ、大河、凛が憤懣やるかたなく苦情を並べ立てている。
「そもそも未開の地の原住民だってふれ込みなのに、腕には時計の跡があるのがおかしいのよ」
「道にはタイヤの跡もあるし」
「行きにはあったはずの底なし沼が、帰りには消えてるしね」
 よくもまぁそんな細かいところまで見ているものだ。しつこい油汚れを丁寧に洗い落としながら、士郎は感心した。
 元来、あまりテレビを見る質ではなかったし、一つの番組をそこまで熱心に見入る事など滅多にない。必要な情報は新聞から、もしくは友人との会話から、というのが士郎の質だった。
 そんなわけで、士郎の意識は居間でテレビを見ている三人から洗い物の方へと完全にシフトしてしまった。そのせいで、とても重大な問題を聞き漏らしてしまう事など気付かずに。



 九時のニュース。
 その内容に、凛とイリヤは思わず見入っていた。
「近頃何もなかったって言うのに、また変な事件か……物騒ねぇ。遠坂さんもイリヤちゃんも、気をつけなきゃ駄目よ?」
 真剣な、大人としての表情でそう語りかけてくる大河の言葉も今の二人には聞こえない。ただ、画面の中でその奇妙な事件の内容を淡々と読み上げるニュースキャスターに意識を集中するのみだった。

『――えー、現場には被害者の姿らしきものは無く、多量の血液と、衣類の一部切れ端と思われるものが散乱しているのみで、警察側としては何らかの事件があったものとして、全力で被害者の捜索を――』




◆    ◆    ◆





「イリヤ、あなたはどう思う?」
「ゾウケンね。間違いないわ」
 目的語のない凛の問いかけに、イリヤは何でもないことのようにさらっと答えを口にした。無論、凛としても答えなどわかりきっている。この質問は、単に確認のためにしただけの形式的なものに過ぎない。
 衛宮邸の離れに幾つかある客間。その中でも、この部屋は半年前の聖杯戦争以来頻繁に宿泊する凛の部屋となりかけていた。もっとも、数日分の着替えも常備してあるあたり、なりかけどころの話ではないのかも知れないが。
『なんだか疲れちゃったし、今夜は泊まっていくわ』
『あ、リンが泊まるならわたしも泊まるー!』
 二人がこんな事を言い出すのも今に始まったことではなく、別に珍しくも何ともない。以前は保護者として断固自分も一緒の時でなければ駄目だと言い張っていた大河も、最近では家族意識が強まってきたためか特に何も言わなくなった。
 これは男としての士郎が女性陣に完璧に舐められているからだとか、そう言うわけではない。……はずである。
 ちなみに、夏休みとは言え弓道部は当然の如く活動しているため、桜は滅多なことでは泊まってはいかない。一晩中女の子同士の話に花を咲かせた後に部活では、体が保たないからだ。そのことに加えて、ニュースの際に士郎と桜が洗い物をしていたのは凛とイリヤにとっては好都合だった。
 今回の問題にあの二人を関わらせると、色々と厄介なことになりかねない。士郎はあくまで桜側の事情は知らないのだし、今後も知られるわけにはいかないのだから当然として、桜にしてみても、凛の入念なチェックの結果意識や身体を乗っ取られる系統の蟲を寄生させられたりはしていないようだったが、それとて専門ではないのだから確たる自信があるわけではない。実際に臓硯を前にした時、桜に何が起こるかはわからないのだ。
 ああいった類の事件だし、どんなに誤魔化そうともすぐに気付かれてしまう事は明白だが、こうして予め二人っきりで対策を練る時間を持てただけでも幸運だったと言えるだろう。
「それにしても、どうして今頃になってあんなわかりやすい証拠を現場に残したのだか……」
 死体は欠片も残さずに、血液や衣類だけをわざわざ残すようなおそらくは食事であろう行為。そのあまりにも中途半端なやり口は、隠そうと思えば全て隠せる者が敢えて作為的にそう残したメッセージだ。今の冬木市で、そんなことをする奴は一人しかいない。
「宣戦布告でしょうね。頭まで蟲に成り下がっちゃったヨーカイジジイの考えそうなことよ。最近は監視用の蟲もあからさまに飛ばしてたし」
 間桐臓硯――五百年の時を生き長らえてきたこの大魔術師の動向を、アインツベルンは常に注意深く監視してきた。聖杯戦争においては、ある意味他のどんなマスターやサーヴァントよりも気をつけなければならない存在として。
 しかし、五百年だ。五百年もただ生き延びるためだけに生き延びてきた、そんな男である。そのあざとさ、周到さ、綿密さ緻密さは計り知れない。時の流れの果て、いかに脳が、魂が摩耗しようとも、彼は生き延びることに関してだけは常に超一級の大魔術師なのだ。
 しかも、ここ数十年は完全に引き籠もってしまっていたため、アインツベルンとしても正確な動向を把握できていたわけではない。加えて言うなら、もしこの半年の間に何か判明していたとしても、本人の思惑はどうあれ今やアインツベルンを離反したも同然のイリヤにはそれを知る術がない。
「あいつにはきっと今までにない自信があるのよ。で、多分その自信は今のこの冬木市の異常な魔力濃度からきてる」
「でも、確かに魔力濃度の高さだけで言うなら聖杯戦争直前くらいまで高まってはいるけど、まだそれが大聖杯の方に集束されきってるわけじゃないでしょ? どんなに少なくともあと数ヶ月……いいえ、半年は必要なはずよ」
 凛のその見立ては正しい。いかに土地全体に魔力が満ちていようとも、それらの魔力が大聖杯へと集束、吸収され、サーヴァント召還に必要なモノへと変換されるにはそれなりに時間がかかってしまう。今の状態で無理矢理にサーヴァントを召還しようと思っても、出来損ないの亡霊や亡者を引き寄せてしまうのが関の山だろう。
 だが、半年前も表舞台へは現れず、戯れに桜と慎二を使うだけで本人は傍観に徹していた怪老がここまで明確に意思表示をしてきたのだ。起こってからでは遅い何かを絶対に起こそうとしているに違いない。
 沈黙が事態の深刻さを物語る。
 悠長にはしていられない。協会や教会をあてにしていたら、それこそ手遅れになる。それに何より、これは遠坂とアインツベルンが片付けなければならない問題だ。両家の名を継ぐ者としての誇りが、他の介入をよしとしない。
「……どちらにしろ、早急にケリをつけなきゃ駄目って事か。イリヤ、少し無理をすることになるけど、我慢なさいよ?」
 元より覚悟の上。
 凛から言われなければ、勝手にやっていたところだ。
 返事の代わりに静かに目を瞑り、イリヤは以前とは違う自分の魔術回路に意識を集中する。
 懐かしい、なのに初めての感覚。。
 その小さな全身を、氷雪に切り裂かれていくような痛みが走る。
 長い、しかし絶望的なまでに時間の足りない夜が始まろうとしていた。





〜to be Continued〜






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